第36話 Calling
『もしもし』
「……」
『あれ、繋がってないのかな。これ
「聞こえてるよ。ごめん、着拒されてたから
『はは、だよね。もう解除したよ』
「元気にしてたか。ちゃんと飯食ってんのか。姉ちゃんたちと何か話したか。そうだ、学校はどうしたんだよ」
『はいはいはい、ちょっとストップ。いっぺんに言われてもどれから答えたらいいのかわかんないし』
「あー……ごめん」
「ごめんじゃない言葉を聞きたいな」
「そうだよな、ごめん」
『ほら、またごめんって言った。次言ったら切るからね』
「せっかく着拒解除してもらったのに、それはちょっと勘弁して。出来るだけ気を付けるから」
「ん」
「……元気にしてたか。て、俺が言うなって話だけど」
『本当だよ。よりにもよって雨の日にあんな話することなくない? 僕、びっちゃびちゃで帰ったんだからね。風邪ひかなかったのは奇跡だよ』
「いや、それもそうなんだけど、8月いっぱいまでは続けるって言った癖に、破るようなことになったから」
『どうせ花ちゃんが何か言ったんでしょ』
「姉ちゃんから聞いたのか」
『直接は聞いてないけど、あの日、朝起きたら花ちゃんがいなかったんだよね。父さんも父さんでやたら僕に葉くんのこと聞いてくるから、あ、これは父さんと花ちゃんの間で僕と葉くんについて何か話が上がったんだなと思って』
「水族館から帰って来た時のお前の様子が変だったって、姉ちゃん言ってたぞ」
『そうなの? あれかな、僕のこと好きなのに終わらせないと曲が書けないとか、葉くんが意味わかんないこと言うから『何でだよ』て凹んでたからかも』
「お前、あの時そんな風に思ってたのかよ」
『思うでしょ、そりゃ。ずっと好きだったヒトから好きって言ってもらえたんだよ。もうそれ両想いってことじゃん。だったら恋愛ごっこも無期限延長にしようよってなるのが普通なのに、やっぱり葉くんはひどいなぁと思ったよ』
「あー……無期限延長ね。なるほど、その考えは全く出てこなかったな」
『僕の前ではちゃんとした大人でいようとしてくれたのかもだけど、あのタイミングでそんなの求めてなかったし、葉くんの頭の中にある正しい大人像みたいなものも僕じゃ壊せないのかって、ちょっと落ち込んだよね』
「世間一般が言うところの正しさなんて、俺の中ではだいぶ崩れてたけどな」
『申し訳ないけど全然だったよ。どこの岩盤って思うぐらい固かったもん。まぁ、そういうのとか色々考えてたらなんか腹が立ってきてさ。だったら外堀から埋めてみようと思って、父さんに言ったんだよ」
「何を」
『葉くんとお試しで付き合ってるって』
「おいおいおい! ちょ、おま、言い方……いやまぁ、そう言えなくもないけど、それにしたってお試しって言葉は……えー……?」
『動揺してる?』
「してる。めちゃくちゃしてるわ。お前が目の前にいたら頭はたいてるぞ。もうそれすんごい感じ悪いじゃん、俺。自分の息子を
『葉くんが頭抱えてる姿を想像してるけど、合ってるかな』
「大正解だよ」
『父さんさ、一瞬動きが止まってびっくりしてたけど、その後は僕の話を聞こうとしてくれたんだよね』
「そうなのか」
『花ちゃんも帰って来てから僕と話したいって言うし、じゃあもう全員思ってることを話そうってなって。今まであんな風に3人で顔見ながら話すことなんてなかったから、新鮮だったなぁ』
「
『んー、多分』
「多分て」
『だって急にセッティングされても困るって思ったのも本音だし。あ、でも僕が男の人しか好きになれないことは、二人とも分かってたっぽい』
「姉ちゃんもそんなようなことは言ってたよ」
『やっぱバレてたんだね。花ちゃん鋭いなぁ』
「学校に行けなくなった理由も話したのか」
『うん。ふたりともめちゃくちゃショック受けてた。花ちゃんなんて『うちの子を何だと思ってんの!』て、その子の家に乗り込むんじゃないかって勢いで怒り狂うし、ちょっと大変だったな』
「そのテンション、想像出来るわ」
『父さんと2人で止めたけど、父さんだって手が震えてたしね。その後、父さんも花ちゃんも僕のこと羽交い絞めかってぐらいの力で抱き締めてくれて、泣きながら謝ってくるんだよ。別に2人は何も悪くないのにね』
「親として気付けなかった不甲斐なさに対してだろ」
『自分の親が怒ったり泣いたりしながら、僕のことをぎゅうぎゅうにしてるところを想像したら、何か段々面白くなってきちゃってさ。もういいかって思えたんだ』
「……そうか」
『結局、高校のことも花ちゃんが『そんな子たちがいるところ、行く必要ない!』て退学届を叩きつけてさ。恰好良かったなぁ、あれは』
「分かる。俺も姉ちゃんのそういうところ
『葉くんにも見習って欲しいよ』
「んー、努力する。じゃあ、今はお前、どうしてんの」
『別のところに通うことも考えたけど、今は通信制の高校で勉強してるよ。どの科目の単位を取るかとか自分であれこれ決められるし、学校に行く日も週1とか週3とか選べるのが僕には合ってたみたい』
「楽しく通えてるんだな」
『うん、楽しいよ。あ、そうそう。それでさ、葉くん』
「何」
『僕と葉くんの話に戻るんだけどさ』
「うん」
『父さんと花ちゃんに言われたんだよ。僕が大学を卒業したら色々好きにしていいって』
「好きにしていいとは」
『だから、僕が葉くんと付き合おうが、今の家を出て葉くんのとこで一緒に住もうが自由にしていいってこと」
「俺のいないところで、そんな話になってんのかよ」
『そうだよ。葉くんがいることで僕がいかに頑張れるか、葉くんという存在の素晴らしさについて、身振り手振りを交えながら真剣にプレゼンしたからね』
「それ、見たいような見たくないような複雑な気分だわ」
『まぁ、認めてもらったって意味ではプレゼン成功になるんだろうけど、条件があるって言われた』
「条件?」
『大学卒業するまでは、会っちゃダメって』
「お前、急に箱入りになったな……」
『ね。今まで散々葉くんのとこに行きまくっても何も言わなかったのに今更何でって僕も思ったんだけどさ、花ちゃんが言うんだよ。『今までずっと葉ちゃんのところにいて、この先も葉ちゃんと生きるのなら、せめて大学を卒業するまでの時間は私たちと過ごして、たくさん話そう』て』
「……そうか」
『そんなこと言われたら、もう条件呑むしかないじゃん。そういう訳でさ、葉くん』
「ん」
『あんなに『逢いたい』て言ってくれたのに、会えるのはもう少し先になりそう。ごめん』
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