第26話 健康と、自意識過剰

最近頭痛が出るようになった。

これは自意識過剰としては結構、貴重な体験である。ストレスがすべて胃に来るタイプの人生をこれまで送ってきたが、どうも胃では抱えきれなくなったと脳が判断したのか、はたまた胃痛では効果がないと踏んだのか、最近もっぱら頭が痛む。


頭痛の経験はほぼない。

これまでまともに痛んだことなど、本当に片手で数えるほどしか思い出せない。

だからか、新しくできた頭痛という習慣性の痛みは、とてもつらい。


始まりはいつも突然で、異常は視界に来る。

万華鏡を覗き込んだようなチカチカが、まっさきに現れるのだ。視界に異常を感じ、あちこちに目を動かしてみる、しかしチカチカは消えない。

初めてチカチカを見たときは、あまりにも現実とは思えず怖すぎて異世界転生するのかと思った(初めて立ちくらみした際も、自分はこのまま意識を失い異世界転生するのだと思った。普通にそんなはずもなかった)。


チカチカは視界の真ん中に出ることもあれば、左隅、右上など自由気ままに出てくる。上手く透過してくれればまだいいのだが、チカチカによって視界が1部欠けてしまうことがシンプルに恐ろしい。本は読めなくなるし、階段は踏み外しそうになるし、まともに動けなくなるのだ。そのたび、目の大切さを実感する。


そしてチカチカが数十分続くと、お待たせしましたとばかりに頭痛が襲ってくる。動けなくなるほどではないものの、それなりに痛い。目の前のことに集中できなかったり、頭痛によって自意識過剰の精神状態が悪化し、吐き気をもよおしたりする。シンプルにつらい。薬を飲んで、早く治まれと願いながら横になる。執筆について思いをめぐらせながら目をつむり、寝ると少し良くなる。

問題なのは家以外にいるときで、こうなるともう我慢比べである。薬を飲んでもすぐには効かないし、脳内で自分をなだめながら目の前のアレコレを手早く片付けつつ祈る。とにかく祈る。


自意識過剰は、小さい頃から痛みに弱い人間もどきだった。胃がめちゃくちゃ弱い家系のサラブレッドとして生まれ、何かにつけて胃が荒れる人生を送ってきた。人間の文明が発達したおかげで、面接など緊張が前もって予測される日には強めの胃薬を飲むことでどうにか耐えてきた。


ところが、ここで頭痛である。

原因に思い当たる節はない。ストレスを感じたならば胃に来るはずだし、さすがに頭痛のみを引き起こすウイルスはないはずだし。となれば、これまで胃に来ていたストレスの表現が、頭で行われるようになったということなのだろう。


なんて迷惑なシステムアップデートなんだ。

自意識過剰は愕然とした。


しかし、見方を変えればシステムアップデートで仕様を変えなければいけないほど、自分の体にはストレスがかかっているのかもしれない。

そしてよくよく考えれば、これまでストレスに対して胃痛程度で済んでいたのがおかしいのであって、頭痛はある意味「普通」に近づいた証左かもしれない。なんにせよ、近々検査を受けます。


頭痛の概念は以前からあったが、まさか自分がそれに慢性的に悩まされることになるとは思わなかった。世の中の偏頭痛を経験している先輩方には心から尊敬するし、それに向き合いながら生きているのは本当にすごい。自意識過剰は自分の心の井戸ばかり眺め回して、他人に目を向けられない悪習がある。頭痛は「自分の不幸にばかり目を向けないで、他人をよく見なさい」と言いたいのかもしれない、などと考えてみた。頭痛が実際のところどう思っているのかは真偽不明である。


まだまだ先が長い(と言われがちな)人生。

少なくとも毎日しっかり寝て食べようと、自意識過剰は決意を改めた。おまけにストレス発散も、と言いたいが、いまだに自分の感情は行方知れず。少しずつ、理解できるよう尽力したい。


なんにせよ、健康がいちばん大事である。

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