魔物の王たる魔王様、テイマーになったらだいぶチートでした ~魔物の王が魔物を使役したら反則だし、なんなら魔物使わなくても最強な件~
純クロン
第1話 お忍び
「マノンさん、今日はGランクの薬草採取のクエストですね。魔物にはお気を付けください」
「ありがとうございます。もし出会ったら逃げますよ」
冒険者ギルドの受付嬢に頭を下げてから、俺は冒険者ギルドから出ていこうとする。
『待ってー』
後ろからはポヨンポヨンとスライム種のメルが追いかけて来た。
それを見てか併設された酒場のほうから嘲笑の声が聞こえてくる。
「ぷっ。見ろよ、スライムをテイムしてるテイマーがいるぜ」
「テイマーは魔物連れてないと戦力外だが、あんな雑魚魔物いない方がマシだろ!」
「つまりあのテイマーも存在価値なしの弱さだな! 弱いのに冒険者になんてなるなよなー! だから薬草採取の仕事しか出来ないんだよ! Gランクのゴミテイマーがよ!」
どうやらメルを見て俺を馬鹿にしているのか。
あんな愚か者たちの声に反応するのも時間のムダなので、俺たちはさっさと冒険者ギルドを出た。
そして街を出て周囲に誰もいないのを確認すると。
「メル。あんな奴らのことは聞き流すんだぞ? お前が少しでも力を見せたら、弱い人間なんて肉片にしちゃうからな」
『はーい』
このメルはスライム種ではあるが普通のスライムではない。
サウザンメルトスライム。メルトスライムという一体で都市を滅ぼすスライムが、さらに千体ほど合体して生まれる魔物だ。
当然ながら強い、めちゃくちゃ強い。国家単位で対策しないと相手にならないくらいには。
メルにとってあんなゴロツキなんてエサ、もしくは気が付いたら踏みつぶしているアリくらいの存在だろう。
ではなんでそんな強い魔物をGランクテイマーである俺が連れているのかと言うと。
『魔王様ー。早くいこー。フェニも待ってるよー』
「わかったわかった。すぐに行くよ」
俺はお忍びで人間の国にやってきてテイマーに扮している魔王だからだ。
👑👑👑
👾👾👾
魔王は多くのゲームやアニメで登場するラスボスだ。その力は人智を超え、選ばれし勇者にしか倒せない絶対的な存在。
だがそもそも魔王とはなんなのか。国王なら国の王、帝王なら帝国の王、では魔王は?
俺は気になってネットで調べたことがあるのだが魔物の王、悪魔の王、天魔の王と出てきた。
つまりなにかの魔の王だろう。当時大学生だった俺はそう思って調べるのをやめた。
そしていま俺は玉座に座って内心でため息をついている。漆黒のマントを身に纏って、鎧をつけて偉そうに。
目の前にいるのは竜の鱗を持った人型であるリザードマンや、巨大なカマキリの魔物であるカマキリングだ。どちらも魔物である。
「魔王様! もう我慢なりません! 憎き人間どもを滅ぼしましょう!」
「奴らは魔王国の国境を何度も踏み入れています! そんな人間は殺して殺して殺しまくりましょう!」
「お前たちの言い分は覚えておく。下がれ」
「ありがとうございます! いますぐ滅ぼしにかかります!」
「覚えておくって言っただけだろうが! やめんか!」
リザードマンやカマキリングを下がらせると大きくため息をついてしまう。
魔物たちはものすごい過激だ。日本でも過激な人間はいたがそんな次元の話ではない。魔物たちには準備なんて言葉はなく即断即決で物事が決まってしまう。
やると決めたらやるし、殺ると決めたらもう殺ってる。考えるより先に動いてるどころの話じゃない。
「はー……」
「魔王様、ため息なんてついたらダメですよ」
バサバサと翼をはばたかせて近づいてきたのは巨大な氷の鳳凰だ。地球ではまずありえない存在だろう。
「フェニか。流石に過激な奴らが多すぎてついな」
そんな彼女の名前はフェニ。【氷の不死鳥】と呼ばれる存在にして魔王たる俺の右腕だ。
俺は地球とは違う異世界で魔王の息子に転生した。
この世界における魔王とは魔物の王だ。全ての魔物の頂上に君臨する者ではあるが、ゲームの魔王みたいに世界を支配するわけではない。
というか魔物側に人間を支配するメリットがない。せいぜい土地が広く使えるくらいだが今の魔王国の土地で事足りているし。
ともかく俺は前魔王である親父の子供として生まれて、十五年ほど地獄の訓練と勉学に励まされて無事に魔王の座を受け継いだ。
まさか自分が魔王になるとは思わなかったな。人生とは本当にわからないものである。
「ここ二十年ほどで人間と魔物の争いが活発になってます。特に最近は酷いです。魔王国の東隣に位置するティマイラ王国の人間が、国境付近で我ら魔物を捕らえ始めているようにも」
「うーむ。魔物たちが怒るのも無理はないか」
「ですねえ。ちょっとくらい反撃してはいかがですか?」
「そのまま全面戦争になりかねないしなあ」
俺とフェニは互いにうんうんと頷いた。
これまでは魔王国と人間の国は相互不可侵だったのだが、最近は人間側が魔王国に入りだしたのだ。そして魔物を捕獲していると聞く。
このままだと魔物たちは激怒して人間の国に攻めていくだろう。そうすると人間は十年くらいで滅ぶ。
はっきり言うが魔王国の戦力は、人間の国家全部合わせた戦力の数十倍の強さを持っている。例えば人間が千人がかりでも倒せないドラゴンで、編隊を組んで国を襲い続ければまず負けない。
人間にも一部強い奴はいるようだが、そいつらも強い魔物一体に対して五人がかりで戦う奴ばかりだ。
よくある勇者、ヒーラー、魔法使いみたいなパーティーとか。ならこっちも五体の強い魔物で組ませて戦わせれば確実に勝てる。
だが人間を滅ぼす魔王となるのは俺の望むところではない。人間大虐殺の指揮をとるなんてごめんだし、大勢の人に恨まれることを考えるとしんどい。
しかしいちおうは危険地帯のはずなのに、わざわざ入って来る奴がいるのもよくわからない。それに魔物を捕らえるというのも謎だ。
魔物を殺して素材を得るのなら理解はできる。だが捕縛したところで魔物は言うことも聞かないし無意味にしか思えないのだ。
人間にはテイマーという魔物を扱う職業もあるが、野生の魔物を捕まえるのではなく心を通わせて仲良くなっている。なので無理やり捕まえた魔物は扱えないだろう。
「やはり俺が動くしかないな。これよりお忍びで人間の世界に向かい、なぜ不可侵地域に入って来るのかを確認してみよう」
「そんなこと言って人の世界に行きたいだけじゃないですか?」
「そ、そんなわけないだろう! これも魔王の責務だ!」
決して俺が人肌恋しいとか、人間の世界で美味しいもの食べたいとかではないぞ。
もちろん人の街に向かう以上、結果的に街をうろついたり食事を取ることにはなるが。
「まあいいですけどねー。ならボクもついていきますよ。この姿なら目立たないでしょう?」
フェニの不死なる氷の身体が崩れていき、ボーイッシュな少女の姿になる。
彼女は人間形態にもなれるのだ。不死鳥ってすごい。
「よしじゃあ行く……」
『待ってー』
俺が玉座から立ち上がると同時に、ポヨンポヨンと人の頭ほどの大きさのスライムが跳ねて来た。
「メルじゃないか。どうしたんだ?」
このスライムの名前はメル。一見するとただのスライムに見えるが実際はメルトサウザンスライムという魔物だ。
彼女は『国喰らい』と呼ばれていて、見た目に反して結構危険だったりする。我が魔王軍四天王の一角でもあるし。
ちなみにメルは口や舌を持たないので言葉を発することができない。俺が彼女の言葉を理解できるのは、スライム特有の超音波を聞き取っているだけに過ぎない。
『魔王たまについていくー。ここ暇ー』
ただメルは喋るのが下手のようでたまにサ行がタ行になる。例えばササの葉をタタの葉と言ったりする。
「じゃあ一緒に行くか。ただ山とか食べたらダメだからな」
『わーい。じゃあメルも人の姿になるねー』
メルの形が変わっていきクマの人形でも抱えてそうな幼い少女の姿になる。
でもすぐにドロッと崩れてしまった。
『あー。人の形を保つの難しいー。フェニー、次に人の形になったら凍らせてー』
なんて荒業だろうか。冷凍庫にいれる製氷皿を思い出してしまった。ほらキャラクターの形してて水を入れて凍らせるやつ。
「わかった! ボクに任せて!」
「待て待て。そこまでしなくてもメルはそのままでいいよ」
メルの見た目は普通のスライムだから、人間の世界に紛れ込んでも大丈夫だろう。仮にダメならその時考えよう。
「よしこれからお忍びで人の街へ向かうぞ!」
『「おー!」』
👾ノ=👑
👾ノ=👑
こうして俺たちは視察という名目で、Gランクテイマーのマノンとして人間の街へと紛れ込んでいた。
どうやって紛れ込むか考えた結果、せっかくなので能力を活かそうということでテイマーに扮することにしたのだ。我ながら適職だと思う。
「魔王様ー! お待たせしました!」
街で調べものをしていたフェニが、人間形態で走って追いついてきた。
「じゃあ行くか。まずは薬草を採取しに行くぞ!」
「魔王様のやることじゃないですよ。配下の魔物を呼んでやらせましょう」
「いや今の俺はGランクテイマーのマノンだから」
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