第23話 一歩目で躓いちゃったのだが

 そうだ、王都行こう。

 計画を動かす準備は済んだ。カフクの新章、幕開けなり。

 アドバンスの街にさよならバイバイ。俺は一人で旅に出る。ぼっちー(合いの手)っ!


 人の往来が疎らな早朝。

 そよ風に髪を弄ばれながら、入口のアーチ前で堂々と立っていた俺。


「変な奴が多いけれど、退屈しない街だったぜ。あばよッ」


 心もカバンも足取りも。全てが軽かった。

 バックパッカーの重量調整スキルでさえ、これほど腰に優しくない。

 正直、名残惜しい気持ちはある。見送りゼロ、いやぁー悲しいッス。

 さりとて、己が選んだ道だ。身の丈に合った生活を励むがいいさ。


 当面の目的、なろう系とお近づき。幼馴染との再会は、大目標に設定しておくか。

 勇者ナギサの冒険譚・第一部魔王討伐編。

 これが終わるまで、ナギサの邪魔はできん。第二部ダークシーカー編で会おう!

 俺が新たな旅立ちの一歩を踏み出したタイミング。


「カフクくん……っ! もう、やっと見つけたじゃん」


 知り合いの声が聞こえた気がする。幻聴だ。

 あいにく手持ちが少なく、馬車を借りるゴールドを節約しないと。どれだけ勇者パの恩恵にあずかっていか、身に染みるぞ。途中の町まで徒歩だぜ、トホホ!

 バトル職じゃないが、弱いモンスターなら倒せる。素材や換金アイテムを稼ぎつつ、次の町へ向かっていく。まるで、RPGだな。


「ほぉ~、いいじゃないか。こういうのでいいんだよ、こういうので」


 できれば、記憶喪失にならず初手俺TUEEEがやりたかった。

 ないものねだりを打ち切って、俺は新人冒険者の気分で胸を高鳴らせ――


「ねーってば、無視ひどいじゃん! 人でなしかにゃ?」


 パーカー姿の猫目が頬を膨らませ、行く手を塞いだ。


「さては、新人潰しか? 若い芽を摘むんじゃない」

「全然若くないよ! 君、ボクより年上じゃんか」

「イラッ」


 初めてだよ。イラッと言いながら、イラッとしたの。

 俺はクソデカ溜息を吐くや、知り合いの相手をすることに。


「あなたは、勇者パーティーのミューさん!? すごい本物だ! 自分、応援してます! 頑張ってください! それじゃ!」

「こらこらこら。ちょいちょいちょい。待つんだ、カフクくん」


 隣をすり抜けた途端、肩をしっかり掴まれた。


「つれない態度は照れ隠しかな? ボクたち、好敵手だった仲じゃないか」

「いや、実力差がダンチだった」

「あ、ごめん。圧勝しちゃったね」


 そして、ドヤ顔である。

 言葉に気を付けろよ? 俺がチート無双主人公だったら、今のでワンパンやで?

 残念、チート系でも主人公の資質なし。

 ちょっと気分を害された程度で、転生特典のスキルで相手を叩きのめすムーブをせずに済んだぜ。全肯定過激派のイキりって、シンプルに苦手です。


「ミュー。俺はあんま気にしないけどさ、入れ替え戦で打ち負かした相手にへらへら絡むのやめなさい。お前の品格が問われるゆえ」

「もちろん、君だから大事の後でも気軽に話しかけられるんじゃん。ひょっとして……そのキャラは配慮が一周回った結果かにゃ?」

「あ、違います」


 いや、ほんと。リアルガチで、真顔で言い放つ。

 気遣うならば、如何にナギサの足を引っ張らないか。その一点のみ。


「俺は実力不足を痛感したからな。心機一転、一から修行のやり直しさ」

「嘘ばっかり。カフクくんは一度こっぴどくやられたくらいで、殊勝な態度なんて示さないよ。間違いないじゃん」

「た、確かに、俺の誇りはプライドの無さ。そこに誉れもないカフクでした」


 うっかり納得しちゃったぜ。自尊心、どこに置き忘れたのかしら?


「いやさ、俺も新章突入なんだ。出鼻をくじかないでくれ。別れの挨拶など不要。ミューの華々しい活躍、俺がいる遠方まで轟かせてくれ」


 勇者パの尾ひれ背びれが付いた噂話を肴に、日々の安酒を嗜む。

 ……フ、懐かしい。わしも若い頃、あいつらと幾多の修羅場を潜り抜けたもんじゃ。

 身の丈生活に馴染んだ俺のささやかな趣味なり。何年後を想定?


 最後に、ミューへ無言で目配せを送った。

 アドバンスの街を一度仰ぐや、踵を返した俺。


「今、勇者パーティーは最大の危機を迎えている! 君の力が必要だ!」

「杞憂だな。我らが勇者は必ず困難を乗り越える。真のヒーローは伊達じゃない」


 新参者はまだ、ナギサをただのギフテッド持ちと過小評価している。

 あまり見くびってくれるな。

 俺の幼馴染が真価を発揮する時、全て一人で事足りてしまう。

 パーティー概念の崩壊。ある意味、最大の危機である。


「解散したくなきゃ、ナギサ頼みを控えなさい。お前の才能だって、凄いんだから」


 持たざる者の忠告ほど軽いものはない。

 きっと、彼女には何も響かない。所詮、先輩の厄介なアドバイスさ。

 これが最後の会話と思えばついペラペラと。仕方がないね。

 俺は手を振りながら、足早にこの場を後に――


「ナギサくんがダンジョンに取り残された」


 ピタッと、足が地面に張り付いた。


「君が発見したバラエティ遺跡の新エリア。そこの探索中、ボクたちを庇ってナギサくんはトラップに引っかかったじゃん」

「部外者に語ってどうなる? そんな暇があるなら、さっさと迎えに行け。三人で無理なら、捜索隊を派遣すればいい。ナギサはギルドにとっても重要人物だ。躊躇するな、無能はカフクで終わらせただろ。お前ら、勇者を支える仲間じゃないのか!?」


 足手まといがダンジョンに置いていかれるのは分かる。それなら俺の出番ゆえ。

 怒気をはらんだ声を荒らげ、ハッとした俺。やべ、やっちまった。


「ナギサくんから伝言があるよ」


 睨みを利かせた俺に怯まず、ミューは自分の役目を全うする。


「「ミューさんの歓迎会を兼ねた新エリア制覇の宴、カフクが仕切ってくれるかい?」だってさ。随分余裕な感じかな?」

「……」


 呆れるミューをよそに、俺はナギサのメッセージを受け取った。

 いちいち、助けなんて請わない。当然の話だから。

 どうやら、単純な実力の問題にあらず。特殊条件ありっぽい。

 別に、荷物持ちは迷子探しなど請け負ってないのだが。


「迎えに行くのはオメーの務めでしょうに。頼むで、リーダー」


 俺は落胆しながら、両手を大きく広げるのであった。

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