第46話「お願いがあるのですが」

 土曜日、俺は家でのんびりしていた。


 やることもないのでゲームをのんびりと進めていた……のだが、ふと来月の模試のことを思い出した。

 そうだ、一応テストなんだ。順位とかもつくはず。琴音さんみたいにトップオブトップになるのは無理でも、せめて学年の半分以上にはなりたい。

 そう思った俺は、机に向かうことにした。


 二学期に入り、新しいことも学んでいる。

 内容も分かるような分からないような……自信がなかったので、昨日習った数学を復習してみる。


 ……うーん、教科書やタブレットで調べても、いまいちピンと来ないのは俺の理解力が乏しいからだろうか。琴音さんが一から教えてくれるときは理解できるんだけどなぁ。


 コンコン。


 そのとき、部屋の扉をノックする音が聞こえた。「はい」と言うと、母さんが入ってきた。


「大河、ジュースもらったから飲まない? って、勉強してたの?」

「ああ、ありがとう。うん、来月模試もあるから、それなりに勉強しておこうと思って」

「そうなのね、高校生も大変ねぇ。でも、あの勉強嫌いの大河がこうして机に向かっているのは、ちょっと不思議な感じがするわね」


 母さんがふふふと笑った。まぁそうだよな、今までそんなに勉強をしていなかっただけに、自分もちょっと不思議な感じがする。これもきっと琴音さんのおかげなんだよな。


「まぁ、やっと俺も勉強しておかないといけないことに気づいたというか」

「ふふふ、きっと琴音ちゃんに刺激されてるんだろうけど、いいことよ。勉強と遊び、どちらもやってこそ学生だわ。頑張ってね」


 母さんがそう言って部屋を出ていった。さて、俺は持ってきてくれたジュースを飲みながら、続きをやるかと思った。


 そのとき、俺のスマホが鳴った。通話がかかってきたみたいだ。画面を見ると『天乃原』とある。琴音さんがかけてきたのか。俺は通話に出る。


「もしもし」

「もしもし、あ、大河さんこんにちは」

「こんにちは、どうかした?」

「あ、いえ、大河さんが勉強をされているような気がしたので、嬉しくなってついかけてしまいました。すみません」


 あ、勉強をしていたことはやはりバレバレなのね……俺はスマホを持ったまま部屋を見回してみた……が、監視カメラのようなものは見当たらなかった。


「いえいえ、勉強をしていたのは当たりだよ。俺も頑張ろうと思って」

「それは素晴らしいですね。大河さんもやればできるのです。自信持ってくださいね」

「そうだね、ありがとう。琴音さんも勉強してた?」

「はい、予習復習は欠かさずやっていますので、今日も進めておこうと思いまして」


 さすがトップオブトップの琴音さんだな。俺なんかよりさらに意識が高い。負けられないなと思った。


「そっか、さすがだね」

「いえいえ、大したことはありません。大河さんは勉強進んでいますか?」

「うーん、それが分かったような分からないような、どうにも中途半端でね……」

「そうでしたか、私が近くにいればいいのですが……あ、そうだ」


 琴音さんが何かをひらめいたような声を出した。なんだろうと思っていると、


「明日、学校はお休みですが一緒に勉強しませんか? 分からないところは教えてあげますので」


 と、琴音さんは言った。


 な、なるほど、一緒に勉強か。琴音さんに頼ってしまうのは申し訳ないが、それもありかなと思った。


「あ、なるほど……うん、いいかもしれないね」

「はい。それで、お願いがあるのですが……」

「ん? お願い?」

「はい、また大河さんのお家に行かせてもらいたいのですが、ダメでしょうか?」


 ん? うちに来たいということか……なぜかは分からないけど、まぁそれでもいいかと思った俺は、


「ああ、うん、大丈夫だよ。来てもらうのはちょっと申し訳ないけど」


 と、返事をした。


「いえいえ、行くのは大丈夫です。ありがとうございます、それじゃあ明日行かせてもらいますね」

「うん、分かった、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 俺はペコリとお辞儀をした……が、この姿は琴音さんには見えない。毎回こんなことをしている気がするな。


「分からないところは、まとめておいてくださいね。なんでも訊いてもらえれば」

「うん、ありがとう。さすが琴音さんだね」

「いえいえ、あ、無事に勉強が終わったら、ゲームというものをやってみたいです」

「ああ、いいよ。一緒にやってみようか」

「ありがとうございます。なんだか楽しみになってきました。それじゃあまた明日です」

「うん、また明日」


 通話を終えた後、軽くうーんと背伸びをした俺は、琴音さんに訊きたいところをまとめておこうと思った。


 ……棚の上に、があることは、すっかり忘れていた。

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