第43話「ついに来ましたね」

 二学期最初の日は、淡々と進んでいく。

 全校集会があって校長先生の長い長いおは……じゃなかった、ありがたいお話があった。よくあんなに喋れるもんだなと、感心してしまう。


 その後、教室でホームルームがあって今日は解散……なのだが、


「――よし、新しい学期になったし、席替えでもしてみるか!」


 と、担任の先生が元気よく言った。


 ……ついに、ついに来てしまったのだ。席替えが。


 もちろん、ずっとこの窓際の一番前の席がいいとは思っていない。しかし、もうしばらくこのままでもいいなと思い始めていた自分もいる。

 なぜかというと、琴音さんが隣の席にいるからだ。せっかくここまでよく話すようになったのに、離れ離れになってまた入学当時の距離感になってしまったら……と思うと、席替えも素直に喜べなかった。


「……ついに来ましたね」


 俺の隣で琴音さんがぽつりとつぶやいた。来たというのは席替えのことだろう。


「……そうだね、ここでもいいなぁと思っていた自分がいるよ」

「私もです。せっかく大河さんとこうして話せるようになったのに、離れてしまうのは寂しいです。大河さん、元気に暮らしてくださいね」


 ……な、なんか琴音さんが遠くに行ってしまうような気持ちになったが、同じクラスというのは変わらないのだ。席が離れてしまっても、また話せる機会はあるはずだ。俺は心の中で『大丈夫』とつぶやいた。


「席の番号が書かれたくじを用意してきたから、出席番号順に男子、女子と交互に引いていってくれ」


 先生がそう言った。ということは、俺が一番最初に引いて、次に琴音さんが引くことになるのか。全ての席に可能性はあるとはいえ、また隣同士になるのはかなり低い確率に違いない。数学はよく分からないけど、たぶん。


 俺はごくりと唾を飲み込んで、くじを引きに行く。どこでもいい、いい席であってくれと願いながら――


「赤坂は引いたな、よし次ー」


 今度は琴音さんが立ち上がり、くじを引きに行く。頼む、俺の近くを引いてくれと琴音さんの後ろ姿を見ながら思っていた。


「……大河さん、一緒に開きませんか?」


 戻ってきた琴音さんが、俺に話しかけてきた。俺もまだくじの番号を見ていない。俺はコクリとうなずき、くじを琴音さんの方に出す。そしてそっと開いてみると――


「……あれ?」

「……あ、あれ?」


 教室がわいわいと盛り上がる中、琴音さんと俺は呆けたような声を出してしまった。そこに書かれてあった数字は『十一番』と『十二番』。ということは……?


「みんな引き終わったかな、番号は窓際から順になっているので、その席に移動してくれー」


 先生がそう言うと、みんなが立ち上がり話しながら席を移動する。俺の新しい席は窓際から二列目の後ろから二番目。今度は後ろの方になった。そして――


「やった、今度は大河さんの後ろですね」


 俺の後ろから声が聞こえる。そう、琴音さんが俺の後ろの席になったのだ。隣ではなくなったが、ご近所もご近所。これはかなりの確率なのではないだろうか。いや俺は数学が分からないけど。


「び、びっくりした、こんなことがあるもんなんだね」

「はい、私もびっくりしました。これは奇跡……いえ、私たちの日頃の行いがいいからなのでしょうね」


 琴音さんがニコッと笑った。

 後ろの席ということは、振り向くと琴音さんを正面から見ることになるわけで……その笑顔にドキッとしてしまった。


「……あれ? どうかしましたか?」

「ああ! い、いや、なんでもない……と、とにかく、また近い席になれて嬉しいよ」

「はい、私も嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします」


 琴音さんがぺこりとお辞儀をしたので、俺もお辞儀をする……なんだかおかしくて笑ってしまうと、琴音さんも笑っていた。


「……後ろから見る大河さんも、いいものですね」


 琴音さんが何かぽつりと言ったが、俺はよく聞き取れなかった。


「え?」

「いえ、なんでもありません。これで二学期も楽しくなりそうな気がします。あ、大河さんはこの後何かご予定がありますか?」

「ん? 特に予定はないけど……?」

「そうでしたか、そしたらあのハンバーガー屋さんに行きませんか? 私はまだ一回しか行ったことがなくて、興味がありまして」

「ああ、うん、いいよ、じゃあ終わったら行こうか」


 ちなみに、橋本は俺らの列の一番前の席になっていた。俺らのところにやって来た橋本は「なんでお前らまた揃ってるんだよぉ」と泣きそうな顔になっていた。


 確率がどうであれ、前後の席になったということは、また琴音さんと話す機会がありそうだ。二学期も楽しくなりそうだなと俺も思っていた。

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