第44話「お任せあれです」
始業式の次の日、さっそく授業が始まった。
最初は一学期の復習から入った。夏休みの課題と、自主的な勉強のおかげで、俺でもなんとかついていくことができた。これは嬉しいことだ。
ただ、これから先新しいことを学ぶとなると、ちょっと自信がない自分もいた。それでも、やれることをやっていけば一学期のような悲惨な状態にはならないはず……と今から願っている。
今日も午前中の授業が終わり、昼休みとなった。さてお弁当でも食べるかと思っていると、
「――大河さん」
と、後ろから声がした。振り向くと琴音さんが真面目な顔でこちらを見ていた。
「ん? どうかした?」
「あ、お昼なので、一緒に食べないかなと思いまして」
あ、なるほど、一緒にお昼を食べるということか。いつの間にかこれもお決まりのパターンとなったな。
「分かった、じゃあ机を後ろに向けるか……」
「あ、椅子だけで大丈夫ですよ。私の机で一緒に食べましょう」
ん? 椅子だけでいい……と?
でも、琴音さんの机を使わせてもらう……というのは、本当にいいのだろうか。
「え、い、いいのかな、琴音さんが狭くなってしまうのでは……」
「いえいえ、机を動かすのも面倒でしょう。私の心配はしなくて大丈夫ですよ」
「そ、そっか、じゃあお邪魔して……」
俺は椅子だけ動かして、琴音さんと向かい合うように座る……って、こ、これは、机一つ分なので、琴音さんとの距離が近いことに気がついた。綺麗で真面目な顔の琴音さんが目の前にいるような感覚だ。俺はちょっとドキッとしてしまった。
「……あれ? どうかしましたか?」
「あ、い、いや、なんでもない……食べようか」
「はい、いただきます」
琴音さんはいつも通りの赤いお弁当箱から、ウィンナーをひょいとつまんで食べる。美味しそうに食べる琴音さんをじっと見てしまった俺は変態だろうか。
「大河さんのお弁当も、美味しそうですね。そして量が多いです。さすが男の子ですね」
「あはは、まぁ俺も一応食べ盛りなのかもしれないね」
「そうですね。あ、そういえば来月のテストに向けて、これから頑張らないといけないですね」
……ん? 今、琴音さんは『来月の』テストと言った……?
たしか二学期の定期テストは十一月にあるから、まだまだ先なのだが……おかしいな、俺の聞き間違いかな。
「……ん? 来月のテスト……?」
「はい、来月初めにテストがあるじゃないですか」
「……え?」
「あれ? 大河さんもしかしてお忘れですか? 来月初めに全国統一の模擬試験があるのですよ。なんでも今年から一年生も受けるとか」
…………。
……えええええ!?
ら、来月初めに模擬試験……!? そ、そんな話、今まであったか……?
……あ、そういえば一学期のどこかでそんなことを先生が言っていたような気もするな……ということは、単純に俺が忘れていたということか。
…………。
……ま、まずい、非常にまずい。模擬試験とはいえテストはテストだ。こんなに早くテストがやって来るなんて。一学期のような悲惨な状態はなんとしても回避したい俺だが、さすがに自信がないぞ……。
「……さん、大河さん?」
そのとき、はっとして顔を上げると、琴音さんが覗き込むようにして俺を見ていた。しまった、ぼーっと考え事をしてしまったみたいだ。
「どうかしましたか? 話しかけても反応がなかったから、何かあったのかと」
「あ、ご、ごめん、テストのことすっかり忘れていて、ちょっとぼーっとしてしまった……」
「そうでしたか。忘れることは誰にでもあるのでいいのです」
「そ、そうかな、大事なことだし覚えておくのが普通では……」
「いえいえ、今気づけたのでいいのですよ」
琴音さんが優しくフォローしてくれる。ああ、琴音さんの優しさが身に染みる……。
「そ、そっか。やばいな、本当に頑張らないと……」
「大河さん、最近勉強するようになってきたと言ってましたよね。その勢いがあれば大丈夫ですよ」
「うーん、でもまだまだ分からないことも多いからなぁ」
「そんなときは私の出番です。なんでも訊いてくださいね」
琴音さんがぐっと力こぶを作るようなポーズを見せた。さすが琴音さん、勉強に関しては自信があるんだな……って、そのポーズもなんだか可愛く見えた。
「う、うん、また訊くことが多くなってしまうかも」
「お任せあれです。こうして近い席なので、いつでもいいですよ」
そう言った琴音さんは、ご飯をパクッと口にした。いかん、俺も手が止まっていたな、食べないと。
お弁当を食べながら、今度の模擬試験はどうなるのだろうかと、今からちょっとドキドキしている自分がいた。
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