第27話「私の家です」

 次の日、俺は天乃原さんの家に行くために、電車に乗っていた。


(うう、緊張する……天乃原さんのお父さんとお母さんか、どんな人なんだろう……)


 先ほどから変な汗が流れている。やっぱり『うちの琴音と友達なんて許さん!』とか言われないかなと、頭に浮かぶのはマイナスなことばかりだった。


(……いや、大丈夫だ、普段の俺のままでいれば、きっと大丈夫)


 電車が天乃原さんの家の最寄り駅に着いた。「よし」と小さな声を出して俺は立ち上がり、ホームへ降りる。そのまま改札を通ると、向こうに天乃原さんがいるのが見えた。


「赤坂さん、こんにちは、今日はありがとうございます」


 ペコリとお辞儀をする天乃原さんだった。


「あ、こ、こんにちは、いえいえ、こちらこそ」


 俺も慌ててお辞儀をする……って、なんだろうこのやりとりは。


「じゃあ、行きましょうか。うちまでちょっと歩きますので」


 天乃原さんと一緒に駅を出る。日傘をさした天乃原さんは、「はい」と俺に渡してきた。そのまま俺が持つと、左腕をそっと握る天乃原さんがいて……あ、こ、こういうところをお父さんお母さんに見られたらどうしよう……と、あたりをキョロキョロと見回す俺がいた。


「あ、赤坂さん、夏休みの課題は持ってきましたか?」

「あ、うん、一応持ってきたけど……本当に勉強するの?」

「それは分かりません。もしかしたら両親が赤坂さんを離さないかもしれませんので」


 お、俺はご両親に何かされてしまうのだろうかと、ちょっと心配になってしまった。

 俺と天乃原さんはしばらく歩いてきた。このあたりも住宅街なんだなと思っていたら、


「着きましたよ、ここが私の家です」


 と、天乃原さんが言ったので、目の前を見ると――


「……で、でかっ!」


 思わず声が出てしまった。天乃原さんの家、めちゃくちゃでかい……! 門の横にガレージがある。車が三、四台は入るのではないか……? そして門の奥に見える家は、うちの二倍くらいあった。うちも一軒家で、家族も多いためそこそこ大きいと思っていたが、それ以上だった。


「そうですかね? 赤坂さんのお家も大きかったですよね」

「い、いや、うちよりはるかに大きい……す、すごいところに住んでいるんだね……」

「大したことはないですよ。じゃあ入りましょうか」


 天乃原さんが門を開け、中へ入っていくので、俺もついて行った。ちょっと震えていたかもしれない。


「ただいま帰りましたー」


 大きな玄関を開け、天乃原さんが声を出した。玄関も広い……と思っていると、奥からパタパタという足音とともに、一人の女性が来た。


「あらあら、おかえりなさい。こちらが話してた?」

「はい、赤坂大河さんです。赤坂さん、私の母の天乃原ひとみです」


 母と紹介されたその人は、天乃原さんと同じく黒髪が長く、目が綺麗で美人だった。なるほど、天乃原さんはお母さんに似て美人さんなのか。


「こんにちは、琴音の母です。我が家へようこそ」

「あ、こ、こんにちは、赤坂です……」

「ふふふ、カッコいい男の子ですね。さあ上がってください」


 天乃原さんも「どうぞ」と言ったので、俺は「お、おじゃまします」と言って靴を揃えて上がらせてもらった。玄関から奥に案内されると、これまた広いリビングがあった。そのリビングのソファーに、一人の男性が座っている。


「お父様、ただいま帰りました」

「ああ、琴音おかえり。もしかしてそちらが話していた赤坂くんかね?」

「はい。赤坂さん、私の父の天乃原光喜こうきです」


 父と紹介されたその人がスッと立ち上がって、俺の方に来て手を出してきた。あ、握手か、俺も手を出して握手をする。背は俺より少し低いくらいだろうか。天乃原さんと一緒でメガネをかけていて、なんだか威厳がありそうな……怖い人じゃありませんようにと心の中で祈る俺だった。


「はじめまして、琴音の父です。君が赤坂くんだね」

「あ、は、はじめまして、赤坂です……よ、よろしくお願いいたします」


 ……ちょっと待て、よろしくお願いしますって、なんか変だな……と思ったが、お父さんも天乃原さんも気にしていないようだ。よかった……。


「まあまあ、そこに座ってくれたまえ。赤坂くんはカッコいい青年だね。私とじっくり話をしようではないか」


 お父さんが笑顔を見せて、ソファーに座るように促した。俺は「す、すみません、失礼します」と言って、座らせてもらった。その俺の横に天乃原さんが座った。

 ソファーもなんだか大きくて座りやすくて、きっと高いんだろうな……よく見るとテレビもめちゃくちゃ大きい……何もかもスケールが違った。


「母さん、すまないが赤坂くんに飲み物とお菓子を出してあげてくれるか?」

「もちろんですよ。赤坂くん、コーヒーは大丈夫ですか?」

「あ、は、はい、大丈夫です」

「ふふふ、ちょっと待っててくださいね」


 お母さんが笑顔でキッチンの方へ行った。俺は全身ガチガチで、どうしたらいいのか分からないような感覚になっていた。

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