第26話「リラックスですよ」

 天乃原さんとデートしてから数日。

 俺はまたゲーム三昧……に見せかけて、ちゃんと課題の続きもやっていた。


 天乃原さんに教えてもらってだいぶ進んだが、まだ残っている科目もあるということで、俺は分からないながらも調べたりしてなんとかこなしていた。


(うむ、俺もやればできる男だな! この姿を天乃原さんに見せたいところだ)


 自画自賛のようなことを思う俺は、単純な男だった。


 コンコン。


 そのとき、部屋の扉がノックされる音が聞こえた。「はい」と言うと、南美姉と咲美姉が入って来た。


「よっ、夏休み楽しんでるかぁー?」

「ほんと、楽しまないともったいないよ~」


 そう言って俺の頭をわしわしとなでてくる姉たち。まぁ、夏休みはそれなりに楽しんでいる方かもしれない。


「ま、まぁ、楽しんでる方だと思う」

「お? それは夏休みの課題ってやつか? 偉いぞー、勉強できるのも今のうちだからなー」

「そうそう、大人になるとなかなかねー。でもこの前、琴音ちゃんとデートだったんだよねー」

「あ、う、うん、そんなこともあった……」

「よしよし、大河が立派に青春してるの、姉としては嬉しいなぁ」

「ほんとほんとー、あ、ジュース持ってきたから飲んでね」


 咲美姉がテーブルにジュースを置いたので、俺は「ありがとう」と言った。


「……あ、そうだ、今度橋本っていう俺の友達連れてくるから、南美姉と咲美姉も会ってほしいというか」

「お? それはいいけど、また新しい女の子か!?」

「い、いや、男だよ。どうも女性恐怖症みたいなところがあるから、なんとか女性に慣れてもらいたいと思って」

「そっかー、可愛い男の子がいるんだねー。私と南美が可愛がってあげようではないか!」


 二人がまたわしわしと俺の頭をなでてきた。橋本がおもちゃにされそうだな……いや、それは全員に失礼か。


 二人が部屋から出て行って、俺は少し休憩することにした。ジュースを一口飲んで、ぼーっとしていると、スマホが鳴った。RINEが来たみたいだ。


『赤坂さん、こんにちは。勉強してましたね?』


 送って来たのは天乃原さんだ……って、勉強していたことも分かるのか、俺はキョロキョロと辺りを見回してみた……が、監視カメラのようなものは見当たらなかった。だとすると女性の勘だろうか。


『こんにちは、うん、分からないながらも進めておこうと思って』

『素晴らしいですね。赤坂さんもやればできるのです。自信持っていいですよ』


 褒められると嬉しいのは、単純な男の証拠である。


『ありがとう。何か用事でもあった?』

『ああ、そうです、少し通話してもいいですか?』

『ん? うん、いいよ』


 俺がそう送ると、すぐに通話がかかってきた。俺はそれに出る。


「もしもし」

「もしもし、あ、赤坂さんこんにちは」

「こんにちは……って、何かあった?」

「そうですそうです、この前お話していたのですが、赤坂さん、うちに遊びに来てくれませんか? 両親が早く連れてきなさいと言っておりまして」


 あ、なるほど、そういえばそんな話をしていたな。


 …………。


 ……しまった、ちょっとぼーっとしてしまった。お、俺が天乃原さんの家へ、遊びに行く……のか?


「……あれ? どうかしましたか?」

「あ、い、いや、なんでもない……そっか、いいのかな俺なんかが行って……」

「はい、ぜひ来ていただけると嬉しいです。明日とか空いてますか?」

「うん、大丈夫だよ」

「じゃあ決まりですね、すみませんが私の家の最寄り駅まで来てくれますか? お迎えに行きますので」

「分かった、ごめん、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 俺はとりあえずお辞儀をした……って、この姿は天乃原さんには見えないな。


「……あ、で、でも、どうしよう、天乃原さんのご両親に、何か手土産を……」

「いえいえ、気にしないでください。来てくれるのが両親も嬉しいと思いますので」

「そ、そっか、なんかすごく緊張してしまうんだけど……」

「赤坂さん、リラックスですよ。私の両親は優しいので、きっと赤坂さんのことを気に入ってくれると思います」


 そ、そっか、じゃあいつも通りの俺の姿を見せた方がいいのかな……それでも緊張するのは当たり前かもしれない。


「あ、一応夏休みの課題は持ってきてくださいね」

「……え!? あ、それはいらないんじゃないかな……あはは」

「ダメです。時間があれば一緒にまた課題をやりましょう」


 やっぱり勉強のことは厳しい天乃原さんだった。


「わ、分かった……じゃあ、また明日ね」

「はい、また明日お会いしましょう」


 通話を終えて、なんだかそわそわしてしまったのは仕方がないことと言い聞かせて、俺はゲームをして気分をまぎらわせていた。

 

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