第24話「優しいですね」

 ドキドキの水着タイム……と言っていいのか分からないが、そんな経験をした俺たちは、ちょっと早めにお昼を食べようかという話になった。


「天乃原さん、何か食べたいものある?」

「そうですね……ハンバーグが食べたいかもしれません」

「分かった、じゃああそこのレストラン街に行ってみようか」


 一階にあるレストラン街に来た俺たちは、ステーキのお店に入った。ここならハンバーグもあるだろう。


「わぁ、色々なお肉がありますね。ステーキも捨てがたいかもしれません」

「あはは、天乃原さんが好きなものを食べるといいよ」

「そうですね……でもやっぱりこのハンバーグにしたいと思います」


 天乃原さんが指さしたのは、スタンダードなハンバーグセットだ。俺は何にしようかな……とメニューを見て、サイコロステーキセットにしようと思った。


「店員さんは、どうやって呼べばいいのですか?」

「ああ、そこにあるボタンを押せば来てくれるよ」

「……こ、これですか? 押していいのですか?」

「うん、いいよ、思いっきり押してみて」


 天乃原さんが「えいっ」と言ってテーブルのボタンを押した。それもなんだか可愛らしい感じがした。

 店員さんに注文をして、しばらく待つと、ジュージューと音を立ててハンバーグセットとサイコロステーキセットが運ばれてきた。


「わぁ、とても美味しそうです」

「うん、いい音だね。熱いうちに食べた方がいいかも。あ、やけどには気をつけて」

「はい、ありがとうございます。赤坂さんは優しいですね」


 天乃原さんが「いただきます」と言ってナイフとフォークをうまく使ってハンバーグを食べる。俺はその姿をじっと見てしまった……って、やっぱり変態くさいだろうか。


「……美味しいです。お肉がジューシーで、味もしっかりしていて。いいものですね」


 天乃原さんが嬉しそうだ。なんだかこっちも嬉しくなる。


「そっか、天乃原さんが嬉しそうで、よかったなって思うよ」

「はい、今日はいい買い物もできました。そして美味しいものも食べることができて、大満足です。赤坂さん、ありがとうございます」


 そう言って天乃原さんが笑顔を見せた。

 ……メガネがないので、嬉しそうなその目でストレートに見られると、ドキドキしてしまった。


 大満足のお昼ご飯を食べた俺たちは、お店を出て、この後どうしようかと話していた。


「もう少し、ここを見て回りませんか? まだ少ししか見てませんので」

「うん、いいよ。天乃原さんが見たいところにお付き合いするよ」

「ありがとうございます。赤坂さんはやっぱり優しいですね」


 天乃原さんがそう言って、俺の左手をきゅっと握ってきた。


 …………。


 ……すまん橋本、今頃くしゃみしてるだろうが、俺は天のその上まで行かせてもらうよ……。


 ……はっ!? いかんいかん、軽くトリップするところだった。ちらっと天乃原さんを見ると、


「……今日は、手をつないでいても、いいですか?」


 と、言われた。


「あ、う、うん、大丈夫……って、な、なんか恥ずかしいね」

「ありがとうございます。赤坂さんの優しさに甘えてしまいそうです……って、あれ?」


 その時、天乃原さんがつないでいる手を見た。ん? どうしたのだろうかと思っていると、


「前にも思ったのですが、赤坂さん、手のひらが少しごつごつしているというか、これは……豆かなにかですか?」


 と、天乃原さんが俺の左手を両手でとって言った。

 そのとき、俺の胸がちくりとした。またか……いや、これは天乃原さんには関係ない。思い出すことをやめて、俺はごまかそうとする。


「……あ、う、うん、以前ちょっとね、色々ありまして……」

「そうでしたか、男らしい手をしていますね。大きくて、たくましくて、なんだか吸い込まれそうです」


 それ以上詮索されることなく、天乃原さんは笑顔を見せて俺の手を握っている。よかった……と思う俺がいた。


 その後、ショッピングモールを二人で見て回った。雑貨屋さんや洋服屋さんで目を輝かせる天乃原さんは、やっぱり女の子なんだなと思った。


「赤坂さん、このハンディファン、便利そうですね」

「ほんとだね、この暑い時期にぴったりなんじゃないかなぁ」

「そうですね、あ、あっちには冷却シートがあります。一つ買っていこうかなぁ」


 その間も、ずっと手を握られていて、俺は心の中でドキドキしていた。

 これはもう完全にデートというやつでは……今更なことを思う俺だった。

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