第22話「初めて同士ですね」

 天乃原さんと約束していたショッピングモールに行く日となった。


 俺は昨日から服装をどうしようか激しく悩んでいた。あまりラフな格好でもおかしい気がするし、かといって気合を入れ過ぎても空回りしている気がする。

 なんといっても、女の子と出かけるのだ。あまり経験のない俺には難しすぎた。


(……とりあえずシャツとジーンズで来てしまったけど、これでいいのかなぁ)


 一応ジーンズも新しいものだし、ストライプのシャツも綺麗なものを選んだ。靴も最近買ったものだし、大丈夫だと思うようにしよう。


 今日は学校の最寄り駅に集合となっている。俺は待ち合わせの時間に遅れないように行く。天乃原さんはいるかなと思っていると、


「あ、赤坂さん、おはようございます」


 と、声をかけられた。見るとそこに天乃原さんが――


「おはようございます」


 …………。


 ……天乃原さんがとても可愛かった。

 

 白のシャツと、黒のチェックのスカートに身を包んだ天乃原さんは、いつも後ろで一つにまとめている髪をおろしている。黒のロングヘアがいつも以上に綺麗に見えた。そしてなにより――


「あ、お、おはよう……天乃原さん、メガネは……?」

「ああ、今日はコンタクトにしてみようかと思いまして。どうでしょう、変じゃないでしょうか……?」


 そう、いつもメガネをかけている天乃原さんが、今日はメガネがないのだ。綺麗な目でストレートに見られると吸い込まれそうな感覚になった。


「う、ううん、変じゃないよ、その、か、可愛いというか……」

「ありがとうございます。そう言われると嬉しいものですね」


 天乃原さんがニコッと笑顔を見せた。


 …………。


 ……ここは天国か? 天国なのか? ああ、俺も来るところまで来てしまったようだな……。


 ……はっ!? いかんいかん、軽くトリップするところだった。


「それじゃあ行きましょうか、もう少しで電車来るみたいです」

「あ、うん、行こうか」


 俺たちは電車に乗り、家とは反対方向に進んでいく。しばらく外を眺めていると、


「実は、男の子と二人で出かけるって、初めての経験で、ずっとドキドキしているんです」


 と、天乃原さんが言った。


「あ、そうなんだね、お、俺も、女の子と二人でというのは初めてで……」

「そうでしたか、初めて同士ですね。なんだか嬉しいです」


 ……これも大人になるための一つの経験だよな……。


 ……はっ!? 危ない、また軽くトリップするところだった。


 電車がショッピングモールの最寄り駅に着き、俺たちは歩いてショッピングモールへ行く。今日もいい天気だ。すでにかなり暑い。陽が当たるところで天乃原さんは日傘をさした。


「あ、日傘か、さすが女の子だね」

「はい、この時期はもう暑くて、日傘がないと……赤坂さんも日傘使ったほうがいいですよ」

「うーん、そう思うんだけど、なんか恥ずかしくてね……」

「恥ずかしい気持ちも分かりますが、この直射日光は本当に危ないので、ぜひ。あ、そうだ」


 そう言った天乃原さんが、急に日傘を持っている右手を上げた。なんだろうと思ったら、どうやら俺を入れてくれているみたいだ。


「……さすがに私の方が背が低いので、きついですね。赤坂さんが持ってくれませんか?」

「……ええ!? あ、いや、その……」

「大丈夫ですよ、二人で入れば怖くありません」


 ぐいっと日傘を押し付けてきたので、俺はとりあえず日傘を持つ……ああ! 天乃原さんが俺の左腕にそっと手を……! これだとまるで腕を組んでいるみたいではないか……!

 ちらっと天乃原さんを見ると、横顔が綺麗でドキドキがさらに増してしまった。


 そんなドキドキを味わいながら、俺たちはショッピングモールへやって来た。涼しくて気持ちがいいと感じた。


「天乃原さん、なんか買いたいものがあるって言ってたけど」

「ああ、そうなんです。そのことで赤坂さんにもお願いがありまして」

「ん? お願い?」

「はい、実は日葵に一緒に海に行かないかと誘われていまして、今日は水着を買いに来たのです。そこで、赤坂さんと橋本さんも、ぜひ一緒に行かないかなと思っているのですが」


 …………。


 ……俺はすべてを理解するのに数秒かかった。


「……え、あ、そ、そうなんだね……」

「はい、やっぱりダメでしょうか……?」

「い、いや、ダメってことはないけど、いいのかな、俺らなんかが一緒に行って」

「はい、日葵も誘っておいてねと言っていたので、いいのです。楽しくなりそうですね」


 天乃原さんが、また笑顔を見せた。


 ……その表情にドキドキしてしまったのは、言うまでもないだろう。


 しかし、一緒に海に行く……? 俺はまだ頭の中の整理が追い付かない状態だったが、夏休みが楽しくなりそうな、そんな予感がした。

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