学級委員の天乃原さんと、よく話すようになったのだが。

りおん

一学期

第1話「トップオブトップ」

(そ、そんなバカな……)


 テストの結果が書かれた紙を見て、俺は気を失いそうになった。


 ……って、気を失ってる場合ではない。俺は赤坂あかさか大河たいが。この河峰かわみね高校に通う高校一年生。ごく普通の高校生だ。


 ……ただ、目の前にあるテストの結果が普通じゃなかった。


(が、学年で百八十九位って、たしかこの学校は一学年に三百人いたはずだから、半分にも届いていないということなのか……)


 心の中でそう思って、はあぁとこれまた心の中でため息をついた。

 先日、この高校で初めてのテストがあって、俺は頑張って受けた。その結果が学年で百八十九位。点数も全体的にパッとしない。中学の時はもうちょっといい成績だったはず。どうしてこうなった……と思っても仕方がないか。現実を受け止めなければ。


(ちゃんと勉強したつもりだったんだけどなぁ……でも、勉強していてもよく分からないところあったしなぁ)


 でも、よく考えてみると、中学と違って高校は同じような成績の子が集まるところだ。俺も自分の成績を考えてこの高校を選んだ。元々の地頭は似たようなもので、そこから頑張る者と頑張らない者、そこで差が付くのかもしれないなと思った。


 ……たぶん、ではあるが。


「……はぁ」


 俺はふと、ため息が口に出てしまった。誰かに聞かれただろうか。いや、別に聞かれても問題はない。そっとテストの結果の紙を鞄にしまおうとすると、


「――今、ため息ついてましたね」


 と、隣から声が聞こえてきた。え? と思って隣を見ると、一人の女の子がこちらを見ていた。


「今、ため息ついてましたね」


 同じ言葉を繰り返す女の子。この子は天乃原あまのはらさん。下の名前は……琴音ことねさんだったか。学級委員をやっている女の子だ。


 うちの高校は男女で出席番号が分かれていた。俺は『あかさか』で男子の一番、彼女は『あまのはら』で女子の一番。今は出席番号順に座っているため、席が隣同士なのだ。


 ……まぁ、それはいいとして、なぜ天乃原さんは俺に話しかけてきたのだろうか。天乃原さんはメガネをかけていて、なんだかいつも真面目そうな顔をしていて話しかけづらいというか……なので、そこまで話したことがない。ちょっと物を落として拾ってもらって、「ありがとう」くらいは話したことはあるが。


「……あ、いや、まぁ……」

「悩みですか? あまり抱え込みすぎるとよくないですよ」


 悩み……といえばそうなのだが、さすがにテストの結果が悪いことを話すのは恥ずかしかった。どうしよう……と思っていると、こちらに椅子ごと近寄って来た天乃原さんが、


「……なるほど、テストの結果ですか」


 と、俺のテストの結果の紙をのぞき込んできた……って、ち、近い……! 天乃原さんはいつも通り真面目な顔なのだが、俺は顔が熱くなってきた。


「……あ、まぁ、テストの結果が悪くて……ちょっとへこんでたというか」


 見られたからには話してもいいかなと思った。しかしこんな点数と順位、恥ずかしすぎる。俺はドキドキしていた。


「へこむ必要はないですよ。まだ一年生が始まったばかりじゃないですか。これから挽回するチャンスはいくらでもあります」


 俺の目を見て、真面目な顔で言う天乃原さん。ま、まぁそうなんだけど、それよりもなぜさっきから敬語で話しているのだろうか。俺同級生だよね? そういう話し方をする人なのだろうか。


「……そ、そっか」

「はい、そうです」


 椅子ごと近づいてきたので、天乃原さんとの距離が本当に近い。そしてじーっと俺のことを見てくる。なんだかくすぐったくて、恥ずかしい……俺は思わず目をそらしてしまった。


「……あ、天乃原さんは、何位だった……? って、教えたくなかったら言わなくていいけど」

「私ですか? 一位です」


 一位です。


 …………。


 い、いいいいい、一位!?


「え!? い、一位……!? 一位って、一番ってことだよね……? 学年のトップ……!?」

「面白いこと言いますね。そうです。学年のトップです。トップオブトップとも言えます」


 なんだその単語……と思ったが、天乃原さんはいたって真面目な顔をしている。変なツッコミを入れたら怒られそうな気がしたので、やめた。


 そ、それにしても、一位って……天乃原さんはそんなに勉強ができる子だったのか。まぁ、学級委員をやってるくらいだから、勉強もできて当然か……それはちょっと偏見だろうか。


「そ、そっか……すごいね」

「すごくはないです。私も普通ですから」

「あ、ご、ごめん、変なこと言っちゃった……」

「いえ、気にしないでください。さっきも言いましたが、へこむ必要はないです」


 俺の隣で真面目な顔で言う天乃原さんだった。

 

 この日から、天乃原さんとよく話すようになることを、俺はまだ知らなかった。

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