尾野田圭(26)

逃げている。逃げている。俺を追いかけてくる、何かから。


クソッタレ。ふざけんな。夜勤明けでさっさ寝たいのに、気づいたら何かに追われている。


幸い足は早くないが、追いつかれたら終わりだ。だから俺は、必死に早歩きをしながら逃げている。


今までの人生、大抵のことには立ち向かってきた自信がある。


クソ親にも、いじめにも、受験にも、大学で鬱になっちまった後も。


だけど、今回はダメだ。今回は、逃げるしかない。俺は歩く速度を早める。背後から、足音がする。


逃げる。逃げる。足を早める。


おかしい。


俺の家はこんなに遠かったか?交差点を抜けて、5分かそこらのアパートだぞ?


目の前に、ガキがいる。そうだ、あいつに助けを、


あ、


ガキの向こうに、俺の後ろ姿が見えた。


そうか、俺逃げたつもりで同じところを延々と。


ガキが振り向いて、ニタリと笑う。こいつに追われてたんだと確信する。


喉から溢れた悲鳴が、前の方からも聞こえた。


【付記】

6月30日、心停止状態で発見。頭髪が全て白色に変化していた。

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