セカイチ!

@chang0731

序章 100メートル

 「オンユアマーク(位置について)」

 静寂が包む陸上競技場。8人のスプリンターがそれぞれのスターティングブロックに足をかける。

 トラック種目の決勝はどの種目でもスタート直前は静かになるが、100mだけは別格。

 痛いぐらいの静けさと緊張感が競技場をつつみこみ、カチャンカチャンとスタブロを踏む音さえもが響き渡るほどの静寂が訪れる。

 スプリンターはしばし、弾丸に例えられることがある。

 理由はスタートピストルの轟音とともにフルパワーでゴールを目指し、直線的に進むからだ。スタート前の準備動作は弾を装填しているようにも見えてくる。

 静かだが8人はそれぞれぐぐっとブロックを踏み、その感触を確かめながらスタートの体制を作っていた。

 「セット(ようい)」

 息を吸いながら腰を高く上げる。上がりきったところで息を止め、スターティングブロックを踏む足に力を込める。

 静寂を切り裂く号砲が鳴り響き、8つの弾丸が100メートル先のゴールを目掛け、飛び出した。

 一気にゼロから百、あるいはそれ以上のパワーで身体を前に前に押し出していく。

 ただただすこしでも速く、前へ。


 大歓声まであと100メートル。

 

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