第29話 鳥のさえずり

 木の上で目覚めるの、最高だね。鳥たちの体は腐ってるけど、ちゅんちゅんって声は美声。窓枠に止まって朝を告げる合唱隊みたいだ。


「ゾンビ?」

「ゾンビって言葉、初めて聞いたの。違うぞ。霊の器じゃ」

「この世界にも霊がいるんだ」

「うむ。天界も誰も彼も受け入れるわけではないからの。女神の裁量で、心底毛嫌いしておる魂は放任するのじゃ。体も行き場も失った魂は彷徨って、入れそうなモンスターの骸を探す。入って、レベルアップして、今度は人間の体を奪うのだ」


「……私たちやばいじゃん。めっちゃ見られてるんだけど」


 目を見開いた鳥たちが、体をよこせって訴えてる。

 汗がぶわっと噴き出した。


「問題ないの。魔王と同じくらい強くなって、ようやく魔力適正の低い赤子を乗っ取れるかどうかじゃからな。少なくとも大人の乗っ取りはあり得ないの」

「早く言ってよ。びびり損じゃん」

「所詮は地獄に行くことすら拒絶されるほど嫌われた魂じゃからな。チャンスは用意されておるが、掴めない難易度じゃぞ。女神は鬼畜じゃからの」


 体を求めて現世を永遠に彷徨う。それがこの世界の霊のあり方みたい。

 モンスターの骸で生きているけど、一応不老不死なんだよね。

 終わらない苦痛には変わりないけど。


「ボス。朝ご飯の用意が終わった」

「ありがとう。持つべきものはアリス……だね」


 ツリーハウスの床には、忙しいサラリーマンの味方。ゼリー状の完全栄養食が直置きされている。コンビニで買った完全栄養食に、チフは興味津々だ。


「浮かない顔じゃの?」


 手早く栄養を摂るのも悪くないけど、体はガツンとした料理を欲してる。一晩寝ても疲れは残ったままだし、やっぱりおいしいごはんが食べたい。


「アリスの手料理が食べたいな」

「ボスの胃袋を掴む」

「戦闘はこりごりなのだ。朝ご飯に使う時間はないぞ」


 すぐに出発すれば、夜になる前にカタクモの生息域を抜けられるみたい。初めてカタクモと出くわした夜を思い出して、身震いが止まらない。


「アリスの手料理はまた今度にした方がいいね」

「このかんぜんえいようしょくって食べ物はうまいの。戦士の糧食にぴったりじゃ」

「かさばらないし、言われてみればそうかも。でもミリメシに、ないよね」

「満足感のある食事が戦場には必要」

「ふむ。腹にたまる食事ではないの……毎日はちと辛いか」

「今もそうだけど。こういうところって食事しか楽しみがないからね」


 数秒で、食事を終わらせてツリーハウスを下る。森の外にある街道を目指そっか。街道からゴブリン帝国までは早馬で、一日の距離だ。


 森って難所さえ突破すればちょっとしたピクニック気分で、進める。

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