色彩豊かな世界

形の歪んだ絵

第1話 緑色

 ふと、二つのレンズの端をみると緑色の世界が見える。


 その世界は、いつもの世界と似ている。


 しかし、その世界の色は緑ばかりだった。全部に緑色が混ざっていて、現実よりも少し暗かった。


 その世界は、ひどく静かだった。

 風で樹々が揺らめいているのに、人々が笑い合って、下らない言い合いをしているのに、その世界に音はなかった。


 人が存在しているのに、生命力は感じられなかった。

 緑という生命の色をしているのに、その世界は静かで死んでいるようだった。生命の緑とは何かが違うのだろうが、私にはそれが分からなかった。


 その世界は常に目の端にあって、時折見えなくなる、儚い世界だった。


 だからだろうか。


 あんなに静かな世界なのに、

 あんなに寂しい世界なのに、

 まるで死んでいるかのようなのに、


 その世界は、現実よりも夢よりも、どんな他の世界よりも、



 美しかった。



 緑色はいつでも美しく、醜く映ることなどなかった。

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