18話➤目覚めの時
朝日が差し込む光で目を覚ました私。ふと隣を見ると、一定のリズムで寝息を立てるゼプスの姿があった。
――起こさないようにしないと……。
そうっと起き上がり、そのまま私はキッチンへと向かった。冷たい水で顔を洗うと一気に目が覚め、どこか清々しい気持ちでいっぱいになった。
――そう言えば、昨日……どこからか声が聞こえたような……あれはいったい何だったんだろう。
つい数時間前の記憶を呼び起こそうとするも、内容が曖昧すぎるため私は諦めることにした。そのまま朝日を浴びようと思い立った私は、屋敷の外へ出た。
「う~ん……」
両手を天に向けて伸ばし、深呼吸しながら伸びをし終えた私は、目の前に広がる壮大な大自然を眺めてため息を吐いた。
「屋敷内の掃除を終えたら、最後はここかな……。まだまだ先は長いな」
「そんなにか?」
ふと後ろから声を掛けられ、驚いた私に対しゼプスは落ち着いた様子で立っていた。
「起こさないようにしてたんだけど……起きちゃったんだね。おはよう」
「ふわぁ……おはよう。朝から何をしてるんだ?」
「日光浴」
「……日光浴?」
「こうやって太陽の光を身体に浴びると骨が強くなったり、免疫力が上がって病気の予防にも繋がると言われているんだよ。リラックス効果もあるって言われているけど……諸説紛々」
「へぇ~……。まぁ、確かにこうやって太陽の光を浴びると気持ちいいのは確かだな」
2人で日光浴を堪能している最中、私はふとゼプスへ確認したいことを思い出した。
「あっそうだ!ゼプスに聞きたいことがあったんだ」
「ん?……なんだ」
「昨日野草を探しているときに偶然見かけたんだけど、この屋敷の裏側にある扉の奥には何があるの?」
「……裏側?」
ゼプスは初めて知ったような顔をし、両腕を組みながらしばらく考えていた。
「う~ん……。私もこの屋敷には長く住んでいるが、知らないなぁ」
「そう……なんだ」
「扉は開けたのか?」
「あの時、開けようと思って扉に触れたらビリビリ~、って全身に電気が走ったから開けてない」
「……電気?ふ~む……、気になるな……よし!モモの言うことを確かめに向かうとするか!」
張りきった様子でゼプスは屋敷の裏へ向かおうとしていたため、私も置いて行かれまいとの思いで付いて行くことにした。
昨日と同じように裏側へ向かうと、古びた木の扉がそこにはあった。
――こんなに古びた扉だったかな……?そうか、昨日は陽が落ちかけていた時だったからここまで古いとは思わなかったのか。
「ここか……」
まじまじと扉を見るゼプスは真剣そのものだった。
「この扉の存在は知ってたの?」
「知るわけないだろう。第一、屋敷の裏になど用はないから来たことないわ」
「……そうなんだ」
しばらくゼプスは考えた後、勢いよく私の方を振り返った。
「モモ、開けてみよ」
「……は?……えっ?私っ!?」
ゼプスから思いもしないことを言われ、私はしばらくの間その場で固まっていた。
「なんで私なの?」
「……なんとなくだ。そなたが触れた時に感じた電気を私が浴びたくない、とでも言おうか」
「あぁ……そういうことね」
扉に触れた際に感じたビリビリ感を味わいたくない、という彼の本心に私がため息をこぼしながらも、一歩前へ出た私は恐る恐るドアノブに触れた。
「ビリビリするか?」
ゼプスが私の顔を覗き込むように尋ねてきた。
「……何も感じない」
「なんだぁ。期待して損した」
「ちょっとどういう意味?」
「何でもない」
――もしかするとゼプスは私が感電してる反応を見たかったのかも……。なんて悪趣味な……。だけど、何にも感じなかったな……。
そのままドアノブを押し込みむと、鍵がかかっていなかったのか、すんなりと扉は開いた。
「開いたね」
「開いたな」
ほぼ同時に同じことを言った私たちは互いに顔を見合わせた。目配せでゼプスからどうぞ、と促すも同じことを考えているようであったため、なかなか扉の奥へ進むことができずにいた。
「もぅ!わかったよ。私が先に行く」
「はぁ……はじめからそうすればいいものを……。全く手間のかかる娘よ」
「なにか言いましたか?」
「いえ……何も~」
そっぽを向くゼプスを気にも留めず、私は先へ進むことにした。
中に入ってすぐ目に入って来たのは地下へと続く階段だった。
「このお屋敷、地下なんてあるんだね」
「前の家主はそんなこと言ってなかったぞ」
「なんか……やばいものがあったりして」
「やばい、とは一体どういう意味だ?」
「あぁ……気にしないで。忘れて」
言葉の意味をいちいち説明することが面倒になった私は、ゼプスの問いかけを無視して階段を降りて行った。そして辿り着いた先にあったのは、重々しい鉄製の扉だった。
「なんか……この扉は開かない気がする」
「そんなことはないだろう」
ゼプスは扉に触れようと近づき、取手に力を込めて扉を押すも一向に開く気配はなかった。押してだめなら引いてみよう、と今度は手前に引こうとするも結果は同じく、ビクともしなかった。
「鍵でもかかってるのかな……」
私がさり気なく言うと、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『マッテタ……ヨ……。キミ……トビラ……フレテ』
慌ててゼプスの方を見るも、彼には聞こえていない様子だった。
「私が開けてみるね」
「ふん。モモより力の強い私でダメだったものが開くはずもない」
両腕を組み、どこか不貞腐れているゼプスを尻目に扉へと近づき、聞こえた声の通りに扉へと触れてみた。すると、私の身体から光が溢れ出し、かざした手を通して扉全体に行き渡った。
「どういうことだ」
「私にわかるわけないじゃん」
光が消えるのと同時に扉がゆっくりと開き始め、開ききったところで室内にうっすらとした明かりが灯った。
「あれはっ!」
ゼプスは目を見開き目の前にある物を見つめていた。
そこにあったのは、ボーリング玉ほどの大きさをした深緑色の卵だった。
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