10話➤予想外な空の旅
ゼプスの体力も回復したある日の事――。
夕食に、と思い用意した魚の香草焼きを堪能していると、ゼプスが私の顔色を伺うように恐る恐る尋ねてきた。
「なぁモモ……。これからのことなんだが……その……。モモは人間どもの元へ帰る……のか?」
――人間どもって……言い方……。ゼプスが言おうとしていることはわからなくもない……。こうして体力も回復した今、私と一緒にいる義理はないだろうし……。何よりも、ゼプスは人間のことを良く思ってない……。このまま一緒にいない方が……。
そのことを伝えようとするも、これまで一緒に過ごして来た時間が脳内でフラッシュバックし、これからもずっと一緒にいたいという気持ちがあってなのか、上手く話せないでいた。そんな私を見ていたゼプスから思いもしない言葉が返ってきた。
「モモさえよければ、私と一緒に仲間のところへ来て欲しい」
「ふぇっ?」
気の抜けた返事になってしまったものの、内心ではすごく嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「私たちドラゴンは群れで生活している。そこにモモも一緒に来て欲しいんだ」
「……けど、ドラゴンって警戒心が強そうだし……私は人間だし」
「そこは私がなんとかする。仲間も私の窮地を救ったのがモモだとわかれば、きっと理解を示してくれるさ!」
――そんな簡単に事が運ぶのだろうか……。かといって、私には行き場所がないから選択肢は1つしかない……。
私は自分の正直な気持ちをゼプスに伝えようと決意した。
「ゼプス。私を……ゼプスの仲間のところに連れて行ってほしい。私はここ以外、行くところがないの」
真っすぐにゼプスを見つめ、私は誠心誠意の気持ちを伝えた。その気持ちに嘘偽りがないかを見透かすかのように、瑠璃色の瞳が私を捉えていた。
「モモ……!ありがとう」
「こちらこそありがとう。それから……これからもよろしくね」
「あぁ、よろしく頼む」
ふとしたきっかけでゼプスと出会えた事に感謝しながら、私は残りの魚を口いっぱいに頬張った。その姿を見ていたゼプスがケラケラと笑い、幸せなひと時を過ごしていた。
日も暮れた頃、辺りには夜の自然が織りなす涼しさと独特の静けさが同時に訪れていた。目を閉じ、川のせせらぎに耳を澄ませるようにこれまでの事を思い返していると、ゼプスが翼を広げ私を覆うように被せてくれた。
「ありがとう」
「……夜は冷えるからな」
「ゼプスは寒くないの?」
「私はもともと温度変化には強い。……その点、人間は脆い生き物だ。雨に打たれてぷるぷる震えていたモモが懐かしい」
「そのことは早く忘れて欲しいかな……。人間は確かに脆弱な生き物だと思うよ……。だから私……思うんだ……。同じ世界に生きてるなら……戦うんじゃなくて、助け合うことはできないのかなぁ……って」
「助け……合う?」
「そう。ドラゴンと人間、魔導師が協力すれば、きっとこの世界はより一層住みやすいところになるだろうし……、戦わなくても……いい世界って……よくない?……ふわあぁ」
「戦いのない世界か……。そんな日が来るといいな……、って、言ったそばからこいつは……はあぁ。仕方のない小娘だ」
ゼプスが何かを話していたように聞こえたが、私は最後まで聞けず深い眠りに就いてしまっていた……。
ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶ……。
お伽噺の世界ならではのことが体験できる……。
そんな夢にまで見たことが可能に……、そう思っていたのだが……、私は状況が未だに掴めずあたふたしていた。
「ゼプスっ!」
「どうしたモモ?」
「私はドラゴンの背中に乗れると思ってたんだけど、これは一体どういうことなのさ!」
「そう喚くな。せっかく空の旅でのムードが台無しだ」
「台無しもなにも、これはさすがに恥ずかしいって!」
「じゃあ……降ろそうか?」
「え?ええぇぇっっ!それはやだ!降ろさないでぇ!」
――この高さから降ろされるなんて絶対にイヤっ!
私は思わずぎゅっ、とゼプスの首にしがみついた。
「モ゛モ゛……ぐる゛じい゛……」
そもそも、私がゼプスより早くに目覚めなかったのが問題だったのかもしれない。朝、吹く風の強さで目を覚ますと、私はゼプスに横抱き、いわばお姫様抱っこをされた状態で空の上にいたのだから……。
「モモ……そなた、ものすごい力があるのだな……。絞め殺されるかと思ったぞ」
「それは……ごめん。ゼプスの降ろすって言葉が冗談には聞こえなかったから」
「ははははは。冗談を真に受けたのか……。そんなことはしないから安心して空の旅を楽しめ。もうじき私たちの島が見えてくる」
そう言われしばらくすると、前方に大きな島が見えてきた。
「あの島がゼプスの故郷……」
「あぁ……。帰るまでに随分と時が経ってしまった。皆は元気だろうか……」
「なんだか私までドキドキしてきた」
「ははは……。大丈夫だ。さぁ、島に着陸するぞ」
「待って待って待ってぇ!」
――いきなりこの高さから降下するのはジェットコースター並み、いやそれ以上に速いって……。
ゼプスは私の反応を楽しんでいるかのようにニヤリと片方の口角を上げていた。だが、私はそんなことすら気にもならず、必死にゼプスにしがみつき、一刻も早く島に到着するようにと願うばかりだった。
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