クレイジートレイン
湯野正
下車後(エピローグ)
初夏の気配を帯び始めた陽光を、白砂に打ち寄せた波が反射する。
岩と岩に挟まれた、小さな砂浜。
外界から隔絶されたようなそこは普段であれば恋人たちの憩いの場なのかもしれないが、今日ばかりは客層が違った。
2054年、5月21日。
本日ここに陣取っているのは、真っ赤な血の海で横たわる小柄な女性と、彼女を囲むように陣取る警察関係者たちだ。
「事故死、としか言いようがありませんね警視」
年若い女性の警官が、隣の男にタブレット端末を渡す。
「……事故死ねぇ」
ディスプレイを飛び出し立体的に浮かび上がった文字をつつきながら、男は考える。
確かに全ての証拠は、これを事故だと物語っている。
小さな出来事がドミノのように連鎖し、枝分かれし、また合流して。
全部倒れた後には、彼女の【事故死】という一つの絵が生まれた。
ひとつひとつのドミノに彼女を殺そうなんていう悪意は全くないし、罪を問えるほどのミスも不注意もない。
だが……。
「グローリーライナー、か」
【事故死】を引き起こした最初のきっかけ。最初に倒れたドミノ。
それに紐づけられたあの列車の名前を見ると、どうにも考え込んでしまう。
「運って、存在すると思う?」
2020年、当時の最新技術を駆使して生み出された人工島、【
2054年の今日、新高天原で一人の女性がその人生を終えた。
しかし物語の舞台はこの人工島ではない。
首都東京を超え今なお発展する新高天原と、本州神奈川の横須賀を結ぶ海上列車。
栄光の名を冠するグローリーライナー。
人呼んで、クレイジートレイン。
その車内こそが、この喜劇の真なる舞台である。
時は彼女の死の前日、5月20日の早朝に巻き戻る。
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