灰色の久遠

ふわポコ太郎

強弱と優劣

 古今東西変わる事の無い誠がもたらすのは、強者による押し付け。

 どんな理屈や綺麗事を並べようと、強きや、怖き存在にしわ寄せが来ることはない。

 それらを受けるのは、弱く舐められた存在なのは治世も同じ!


 もしそれが乱世ならば!!!……語らなくても先の世より酷い事など分かりきっているであろう。

 現世は暴力を軸に廻る。

 弱者故に食事当番を押し付けられた者達が、呼びに来たこともあり凄まじく軽めな鍛錬、もはや調整というべき事象は日没とともに終わり。


 クールダウンを始める少年兵は皆が達成感に満ちていた。

 この場にいる全員が同い年、何なら誕生日もそこまで離れていない。という異常。


 やる気のある無能が頂点に君臨したせいで、許してしまった連合軍。

 そんな宗主国の危機的状況を見た植民地。

 

 勿論即座に離反を選択しその結果穏やかな日常から、蹂躙と陵辱あふれる前線に変わった場所で何が起きたかなど想像にかたくない。

 中絶を禁止させられた国で、産まれてしまったた混血児達。

 

 愛を受けていない命等いくら使い潰しても構わないだろう。となってしまのうは乱世。

 人権等が!等とほざけるのは平和な時代、もしくは平和な場所に産まれた幸運故。


「貴様らの血には腐りきった侵略者と同じモノが流れている!だから差別を受けるのは当然!が一つだけ名誉イビルディア人になる方法がある!帝国のために戦って死に礎となる事だ!返事はどうした!」


 終わらない兵役を死ぬまでこなす事でしか……純血の存在と同じになれない。という洗脳と調教きょういくは根深く。


「「「親に愛されている赤子は殺せ!結婚して幸せそうな女は犯せ!……産まれつき不幸な俺達が、悪意の被害者がソレを振りまいてナニが悪い!綺麗事をヌカす奴のケツには熱した棒をつっこんでやれ!!!ギャハハハ!!!」」」

 

 無償の愛を受けた事が無い。という事実は覆しようが無いため、他者を地獄に引きずり込む事で溜飲を下げる。

 

 それはどこまでも美しき人の業、安全圏からの口出しでは救えない、どこまでもピュアピュアな純真無垢たる真実。


 暴力と悪意に抗えるモノは、その二つをよりハイレベルで持つ正義を語るナニかであろう。

 

 そんな性根も性格もひん曲がった現世の被害者達、心清く忠誠心にあふれ誠を崇拝する戦士達を率いる者がいた。

 

 産まれのよさか、否育った環境故かイビルディアの思想に染まりきらなかった存在、アッシュ・アスモデウス。

 

 弱く産まれ、弱く育ち……恋も愛も信頼も奪われて、よ〜うやく現世の仕組みに気付いた大馬鹿者!弱さを優しさと履き違えた生粋の負け犬……もとい物語の主人公に二つ名は無いが、復讐鬼と呼ばせもらおう。


 競争を勝ち続けた演者には、歴史に名を少し刻んだ大マヌケの役作りは、多分に苦悩した事が伺える。


「さて、お前らも知っての通り俺の昇格戦がもうすぐだ。まぁ知ってのとおり全員生きて帰るなんて、ファンタジーやおとぎ話じゃ無い限り絶対にありえないから……ヨシ結構な金を使って今回の晩餐は用意したからな!しっかりと血肉に変えてアスモデウス家の主たる俺に尽くせ!序列順に食ってよし!」


 大量生産された全く同じトレーニングウェアから、これまた大量生産されたオシャレ感ゼロの部屋着にチェンジした全員が、一人だけ白色を纏うアッシュの発言に、ウッス!ごっちゃんです!と口にした後大喜び。


 イビルディア帝国では高貴な身分でない限り、オシャレ等といった浮ついた事は許されない。


 何なら男は偉くなっても、大半が無頓着に職場着と礼服以外は持たないだろう。そういうものである……だからこそ彼女ができると露骨に変わるのだが。

 

 まぁ、そんな幸せを望めないであろう彼らが、待ち望むのは人間としての魅力が無かろうが、能力がおぞましい程低くても楽しめる娯楽。


 意識高い系が見たら絶句する様な炭水化物や油物が多い料理……を本来は並べなければならないが、事務所に配慮して野菜鍋。

 

 身長が伸び切り筋肉をつけたならば、衝撃を散らす脂肪をのせるのは当然……なのだが、古今東西男の美しさは割れた腹筋にあり、なので歴史再現的には苦情覚悟の采配。

 

 本来割れた腹筋が自慢になるのは、階級で守られた場所か美しさを競う場所……残念ながら乱世は終わり治世の歴史モノ故、それが正解であろう。


 そもそも栄養学等という概念、身体を大きくしたい?とにかくたくさん食えの時代にあってたまるか!


 そんな乱世の価値観と治世の価値観に対するジレンマは、地響きを起こすレベルの重さだがとりあえずおいて。

 

 階級が下の人間に洗濯や掃除を任せるは強者。

 当然、雑務を押し付けられた連中はてんてこ舞い。


 辛かろうが、苦しかろうが結果を出さない奴が悪いだけ。

 

 入浴ですら絶対的な順番がある界隈。

 先に入っただけで蹴り飛ばされて文句言えないのが実力の世界。


──星が一つ違えば家来同然、線が一本違えば奴隷同然、色が違う?虫けら同然に決まってるだろを地で行くは実力の世界。──

 喧嘩の強さという老若男女素人でも分かる 明確な基準。

 そんな枠組みで生きる男達にとっては当然のシステムにして守るべき義務たる階級制度。


 事実食事をしている連中を見る底辺の者達は、おかわりを無言で催促され様が頷きよそぎにいくしか無い。


 どれだけ空腹であろうと、それは絶対……何なら己にくる役回りで大体の立ち位置は分かるであろう。


 自分達に残りがあるか?を不安がる程度の自由が認められているのは救い。


 まぁ、実際の乱世では底辺どうしで残飯を取り合っていたらしいが……


──彼らは幸せである。

 他家ならば年下相手に、この対応をする事が当たり前なのだから……無駄に年だけ食った分際が実力の世界ナメるなよ──


 部下の一人が、アッシュ様は食べないんですか?という問いかけに名前の主はすごーく罰の悪そうな顔をした。


「俺はホラ叔母上に呼ばれているから。まぁ、好きなだけ食ってくれ。」


 もっと、良いものを主は食う。という事実に対して、はぁそうですか。と格付けが済んでる事もあり大衆は静か。


 男の世界は分かりやすいものである。

 十中八九白黒つく事が勝負事なのだから。


 そんな中馬鹿みたいに荒い音をたてて入ってくるのは混血の少女達。


 男に産まれなかったせいか、おかげかは議論の余地あるが……彼女達に兵役の義務は無い。


「あぁ、くそ疲れた。あの行き遅れババア死なねぇかな?殺しても問題にしたくないからでなあなあですまされないかな?」

「本当によ。あの腐れブス行き遅れお局は婚活の失敗をウチ等に当たりやがって、死ねよ。」

「何が見た目は二十代。フザケてるの?じゃあアンタにお似合いなのは見た目だけ屈強な去勢済み?フンすなわち遺伝子を淘汰される道なり。」


 苦役を女に背負わせるは、物理的に国家の手数が半分になる暗黒時代。

 労働のストレスは人を変える。


 もしそうじゃない人間がいるなら、優れた適正を示し好ましい道を進む選ばれた存在か、世間体と家族に洗脳されている意志薄弱者だけであろう。


 女の世界は分かりにくいものである。

「皆本当にめんごー。でも私はダーリンの、名家の血を引く子を孕んだから今月いっぱいで労働とはサヨナラバイバイなの。」


 えっ、何?このブスより……私が劣っているとかありえないんだけど!っと誰かが正直に言った。何故か優劣が勝ち負けに直結しない事柄がある故。


(((男が言う事じゃないけど、本当に男の性欲ってストライクゾーンが広いよな。まぁ結果ださなきゃ生涯童貞の負け犬になるのが男だけどね。……ガチでどこの家だ?メチャクチャ気になってきた。)))


 いつの時代も変わることなく……雄の価値は結果を出す事でしか証明できない。


 若いだけの実績なき男に発情する女は、ハッキリ言ってホルモンバランスが崩壊しているであろう。


 劣等を愛せる女性は、まぁそうそうお目にかかることはできないのだから。


 失敗を認め、挫折と改善を繰り返した者、持って産まれた血の恩恵で得た白の礼服に袖を通すアッシュが乗るは、ロストテクノロジーが産物。


 まぁ、早い話が車である。

 言わずもがな、この時代ではメチャクチャ貴重品。


 動くとなると、一般人の生涯を百人分……じゃ足りないであろう。


「申し訳ありません。アスモデウス大佐本当にお待たせしました。お嬢様にはどうか、どうか、御慈悲を……」


 必要以上にオドオドするは去勢済みの弱者男性。


 年だけはしっかりと積み重ねている事もあり、魂の容器たる肉体からは、キッチリとほとばしる加齢臭。


 胸板薄く、低い背丈からは想像できない程に男性ホルモンの供給が強いのか……頭だけは凄まじい輝きを放っていた。


 そんな典型的な負け犬に対してアッシュは、ハァ。と釣れない態度。


「お願いです。お願いです。イビルディアには他国の様な生活保護なんて素晴らしい制度は無いんです。こんな失態がお嬢様の耳に入ったらクビ……死んでやる!死んでやるからな!!」

 大した価値もつかないであろう己が命を質にするは弱者。

 不思議な事に、価値の無い奴に限ってコレをするのだから現世は面白い。

 頭が禿げて、加齢臭を帯び、安月給のオッサン、これを愛するのは異性どころか、同性ですらご遠慮願いたい。

 

 その制度は表向きだけで足や腕の一本でも落とさないと受けられないそうですよ。と笑って答えるはアッシュ。

 実際にその制度で飯を食っている人間は、帝国が誇りし蓋世不抜の武人に手足を麻痺させられ……暴言をはき散らすだけのスピーカーとなった者達。

 それはもう被害者が日記に残しているのだから真実であろう……本当に看護がキツくて何度も殺したくなった。と

 彼は東亜皇国で産まれ育った事もあり年長者には礼儀正しい。

 何よりも己が弱者だったからこそ気持ちが分かる。

「うるさいぞクソガキ。いいかお前みたいな強者は弱き者をイジめてウサを晴らす。……本当は我々の様な人間がいなければ貴族や強者の豊かな生活は維持できな……」

「黙れ。結果でしか者を語れないマヌケが、才能以前に努力が足りない事を棚にあげやがって、いいかある一定のラインまでは人間努力でいけんだよ!まぁそっから先が才能の領域なのは認めてやるよ。」

「ホラ、頑張ったところで才ある人間には勝てない!君のような左官階級の昇格きろ……」

「あーハイハイ。結果がでない努力は徒労でしか無い、何なら努力なんて思うことすら許されない。コレ俺がこの世でもっとも尊敬する蓋世不抜の武人が言った言葉だから、結果が出てないなら努力が足りない証明だから……そもそも大佐星四、星五の昇格記録は叔父上のを塗り替えられなかったんだよ糞が!努力してない奴の言い訳はクソ!ソースはアンタの人生……否定はしないよね?」

 だからこそ、尊敬できない側に入った者には誰よりも冷たい。

 なによりも、弱者に一番厳しいのは成り上がった弱者である事は言うまでもない事実。

 凄まじく気まずい空気を乗せた四輪車がイビルディア帝国で二番に大きな屋敷、ベルフェゴール邸を目指す。

 



──遠交近攻という概念。

 それを無視した暴挙を起こそうしとしている国があった。

 世界の中心たるモードレッドがタクトを振るうはイビルディア帝国。

 かの先陣をきるは、乱世の被害者たる混血児部隊。

 率いる者の名はアッシュ・アスモデウス。

 彼は色欲に固執したストーカーにて、一途すぎた復讐鬼。──

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