北部屋三年、湿気あり
北側に位置する六畳の一室に住まう、タンパク質の塊は日々、栄養を食らい成長している。寝床のパイプベッドは数年前の引っ越しの際にニトリで揃え一人であくせくしながら組み立てた。どこで買ったか忘れてしまった安物のマットレスを二つ重ね、金属の軋みを二段構えで軽減し浅い睡眠を貪っている。
最近購入した一万円の27インチモニターはベッドと窓の間にシンデレラフィットした可動式本棚の上にどっしりと腰を落ち着けて、今もこちらを黒い目で監視している。このモニターは新入りのくせに一番顔がでかい。その生意気さがなんとも初々しくて可愛らしい。
電源を喰らわせてやれば、ゲーム画面を映してくれる。このゲームというのが財布に痛手を与えた。金がない時にモニターに映らないが少し安い方を買ったために、モニター必須の方のゲームが欲しくなってもう一台新しく買いなおしたのだ。
この部屋には、唯一の収納スペースとして部屋の扉の横に押し入れがある。入居してすぐに湿気とカビ対策のために襖は取り外され常時丸裸の空間だ。内見の際から彼の腹に入れるものは決めていた。
本だ。売っても、売ってもなくならない。
引っ越しを機に選別したとはいえまだ数百冊を超える蔵書を押し入れ専用に拵えた手作りの棚に綺麗に並べている。最近また断捨離したのでまだ入るようだが、有事の際に空きがなくては困るのでこちら側で食事制限をかけて腹八分で抑えてもらっている。
行き場を失くして停留している濁った空気は、この部屋に一つしかない窓からしか出ていくことは出来ない。しかしその窓も大きいとはいえない。北側のために常に日当たりが悪く、更に夏になれば左半身にクーラーが寄生する。くもりだとか雨だとかは最悪だ。湿度が上がれば雑貨ラックに虫が湧く。調べたところ、害はないが、湿度と温度の上昇から高確率で発生し、発生源を失くさない限り駆除は不可能だそうだ。あ、また目についた。
嫌になってベッドと虫湧きラックのすき間にゴロンと寝ころぶ。通常、通路として存在するスペースだが、あらゆるものに居場所を奪われた結果この場所でしか足を伸ばして座ることが出来ない。もう一つあった空間も肉体をこれ以上傷めないようにと購入したゲーミングチェアが狭そうに中腰で収まっている。釣り合いの取れない安物の机のすき間に押し込まれている彼との攻防は一体いつまで続くのか。あと数時間したらそこから出ることが出来るかもしれない。
運動スペースが確保されていたり、凍えないでいられたり、クーラーの騒音に何度も目が覚めてしまうことのないように、他のことはなんでもいいから体だけは壊さないように。気遣いが過ぎて個性の殴り合いとなっているこの部屋に待っているのは、二年後の退室。その時になればこの湿気に愛された部屋も手放したくなるほど愛おしいものに変わっているだろうか。ただそれまでは。
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