【毎週金曜日更新】怖語り
フクロウ
第1話 線香の臭い
病院に心霊現象が多く起こるのは、ご存知のことだと思います。
私も実際怖い話を聞いたことがあります。
*
A病院は改築したばかりで、比較的新しい病院ですが、誰もいない部屋からのナースコールは日常茶飯事、亡くなった患者さんの人影もよく見かけられると、不可解な現象がよく起こると噂されていて、職員はもう慣れてしまうほどでした。
でも、その日は違ったらしいのです……。
一日中、嫌な雨が降っていた日でした。こういう日は体調を崩す患者さんが多く出ます。
そのため朝からナースコールがひっきりなしに鳴って、看護師さんたちは忙しく過ごしていました。特に新しく入院したTさんは、70歳の年の割には体つきががっしりしていましたが、初めての入院ということもあり、何度も何度も担当の看護師さんを呼び出していました。
最初は「何かあったらいつでも教えてくださいね」と、笑顔で対応していた看護師さんも、就寝の時間になっても変わらずコールが鳴るので、さすがに周りに迷惑がかかると、Tさんにやんわりと注意しました。すると、Tさんは笑顔で「そうかそうか、ごめんね」と謝りました。
その後、ナースコールは全く鳴らず、集中してカルテの整理をしていると、再びTさんのコールが鳴りました。またかと思って重い腰を上げると同時に、今度はTさんの隣の部屋のコールが鳴り、続いて向かいの部屋からも呼び出しが。
看護師さんがライトを片手に足早にTさんの部屋に向かうと、暗闇の中に人影が浮かび上がりました。
心臓が跳ね上がりましたが、その影は隣室のYさんでした。Yさんは「隣から変な臭いがするんだよ。線香みたいな臭いが」と言います。向かいの部屋からGさんも出てきて、「私には変な声が聞こえたんだが」と話します。
看護師さんの背中に冷たいものが走りましたが、Tさんの様子を確認しないわけにはいかないと、恐る恐る部屋に向かいました。
線香みたいな臭いはせず、声らしきものは聞こえません。深く息を吸って扉を開けると、Tさんはベッドで横になっていました。
容態を確認しようと看護師さんがTさんに近付くと、Tさんは急に起き上がって看護師さんの腕を強く握り締め、「なんではやくきてくれなかったんだ」と喉から絞り出したような声で言いました。
直後にがくりとうなだれると、腕をつかんでいた手が緩み、そのままTさんはベッドの下へ倒れ込んでしまいました。慌てて脈を確かめましたがもう息はありませんでした。
でも、そのとき確かに聞いたのです。ぶつぶつぶつと男の人の低い声で念仏が。そして、部屋中に充満する線香の臭いが。
これで終わりです。怖かったでしょうか。
え? どうして私がそこまで話を知ってるかって?
それは私が入院している病室がそのTさんと同じ部屋だからです。
◆◇◆◇◆◇
怖い話ショートショートを始めました。
短くサクサクと終わるけどゾクッとするような話を、いろんな書き方で載せていけたらと思います。
よければ応援やコメントなど、していただけると励みになります。よろしくお願いします。
長編ホラーはこちら↓
『シレイ』https://kakuyomu.jp/works/16818093078950727481
『餓鬼憑きあるいはヒダル神による一怪異』https://kakuyomu.jp/works/16817330666110633992
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます