怖語り

フクロウ

第1話 線香の臭い

 病院に心霊現象が多く起こるのは、ご存知のことだと思います。


 私も実際怖い話を聞いたことがあります。





 A病院は改築したばかりで、比較的新しい病院ですが、誰もいない部屋からのナースコールは日常茶飯事、亡くなった患者さんの人影もよく見かけられると、不可解な現象がよく起こると噂されていて、職員はもう慣れてしまうほどでした。


 でも、その日は違ったらしいのです……。


 一日中、嫌な雨が降っていた日でした。こういう日は体調を崩す患者さんが多く出ます。


 そのため朝からナースコールがひっきりなしに鳴って、看護師さんたちは忙しく過ごしていました。特に新しく入院したTさんは、70歳の年の割には体つきががっしりしていましたが、初めての入院ということもあり、何度も何度も担当の看護師さんを呼び出していました。


 最初は「何かあったらいつでも教えてくださいね」と、笑顔で対応していた看護師さんも、就寝の時間になっても変わらずコールが鳴るので、さすがに周りに迷惑がかかると、Tさんにやんわりと注意しました。すると、Tさんは笑顔で「そうかそうか、ごめんね」と謝りました。


 その後、ナースコールは全く鳴らず、集中してカルテの整理をしていると、再びTさんのコールが鳴りました。またかと思って重い腰を上げると同時に、今度はTさんの隣の部屋のコールが鳴り、続いて向かいの部屋からも呼び出しが。


 看護師さんがライトを片手に足早にTさんの部屋に向かうと、暗闇の中に人影が浮かび上がりました。


 心臓が跳ね上がりましたが、その影は隣室のYさんでした。Yさんは「隣から変な臭いがするんだよ。線香みたいな臭いが」と言います。向かいの部屋からGさんも出てきて、「私には変な声が聞こえたんだが」と話します。


 看護師さんの背中に冷たいものが走りましたが、Tさんの様子を確認しないわけにはいかないと、恐る恐る部屋に向かいました。


 線香みたいな臭いはせず、声らしきものは聞こえません。深く息を吸って扉を開けると、Tさんはベッドで横になっていました。


 容態を確認しようと看護師さんがTさんに近付くと、Tさんは急に起き上がって看護師さんの腕を強く握り締め、「なんではやくきてくれなかったんだ」と喉から絞り出したような声で言いました。


 直後にがくりとうなだれると、腕をつかんでいた手が緩み、そのままTさんはベッドの下へ倒れ込んでしまいました。慌てて脈を確かめましたがもう息はありませんでした。


 でも、そのとき確かに聞いたのです。ぶつぶつぶつと男の人の低い声で念仏が。そして、部屋中に充満する線香の臭いが。


 これで終わりです。怖かったでしょうか。


 え? どうして私がそこまで話を知ってるかって?


 それは私が入院している病室がそのTさんと同じ部屋だからです。



◆◇◆◇◆◇


怖い話ショートショートを始めました。


短くサクサクと終わるけどゾクッとするような話を、いろんな書き方で載せていけたらと思います。


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長編ホラーはこちら↓

『シレイ』https://kakuyomu.jp/works/16818093078950727481


『餓鬼憑きあるいはヒダル神による一怪異』https://kakuyomu.jp/works/16817330666110633992

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2024年7月5日 18:00 毎週 金曜日 18:00

怖語り フクロウ @hukurou0223

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