違和感

 帰る途中に考える


 ……情報集めと言ってもコラボと言う奴もした事は無いし他の配信者と関わってもない、再生数、チャンネル登録者数もそんな多くない。承諾はしたがどうやって集めるか


 情報を集めるには他の配信者やリスナーとなる探索者と関わる事が必要だがまだ実績が無い


 ……ちょっくらズルするか


 狛にそのズルの内容を書いたメールを飛ばす

 すると電話が掛かってくる


『とんでもない事考えたな』

「俺だから出来る裏技だぜ」

『確かに他の配信者じゃ出来ねぇな。でも許可は取ってるのか?』

「いや? あくまで思い付きの提案だ」


 鳴や詠見などを配信に呼ぶ

 俺の人脈があれば不可能では無い

 複数人の高レベル探索者と何度もダンジョン内で協力したり情報交換等で関わった事がある

 そしてそれは他の配信者では難しい行為

 高レベル探索者な上、見た目が良く人気の高い詠見や鳴となれば一気に再生数などは増えるだろう


『……確かに出来れば伸びるだろうが正直アンチが湧きそうでもある』


 名のある探索者を利用する行為、よく思わない者は多いだろう

 それも同業者の中に


「そうか、なら暫くは辞めておくか。ただ今回のイレギュラーで繋がりを得たって事には出来る」

『今回のイレギュラーで?』

「高レベル探索者が情報集めに出たろ? あれで俺は情報交換をしてる」


 実際に少しだが鳴とイレギュラーに関する情報の交換を行っているので全くの嘘と言う訳では無い


『あぁ、成程……なんで唐突にやる気出したか分からないが色々やるにしても取り敢えず下準備が必要になる』

「下準備?」

『まず最初は俺ら2人で雑談配信だ。コラボはまだ早い、そもそも俺ら自己紹介とかもしてないしな』


 生配信とダンジョンで戦闘してる動画のみ


「雑談なぁ話す話題ある?」


 雑談配信と言えば狛がやるかもしれないと言っていた


『基本ダンジョンについてでいいと思うぞ。丁度いい話題もあるし』

「良い話題?」

『生配信の振り返りって言う再生数稼げそうな』

「確かに良いなそれ」


 現在やっている生配信は2つ

 リザーベドル戦とリザーリオレム戦

 どちらも話題を呼んだ配信だ


『配信を見ながら要所要所で説明とか』

「成程、試しにリザーリオレムの方でやってみるか」

『そうだな、好評ならリザーベドルの方もやる感じで、配信は俺の家でやるか?』


 ……狛の家は有りだが、念の為に辞めておくか


 俺達は現在、異性同士だ

 その為、余りよく思わない人物も居るかも知らない

 そういった人物がアンチ活動をし始めたら面倒だ

 それに今は狛の家に住んでいないし鳴に言われた事を気にしない訳にも行かない


「いや、鳴の家から繋ぐわ。機材持ってねぇがまぁ買えばいいし」

『操作はざっくり教えるわ』

「任せた」


 電話しながらネット通販で雑談配信に必要な機材をササッと購入する

 配信を続ける限りいずれ必要になる事もあるだろう


 ……あっ、いやネット通信とか電気代とか断り入れないと流石に不味いか


 家主に許可を貰わないと不味い、居候の身だから勝手は出来ない


「配信手段は鳴に確認した後考えるか」

『家主の意思は絶対だからな。そんじゃまた夜通話するか』

「分かった。そんじゃ夜にな」


 通話を切る

 家に帰り鳴の帰りを待つ

 1時間ほど経った後鳴が帰ってくる


「……ただいまです」

「お疲れさん、昨日より疲れてるな? 何かあったのか?」

「ダンジョン内で調さんに会いました」

「あぁ……そりゃ疲れるわ」


 生真面目な鳴ではあの変人の対応は体力を使うだろう


「良い人ではあるんですけどね」

「まぁな」


 変人ではあるが悪い奴では無い


「調さんはイレギュラーと並行して別の事をしているようと言ってましたが知ってます?」

「俺も詳しい事は知らない」


 ……鳴に明確には伝えなかったか。少数で挑む気か。てなると暗殺か


 調は鳴にやんわりと伝えたようだ

 その理由は恐らく相手にバレないように少人数で挑みたいからだろう

 高レベル探索者が複数人動けば怪しまれるリスクがある

 それにイレギュラーの件もある、イレギュラーの件で高レベル探索者が派手に動いている間に裏で片付ける


 ……あっ、やべ調にメールしてねぇ


 参加出来ない旨のメールを急いでする

 するとすぐに『ふむ、事情があるのなら仕方が無い』と返ってくる


「イレギュラーはどうだった?」

「成果は何もありません。他のメンバーも見つかられなかったそうです」

「まじかぁ」

「暫くは週一で確認するようにとオモイカネから通達がありました」

「そんなに高レベル探索者を動かす金あるのか?」


 高レベル探索者の中にはプライドが高い者も居る

 オモイカネは報酬を惜しまないが捜査を継続するならその分報酬が必要になる

 オモイカネは大きな組織だがそれでも用意出来るのか心配になる

 特に今回は調と他数名の探索者が同時に別の活動をしている


「あるらしいですよ?」

「流石オモイカネ……あっそうだ鳴」

「どうしました?」

「配信関連でパソコンとか使う予定なんだが部屋にセットしていいか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 二つ返事で許可を得た

 配信をしている事を鳴は知っているからだろう


 ……事情知ってるからか。どちらにしろ助かるな


「助かる、電気代とか掛かった分はちゃんと払う」

「その辺の心配はしてないですよ」

「そうなのか」

「はい! それと他にも何か手伝える事があれば是非」

「いずれ頼む事あるかもしれん」

「その時、遠慮なく言ってください」

「分かった」


 夜に部屋で狛と通話する


「許可貰ったぞ」

『それは良かった。機材は?』

「纏めて明日届く予定」

『なら来たら教えるわ』

「頼むわ」

『あっ、そうだ。今生配信見てたんだが』

「何かあったのか?」

『リザーリオレム戦の時に不意打ち食らったろ? 腕折れた奴だな』

「あぁ、それがどうした?」

『動画で見たらおかしいんだよ』

「おかしい?」


 狛が見ている画面が共有される

 そして不意打ちを食らった時のシーンが再生される

 ドローンの映像は鮮明でその問題のシーンがはっきり映っていた

 動画で見ても素早過ぎて一度見るだけじゃその問題点が分かりづらいが


 ……立ち上がりも攻撃も遅い


 リザーリオレムの動きが遅い

 ゆっくりとまでは行かないが立ち上がり攻撃をするまで時間がある


『俺はあの時近くで警戒していた。俺もあの時全く反応出来なかった』


 狛は俺に言われて警戒していた

 俺のように汗を拭いていた訳でも無い狛も反応に遅れていた

 遅い訳が無いんだ

 ましてや遅いのなら障壁だって間に合ったはず


「動画は遅くなる機能でもあるんじゃねぇのか?」

『その機能は確かにあるが今流してるのは使ってない』


 それから俺が単独で戦うシーンも流れる

 リザーリオレムの動きは早くない、なんなら速度は本来のリザーリオレムと同じ

 俺の動きが鈍いのだ


 ……どうなってんだ? リザーリオレムも俺も遅過ぎる


 障壁で防ぐ時もだいぶ余裕はなかった

 腕を負傷して身体の動きが鈍くなったという話なら分かる

 流石に負傷した状態で同じ動きは出来ない

 しかしこれは俺の反応速度まで遅くなっている事になる


「遅いな。この速度に俺は苦戦してたのか?」

『リアタイで見た時は攻撃を受けてるから相手も鈍ったのかと思ったんだがこれ違ぇよな』

「違ぇな。意味分かんねぇ、どうなってんだ」

『考えられるなら……』


 この異変に俺は戦闘時全く気付かなかった


 ……使われた事を認識出来ない魔法とか? 聞いた事ねぇぞそんなもん


『イレギュラーは何かの魔法を使っているとか? デバフ系とか』

「デバフ?」

『デバフは相手にマイナス効果を与える種類の魔法とかで使われる』

「あぁ、有りそうだな。デバフ系の魔法……だとしたら厄介が過ぎるぞ」


 魔法を認識出来なかった

 魔法を使う様子も無かった

 対応出来る者は恐らく数が少ない

 もし対応出来ない人がイレギュラーに遭遇したら負ける確率はかなり高くなる


「これはオモイカネに伝えるか……いや、ホームページの情報提供の所に書き込むか」

『ホームページ……あぁそう言えば言ってたな』

「毎日ダンジョンで起きた事とか新しい情報が更新されるから便利だぞ」

『なら毎日見るか。何か問題起きた時に行かないように』


 携帯でササッとオモイカネのホームページを調べる


 ……有った。えぇっと、イレギュラーに関する情報で探索者に認識しづらい魔法を使っている可能性がある。戦闘時はイレギュラーのリザーリオレムは素早い認識だったが動画では従来のリザーリオレムと同じ速度であったと、こんな感じでいいか


 ログインして今話していた事を書いて送る


『そう言えば他にイレギュラーに遭遇したって話はあるのか? 高レベル探索者が行ってるんだよな?』

「鳴に聞いたが遭遇しなかったらしい、他の探索者もし遭遇していないと」

『まじか……』

「イレギュラーの発生には何か特殊な条件があるのかもな」

『有りそうだな……ってもうこんな時間か。悪い明日早いから、またな』

「おう、お疲れ」


 通話が切れる

 通話が切れた後、布団に寝転がる


 ……イレギュラーと良からぬ輩ってめんどくせぇなぁ。両方とも急がないと不味いし来週も階層主に挑んで確認するか。情報集めは……月詠が1番集まるか


 明日の行動を決めてから眠りにつく

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