後輩

 本来は複数のスキルを使い高いレベルのステータスで放つ八連撃の技

 圧倒的なステータスから放たれる高速の八連撃は相手に反応される前に切り終える

 しかし、今のステータスではそれは出来ない

 まず初撃でナイフを持つ腕を切り飛ばす

 二撃目で足を浅く切り逃げられないようにして三撃目で胴体を横に切る

 深く切る予定が浅い

 右側から斜め上に切り上げ素早く持ち方を変えて袈裟けさ斬りをする


 五連撃で止める

 その理由はもう斬る必要が無いから

 大量の血を流して殺人鬼は倒れる


 切られている事に気づかないなんて事は無かったが動く事は出来なかった


 刀をバックに仕舞う

 どっと疲れが来てその場に膝をつく


 ……負担が大きいな……


 死体を放置して広場に移動する

 ゲート付近に魔物は湧かない

 休憩をする


「殺したのは良いが……どう言うか」


 殺した場合はダンジョンを管理している所に報告をしないとならない

 レベル20をレベル8が倒すのは前代未聞の出来事

 間違いなく色々問われる


「……殺人鬼が死んでる。死んで間も無い、その上これは……」


 声がする

 その人物は死体を調べているようだ


 ……どう説明するかぁ


 殺した事を隠すことはできるが殺人鬼が別に潜んでいると思われるとそれはそれで困る

 どう説明するか悩んでいると声の主が現れる

 そして俺を見る


 ……高レベル探索者だからか。こいつが動くなら必要なかったなぁ


 その人物を知っている

 近接系のスキルを多く保有する高レベル探索者

 俺の後輩、結塚鳴ゆいづかめい

 雷のような黄色い髪の毛をした少女

 そして雷模様が目に描かれている


「君は」


 すぐさま観察系の進化スキルでステータスを確認する


「レベル8、それじゃ違う。殺して直ぐに別のゲートに行ったかな。ちょっと聞いていいかな?」

「な、なんでしょう?」

「ついさっきそこで戦闘があったと思うけど誰かこっちに来た?」


 ……どう答えるか嘘をつくか、いやだが説明が


 ゲート側に向かっていないとおかしい


「さっき誰かがゲートに入っていきました」

「何か特徴は覚えてる?」

「ええっと……あっ、刀、刀を持ってました」

「刀……成程、協力ありがとね」


 笑顔でそう言い残して鳴はゲートに入っていく

 ホッと胸を撫で下ろす

 何とかなった


 ……戻ってくる前に撤退するか。刀もスキルも一撃だけなら使えると分かった


 使えると分かればいざと言う時に使う手札となりうる

 休憩を終えて地上へ向かう

 殺人鬼の死体は放置する

 翼で魔物を倒して地上へ戻る

 何事も無かったかのように家に帰っていく


 〜〜〜


 8階層へ繋がっているゲートに入り殺人鬼を殺した人物を探すが見つからない


 ……もっと奥に行ったのかな


 その時携帯が鳴る

 近くの魔物を刀を振るい仕留めてから携帯を開く

 詠見先輩からだ


「詠見先輩どうしました?」

『進捗が気になってなぁ。殺人鬼は見つかった?』

「殺人鬼は見つかりました。ですが……」

『何かあったのかしら?』

「発見時には既に殺されていました。近くにいた人物から証言で戦いの後1人、刀を持った人物が次の階層のゲートを通ったと言う情報が有り捜索していますがその人物はまだ見つかっていません」

『証言、その人物が殺したとは思わなかったの?』

「彼女はレベルが8でした。レベル20に勝てるとは到底思えません」


 レベル20の探索者をレベル8の探索者が倒すなんて不意打ちでも無ければほぼ不可能、不意打ちも危機察知を持っていれば避けられる

 死体を確認して分かったが真正面から切り伏せられていた

 そんな事、到底出来ない事だ

 殺した人物が近接特化、殺人鬼が中距離を得意としていた場合なら懐に入ればやれるかもしれない

 それも懐に入れた場合、そもそもその前にやられる


 今回の殺人鬼は近接系のスキルを保有しステータスも近接寄りと言われている

 なら真正面からは絶望的


『彼女……いや、殺人鬼がいた階層は?』

「殺人鬼を発見したのは7階層です」

『証言した子は仮面付けてた?』

「はい、付けてました。独特なセンスだと思いましたが」

『見覚えは?』

「あの仮面に? そう思えば何処かで見た記憶はありますね」


 思い出そうとするが何処で見掛けたか鮮明には思い出せない


『それで刀使いは殺人鬼を一太刀で?』

「いえ、5回切っていますね。真正面から5回、恐らく動く間もなく切られていました」

『そんな芸当出来る刀使いは2人しか知らないわねぇ』

「2人!? それは一体」

『まず1人目は主、主なら可能のはず』

「確かに出来ますね」

『そしてもう1人、その人物に関しては貴女もよく知ってるわぁ。そもそも刀使いは少ないしその中でも高い力量を持つのは』


 刀は剣よりも扱いが難しい

 その上、市販の武器ではすぐに刃こぼれして受け方を間違えれば折れてしまう

 その為初心者の刀の使用者は少なくレベルが上がった後も慣れた武器種を使う事が多い

 結果的に刀を扱う人間は少なくなっていた

 そして刀使いでも高速で複数回切り裂くと言う芸当が出来るのは数が少ない


「……悠永先輩」


 何かあったと考えていた

 ダンジョン内に置いての何かそれは殆どの場合で死を意味している

 いつもなら返信されるメールに返信がなかった

 律儀に返す彼が返さなくなったのだ


「悠永先輩が生きてる?」

『可能性はあるわぁ。メールも死んでいないけど言えない事情があるから返信を渋っているとか』

「すぐに電話を」

『したとして出ると思う?』

「……出ませんよね」

『ただ今の話を聞いて何となく予想がついたかも』

「と言うと?」

『ちょっと試してみるかしら』

「何か協力出来る事は?」

『あるわよぉ』


 計画を言われる


 ……は?


 計画の内容に驚きを隠せない


「そ、それは」


 かなり危険な行為

 しかし、詠見先輩が訳もなくそんな事をするとは思わない

 そうしてまで暴きたい事がある


「わかりました。やります」

『話が早くて助かるわぁ』

「それでは捜索は打ち切りにして死体を回収後準備します」

『よろしくねぇ』


 通話が切れる

 すぐに戻り死体を回収する


「居なくなってる」


 少女の姿は無くなっている

 死体を回収して地上を目指す

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