廃人ゲーマーの天才魔術師が人々を"セーブ"するお話

西洋躑躅

第一章 廃人ゲーマーの天才魔術師

第0話 現神と呼ばれた魔術師

 ヨーレンス大陸の南東に魔術大国と呼ばれたクヴァレスという名の国があった。

 北部は険しい岩山、西部は瘴気漂う森、南東は広大な砂漠が占める凡そ人が住まうには適さない土地で、人々は生き抜く術を魔術に求めた。

 過酷な環境に囲われたクヴァレスは他国との交流も殆ど無く、必然的に魔術も他国のものとは違う独自の発展を遂げ、クヴァレス式と呼ばれる魔術は高度な制御と複雑な構築式を要求される反面、他国が用いる魔術とは一線を画する力を持っていた。

 故にクヴァレスの魔術師と他国の魔術師の間には明確な力の差が存在し、クヴァレスでは一介の魔術師でも他国に渡れば宮廷魔術師として無条件に迎え入れられる程である。


 そんなクヴァレスで魔術師として大成するのは容易な事ではない、しかしそこに魔術を覚えて僅か三年でクヴァレスの魔術師として頂点に上り詰めた天才が現れた。

 彼の力に焦がれた者は彼を"目標"と呼び、また彼の力を恐れた者は彼を"怪物"と呼び、そして彼の力を崇拝した者は彼を"現神"と呼んだ。

 その力は彼一人居ればヨーレンス大陸全土を征服出来ると噂される程であり、彼の出現によってクヴァレスは黄金時代を築くのだと信じられてきた。


 だが彼が頭角を現してから二年後、クヴァレスは突如として滅びる事となる。

 その原因は不明で、奇跡的に難を逃れた者により"彼は禁忌に触れた! クヴァレスは神の怒りを買った為に滅びたのだ!"という根拠もない噂ばかりが広まった。

 各国は難を逃れたクヴァレスの魔術師達を奪い合いながらを探したが逃れて来た魔術師の中に彼の姿は無く、クヴァレスが滅びた原因を探ろうとするもクヴァレスが存在した土地は淀んだ魔力に満ち、人が立ち入る事すら不可能な土地へと変貌していた。


 魔術大国と呼ばれたクヴァレスが一瞬にして滅びた事実はヨーレンス大陸に衝撃を齎したが、人間というのは時が過ぎれば忘れていくもの、それが他人事であれば尚更だ。

 それから十年が経ち、クヴァレスという国の名も、禁忌に触れたという魔術師の存在も人々の記憶から忘れ去られた頃からこの物語は始まる。

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