異世界魔王の世界征服! ~中々いい世界だ、我が貰ってやろう~
雨丸令
第一章
1部
第1話
統一国家アドラメレク。第0秘匿室。中枢。
今日。2mの巨躯。夜空の髪。神族の証たる金眼を持つ、世界で最も勇敢で誠実で最強にカッコいい偉大な男――つまりこの我は、歴史に残る実験を行う。
――異なる世界へのランダム転移実験。
これが成功すれば、間違いなく我が国の歴史は大きく動くだろう。
眼前では起動準備中のポータルが唸りを上げている。
ゴウンゴウン、とけたたましい音だ。
耳を遮るほどではないが……これはいずれ改善させなければならんな。
「――ひどい人。結局、わたしを置いて行っちゃうんですね」
そう拗ねた口調で言ったのは我が妻の一人たるスェリア。
浅緑色の髪と、たおやかかつ美しい美貌を持った神族の女だ。
あと胸がすごい、胸が。こう、ボーン! という感じで。
「クワハハハハハッ! すまんな、スェリアよ。だが許せ。やはり征服こそが我が人生、我が生き甲斐であるからな。この在り方はしばらくやめられそうにない。……しかしだ。貴様も己の夫が、ぬるくなった世界で徐々に腐る姿など見たくなかろう?」
なにしろ我が生まれ故郷たる世界は征服し尽くしてしまった。
我が目にしていない地は既になく、我が民でない者も存在しない。
新たな地を征服しない我など我ではない。このままでは我は自己矛盾を起こし、本能のままに暴走する史上最悪の暴君となってしまう事だろう。
であれば、新たな世界に新たな大地を求めるしかない。
それこそが“征服する魔王”たるこの我の、存在意義であるが故に。
「それはそうですけど……もうっ! それでも寂しいんです!」
「クワハハハッ! 愛い奴よ。それでこそ愛で甲斐もあるというものだが」
スェリアは共に行きたいと考えているようだが、それは出来ん。
なにせこれから行なうのは、命懸けのランダム転移。我ならばともかく、死を有する者であるスェリアでは万が一失敗した時、致命的になりかねん。
それは許容できん。それを許すほど我は楽観的にはなれん。
妻を危険から遠ざけたいというのは、夫たる者のありふれた願いだろう?
「案ずるな。拠点さえ確保できれば、こちら側でポータルを設置する。そうすれば遠からず貴様も付いてこれるだろう。そう時間を掛けるつもりもない」
「一緒に行けないのが嫌なんです! なんとか出来ないんですか?」
「と、言われてもな。流石に専門外だ。他者を伴って安全にランダム転移を行なう方法など、我は知らん。技術開発局の連中にでも命じて探させておけ」
連中は新たな技術を生み出す事に人生を捧げた生粋の変態共だからな。
無理難題を振ってやれば、盛りの付いた犬のように喰い付くだろう。
――その時。唸りを上げていたポータルが静まり、青い光を放ち始めた。
「ふむ。どうやらポータルが起動準備を終えたようだな」
「そんなっ、もう行ってしまうのですか? ……せっかく二人きりなのに」
「すまんな。だがこの衝動は如何ともしがたいものなのだ」
「わたしも神族だからそれは理解できますけど……うぅ」
我とて何が何でも妻と離れたい訳ではないが、技術的な事はどうしようもないからな。申し訳なくはあるが、スェリアには我慢してもらう他にない。
あるいはなんとか出来る権能を持った神もいるかもしれんが……それはな。
「我はそろそろ行く。スェリアよ、いい加減拗ねるのをやめよ」
「うぅ……はい。分かりました。――ごめんなさい、もう大丈夫です!」
一声命じれば、我が妻は瞬きの合間に切り替えた。
見事よな。この感情の切り替えは我でも真似は出来ん。
「我が留守の間、国の事は全て貴様に任せる。恙なく統治せよ」
「任せてくださいませ。このスェリア。支配と安寧、そして母性を司る神として、またあなた様の最初の妻として、恙なくアドラメレクを統治してみせますわ」
我の命を受けた我が妻は、自信に満ちた姿でそう言ってのけた。
「クワハハハッ! それでこそだ。貴様になら安心して国を任せられる」
スェリアにはアドラメレク以前に、長いこと国を治めていた実績もあるからな。我のいない国を任せる相手として、これ以上の者は存在しない。
……まあ、スェリア以外が壊滅的だからというのも少しはあるかもしれんが。
「ではな、我が妻よ。――行ってくる」
「はい。行ってらっしゃいませ、アラク様」
妻の下から離れ、青く光るポータルの中へと移動する。
ポータルの中から見える景色は相も変わらず幻想的だ。世界が淡く青に色付き、普段とは違う顔を覗かせる。
こちらをしかと見据える妻の顔も、常とは違って見える。
「…………フッ」
しかし異なる世界か。それは一体どのような場所だろうかな。
人のいる世界だろうか。それともいない世界だろうか。熱いのだろうか。寒いのだろうか。我が想像もできないような何かが、果たしてあるだろうか?
興味は尽きない。想像はどこまでも広がっていく。
願わくば我が楽しめる世界だといいが。それは贅沢か?
「――さらばだスェリア、そしてアドラメレクよ! しばしの別れだ。我は新たな大地を求め世界を超える。我がいないからといって泣いたりするのではないぞ?」
さあ――新たなる世界へ出発の時だ!
ポータルが激しく発光をはじめ、我の身体を持ち上げる。大量の魔力が吹き荒れ、上下に精緻な魔法陣が展開され――そして。瞬きの間に我はその場から消えた。
「あなた様からの連絡をお待ちしております、アラク様。――いつまでも」
次に我が目覚めたのは、やけに視界の悪い場所だった。
「ん? なんだこれは。霧……いや湯気か?」
とにかく視界が悪すぎて周囲の状況がまったく分からない。ひとまず即死するような場所に出たわけではなさそうだが……これではなにがなにやら。
しかし次第に眼も慣れてきたのか、段々と周囲が見えてきた。
その結果分かったのは――肌色?
「……女、か?」
周りには何故か裸の女が大勢いた。
みな一様に我の方向を見ている。
「はて。ここは一体どこだ?」
――次の瞬間。耳をつんざく大きな悲鳴が周囲に響き渡った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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