冒険者マッチングアプリ

ちびまるフォイ

命を預ける仲間を見つける難しさ

「冒険者さま! どうかお待ちになって!」


「どうしたんですか村娘さん」


「実は来月魔王軍がこの街を襲うと予告状が!」


「予告状!? なんでそんなもの!?」


「事前にアポとるのがルールみたいです」


「魔物もそんな時代になったのか……」


「この村は働き手もいないので迎え撃つこともできません。

 冒険者さま、どうかこの村を守ってください」


「もちろんです。ただ、魔王軍ともなれば大軍勢が想像できる。

 私は仲間を集めて必ずここへ戻ってきます」


「お願いします。どうかこの村を見捨てないでください」


「もちろんです!!」


冒険者は急ぎ王都のギルドへ向かった。

そこで腕利きの仲間を集めて必ず村に戻ることを誓って。


「いらっしゃい。ここは街のギルドだよ」


「お願いだ。ここで評判の腕利きの冒険者を紹介してくれ」


「いや、うちじゃそういうのやってないんだ」


「え? でもここギルドだと言ったじゃないか」


「今じゃみんな冒険者マッチングアプリで、

 自分に合う仲間を探して冒険に出ているからね。

 ギルド側から紹介するのはもう辞めたんだ」


「ま、マッチングアプリ……」


「仲間を探してるならあんたも登録して始めたほうがいいよ」


こうして冒険者は仲間を集めるためにマッチングアプリを始めた。

アプリには自分の求める条件に合致した冒険者の候補が表示される。


それに対し「いくぜ」を送り、相手がそれに「OK」を送ればリンク開始。


やっとその冒険者とのやり取りが始まる。


「……なんてまわりくどいんだ……!」


それから冒険者は見境なく冒険者に「いくぜ」を送りまくった。

しかし、相手から「OK」が来ないので仲間は集まらない。


「ぬあああ! なんでマッチングできないんだ!!

 こうしている間にも魔王軍が来るかもしれないのに!!」


ギルドで頭を打ち付けていると、通りがかったギルドの職員がアプリを覗いた。


「ああ、冒険者さん。それじゃだめですよ」


「だめ? 何が? どこが?」


「まずほら。プロフィールぜんぜん書いてないでしょう。

 冒険者は命をあずけあう間柄なんだから、

 相手の冒険者像が見えないと警戒しちゃうんですよ」


「は、はあ……」


「それに写真も自撮りじゃないですか。キモいですよ」


「自撮りキモいの!?」


「冒険者じゃパーティで行動するんですよ。

 自撮りは自分以外に撮ってくれる仲間がいません。

 そんなふうに思われちゃうんです」


「そこまで見るもんかね」


「みんな冒険者マッチングアプリをやってるんです。

 その大多数の中で出遅れたら終わりですよ」


こうしてギルドの職員にあれやこれやと手直しをうけた。

その後に押した「いくぜ」にはやっとマッチしてくれる冒険者が現れた。


「やった! ついにマッチしたぞ!」


「よかったですね、頑張ってください」


「なぁにマッチさえすればこっちのものさ!!」


マッチができれば今度は冒険者同士のメッセージのやり取りができるようになる。

冒険者ははやく村へ生きたいのでメッセージを急いだ。



>こんにちは。あなたの職業とレベルを教えて下さい


>え……。魔法使いのレベル12です。


>覚えてる魔法は? どういった戦術が得意ですか?

 これまでどんな冒険者とダンジョンに行きました?



>あれ? どうしたんですか? もしもーーし



>おーーーい



それきり連絡は来なくなった。

冒険者は失意にくれた。


こんなメッセージをやっている間にも村には危険が迫っている。


「冒険者さん、そのメッセージは……」


「え゛! またなんか良くなかった!?」


「警戒してるって言ったでしょう。面接じゃないんだから。

 もっとお互いの好きなダンジョンとか話して

 意気投合してから、軽く簡単なダンジョンに誘いましょう」


「ええ……?」


「めんどくさそうな顔しないでください。

 相手は得体のしれない冒険者と冒険に出ることになるんです。

 ステップを踏んで安心を積み上げていかなくちゃ」


「こうしている間にも魔王軍が来てるかもしれないんだぞ!」


「でも仲間は必要なんでしょう!?」


「ぐ……」


冒険者は言い返さず、丁寧なやり取りを続けることにした。


アプリで表示された冒険者に「いくぜ」を送り、

やっとマッチしたらこそばゆいメッセージのやり取り。

好印象までこぎつけたらダンジョンへと誘う。


この最終ステージまでたどり着くのはごくわずかだった。


蜘蛛の糸をたぐり寄せるように取り付けた初冒険。

王都の近くのレベルの低い洞窟を終えたときだった。


「今日はありがとうございました」


ともに洞窟へと潜ったマッチング冒険者は頭を下げた。


「こちらこそ。お互いの連携もよさそうだとわかったし

 それじゃ魔王軍に襲われる村を守りに……」


「あ、辞めておきます」

「え」


「一緒にダンジョン入って思ったんですけど

 やっぱりあなたとはムリだなぁって」


「えええ」


「自分でぐいぐい前に進んじゃうし」


「いや俺戦士だからね!?」


「回復してくれないし」


「MPないからね!?」


「それに最初の冒険が洞窟って……。

 靴とか汚れるじゃないですか」


「もうどうしろっていうんだよ!!!」


結局、やっとこさ初冒険にまで誘えた相手からは

最後の最後にデカめのダメ出しでメンタル削られるだけとなった。


再び自分は独り身冒険者へと身を落とす。


また賽の河原で石を積むかのごとく

大量の「いくぜ」を送り、膨大なメッセージのやりとりをし

やっとこさ冒険にこぎつけられても見放される。


「こんなの……やってられるかぁぁぁ!!」


ついに冒険者は耐えられなくなってアプリを捨てた。


「なにが冒険者マッチングアプリだ!!

 こんな回りくどいことしているうちに

 村が襲われたら元も子もないじゃないか!」


冒険者は王都で一番の武器屋へ行きブーメランを買う。

道具屋でアイテムを買い揃え準備を整えた。


「決めたぞ。仲間なんているもんか!!

 仲間とマッチングできなくても、

 俺がひとりで村を守ってみせる!!」


冒険者は馬車を走らせ村へと急いだ。

幸いにもまだ村は魔王軍の襲撃を受けていなかった。


「ああ、冒険者さま! お戻りになったんですか!

 ……あの、おひとりで?」


「そうとも。だが安心してくれ。

 この命に変えてもこの村は絶対に守ってみせる!!」


「でも魔王軍相手にひとりというのは……」


「アプリごしに知り合ったぎこちない仲間と戦うくらいなら

 ひとりのほうがむしろ強い!」


じゃっかん言い訳っぽさが前に出ているが、

たとえ一人であったとして見捨てずに戻ってきたので文句は言えなかった。


そして、ついにそのときが来た。


「あ! 来ました!! 魔王軍です!!」


来たか……!」


冒険者は生唾を飲み込んだ。


正直勝てる見込みなんてこれっぽっちもない。

負けるとわかっていても、挑まなければならない。


魔王軍のおどろおどろしい旗印が近づいてくる。


「さあ来い魔王軍……!

 どれだけ大勢であろうと俺がやっつけてやる……!」


冒険者は自分を奮い立たせて剣を構えた。

ついに魔王軍が姿をあらわす!



そこには、魔王軍の幹部ゴブリンが1匹だけだった。



大軍勢の足音は後ろのスピーカーから流されていた。


「貴様、なんでひとりなんだ!!」


無神経な冒険者は気が動転し、魔物へ禁断の質問を投げつける。


ただひとり魔王軍としてやってきた魔物は、

恥ずかしそうに顔を赤らめながら答えた。



「魔物バイトアプリに誰も応募してくれなくて……」



「そんな状態なら来るなよ!?」


仲間をひとりも集められなかった冒険者は特大ブーメランを投げつけた。

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