バレてないと思ってる幼馴染が今日もカワイイ

pan

気づかないフリ

「えいっ」


 坂町さかまち千夏ちなつは僕の幼馴染である。


 今日も今日とて、僕にちょっかいをかけているようだ。

 机の上に突っ伏す僕の頭にペンでも突いているのだろうか。軽い力で押されているから感触があまりない。


「おーい、あきくーん」


 起こそうとしているというより、起きていないかどうか確認する程度の声量で名前を呼ばれた。

 僕のことをあだ名で呼ぶのは千夏くらいで、学校のみんなには鹿目かなめくんだのあきらだのと呼ばれている。


「あきら」だから「あきくん」。なんとも無難なあだ名だ。


 そんな彼女だからこそ、こうやって単純でバレバレなちょっかいをかけてくるのだろう。


 幼稚園の頃から一緒で、よく一緒になって遊んでいた。その頃は僕も「ちーちゃん」とあだ名で呼び合っていた。


 だけど、中学生になったタイミングで、急に僕が恥ずかしくなってあだ名を止めた。その頃からだろう、僕にちょっかいを出し始めたのは。


 ノートを見せてと言われて貸したら隅っこに落書きを残して返してくる。

 お菓子を作ってきたら余り物だからと言って渡してくる。

 雨が降った日に傘忘れたからと言って僕の傘の中に入ってくる。


 もちろん、僕はすべて気づいている。


 ノートの隅っこといいつつも他のページになければ分かってしまうし。

 余り物だからと言われてお菓子の入った袋に僕に名前が書いてあったし。

 一緒に相合傘をしたときも千夏のスクールバッグから折り畳み傘が見えていたし。


 どうにか理由をつけて僕に構ってほしいのか。その真意は分からないけど、とりあえず気づいていることは伝えていない。


「とりゃっ」


 何かが頭に当たったような感じがした。

 あれか、消しかすを飛ばしてるのか。小さい頃それで怒られたこともあっただろう。


「とうっ」


 また何か飛んできた。さっきとは打って変わって重たい感触。

 まだ消しかすを丸めたものとも言えるような。とは言え、これ以上やらせるのもいかがなものか。


 そう思った時、もの凄い勢いで机が揺れ始めた。机の上にあった筆箱から音がカタカタと鳴る。

 おそらく、消しかすを大量に作っているのだろう。でも、そんな勢いよくやらんでもいいだろうに。僕が起きてしまったらどうするつもりなんだ。


「よしっ」


 何か出来てしまったようだ。

 と、思ったらまた机が揺れ始めた。もしかして、射的みたいなことしようとしてる?


 そして、揺れては止まり、繰り返すこと十数回。


「ふう、できた……」


 え、何。今回ばかりは少し怖いんですけど。


「よいしょっと」


 ちょっと待て。これから何が起きるんだ。


「ここらへんでいいかな……」


 獲物を狩ろうとしてるハンターかなんかですか。ホットスポット見つけたような物言い止めてください。


 それからは何やらガサガサと物音がするばかり。移動しているのか、たまに脇から影が見えることがしばしば。


 なんなんだ、いつまで動くつもりだ。僕ってそんな恰好の獲物か?

 というか僕が寝ていることさえも忘れているような気がする。さっきから僕の隣を行ったり来たりしている。


「よしっ」


 真横から千夏の声がした。って、なんで真横?


「そうっと……」


 なになになになになに。何をするつもりなんだ。


「よしっ!」


 そう怯えている間に何かが終わったようだ。マジで何だったんだよ。

 もうそろそろ起きるか。まあずっと起きてたんだけど。


「ん」

「ぬあ!?」


 のそりと上体を起こした途端、千夏は仰け反った。

 とりあえず寝ぼけたフリをしておこう。


「何してんの」

「な、なにもしてないよ!?」


 目を泳がしてるからバレバレだっての。そんなに動揺してたら起きてたとも言いづらい。

 咄嗟に隠した手にはスマホが見えるし、こっそり写真でも撮ろうとしてたのか?


 とは言え、今回は寝ているフリだったから驚いたような反応が見れた。ちょっと悪いことをしている気分になる。

 しかし、ガタガタ揺れていたのは何だったんだろう。僕は気になって千夏に向けていた目を机の上にやった。


「とうっ!!!!」

「は!?」


 その途端、机の上に置かれていたノートが吹っ飛んだ。ノートに乗っていた筆記用具や消しかすも散り散りになり悲惨な状態。ここ、僕の部屋なんだけど……。


 今回はどうしてもバレたくないらしい。幼稚なことではあると思うけど、そんなに恥ずかしいことなのか。


 千夏はスタスタと何事もなかったかのようにノートを取りに行く。消しかすはというとほったらかしにしている。まるで、消しかすなど最初からなかったかのように。


 そのまま僕の対面に座ってきた。


「よし、じゃあ続きしようか」

「いや、何の!?」

「何って、宿題だよ」


 そうだった。宿題を一緒にやろうって言われてたんだった。


 千夏は僕より成績いいはずなんだけど、いつも誘ってくる。分からないところがあるわけでもないだろうに、僕に質問だってしてくる。その内容はちゃんとした勉強に関することで何もやましいことはない。


 急な真面目モードにギャップが追いつかないけど、まだ終わってないしやり始めるか。


「あれ、消しゴム……」


 なにやら探し物をしているようだ。さっきノートを吹っ飛ばしてからな、そりゃ見失う。

 千夏は机周辺を探しているようだったので、僕はノートが吹っ飛んでいった方向を見てみた。すると、消しゴムと思われる長方形の物体を見つけた。


 まあ、消しゴムといっていいのかわからないほどに薄いけど。


 とにかく見つけたから渡してやらないとな。そう思い、消しゴムに手を伸ばしたところ、何やら文字のようなものが見えた。


『好き』


 ほう、そうきたか。


 消しゴムをわざと探させて、僕に見つけさせる。そしてこの文字を見つけさせて面白がる作戦だな。

 今までにもこういった類のちょっかい、というよりもからかいは受けてきている。まあ、ここはいつも通り気づいてないフリでもするか。


「消しゴムってこれ?」

「そう、ってええええ!?」


 あからさまな動揺。整った容姿に見合わぬ形相。

 本当に、普通に過ごしていたら引く手数多の美人さんなんだけどな。どうして僕といるとこんなんになってしまうのか。


「ほい」

「え、あ、ありがと……」


 とりあえず渡しとこう。これ以上もったいぶっても仕方ない。

 そして、僕は何事もなかったかのように座った。


「……ねえ」


 さっきとは裏腹に、弱々しい声で呟いた。


「その、見てない?」

「ん? 消しゴムしか見てないけど?」

「……よかった」


 何が良かったのかわからないけど、安心しているご様子。

 僕はこの時の表情が一番好きなのだ。笑顔とも違う、どこか優しい表情。

 だから、僕はバレてないフリをする。


「ま、続きやるぞ」

「うん!」

「あ、その前に。消しかすを集めなさい」

「あ、はい……」


 千夏はしょんぼりとした顔で、黙々と部屋に散らばった消しかすを集め始めた。






 ――――――――――――――――――――――


 ○後書き


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