第261話 試合続々
その後も順調に、そして強烈で過激な試合は続いていく。
第四試合はガルガ対レイド。
ガルガはチャンパオと籠手を装備し、殴り主体のスタイルで。
レイドはメテオに師事しただけはあり、赤い火属性との親和性が高そうな剣を。
二人の戦いは漢臭いと言える程の正面衝突。正々堂々を体現したかの様な戦い。
激しい金属音と二人の纏う火属性の魔力が派手に散っては弾ける様は、見ているだけでその熱さを感じさせた。
そのまま白熱し盛り上がっていく闘技場と戦い。
ガルガは【夜叉】を発動しゴツく大きな身体となり、さらに腕を赤く燃やしていく。
レイドは全身に火属性の魔力を纏う。まるでその技はメテオが使う『炎耀』。
だがメテオに比べるとまだまだ安定しておらず、魔力が揺らぎ、その熱を一定に保てず、身体強化も半端に見える。
ラストスパートに入った二人の戦いはガルガが一方的に押し、レイドがなんとか捌く事で続いていた。
そんな中、ガルガの魔力が底をつきかける。ただでさえ【夜叉】は魔力を大食いすると言うのに、未熟ではあれど部分的な『炎耀』を併用していたガルガはこの間に決め切らねばならなかった。
そしてレイドはそれを分かっていたのだろう、全力で耐え忍び大きな隙を待ち続け、遂にきたその瞬間に敢えて揺らがせていた魔力を安定させ、その勢いでガルガを下した。
泥臭いながらも、戦術を組んでいたレイドの勝利に終わる。
第五試合はラナラ対ゼガン。
超接近戦を好むラナラと中遠距離を得意とするゼガンの戦いだ。
登場したラナラもガルガと似た装束を身に纏っている。他に武装は腰に刺した二本の棒と、鉄と赤の脚甲が見て取れる。それでも最低限の装備と言ったところか。
本人曰く感覚が鈍るのが嫌いだからだそうだ。
相対するゼガンは、胸や関節を守る程度の装備と細剣。特筆するべきは手に持つ青い細剣と、その足に履く淡い緑が差し色のブーツだろう。
そんな二人の戦いは思いの外一方的な展開を見せる。
開幕速攻を仕掛けたのはラナラ。
アッシュから教え込まれてつい一週間前にようやく形になった精密身体強化による鬼人の強化幅は獣人のそれに匹敵する。
もちろんゼガンも当然の様に精密身体強化を使用するが、出遅れた一歩で距離を詰められる。
ゼガンが手に持つ細剣は防御に使うには細過ぎる。仮に今のラナラの蹴りを細剣で受けた日にはポッキリ折れてしまうのが想像に難くない。
故に避けに徹するゼガンだが、何もしない訳が無い。
ゼガンの得意な戦いは飽くまで魔法。細剣を手に取ったのは、昔ジェイナに一人で武器の訓練をさせたくなかったからだ。そんな理由でも使い続けていたが故に今も手に持つが、ゼガンの本質は魔法使い。
彼の履くブーツが風に覆われ、靴底から収束された風が噴射されるとゼガンは少しの間空を飛んで距離を取って見せた。
そして距離を取られたと言う事は展開はひっくり返る。
ゼガンの背後いっぱいに風と氷が溢れ、その冷気が舞台に吹き荒ぶと共に絶え間の無い魔法による弾幕が展開される。
それをラナラは腰に刺していた棍棒を引き抜き、脚技と棍棒で心底楽しそうに笑いながらその全てを対処していく。
だがその
それは『炎耀の剣』が一人ネーレが槍で用いていた技。その技の練度を上げてゼガンが自分用に落とし込んだものだ。
それは確実にラナラに刺さるかに思えた。だがそうはならなかった。
ラナラもまた火属性を嗜む者。得意の脚技に炎を絡めて撃ち放てば、それはゼガンの技の相殺に至る。
果たしてこれは誰の技なのか。メテオ? アッシュ? いや違う。これはミルの技。
近距離だけではやっていけないと理解はしていたラナラは、同じ武術を嗜む者としてミルと共に研鑽した。それにより学んだのが武術で持って魔を放つ武技。
至近距離に加えて中距離までもを自分の領域にしたラナラは強かった。
だがゼガンはそれを超えて強かった。
加減していた冷気と風がどんどんと、益々と、さらにうねりを上げて吹き荒ぶ。
春の陽気はどこへ消えたのか吹雪が巻き起こり、視界不良の中で魔法は絶えず放たれる。
ゼガンは一歩も動かない。魔法達を指揮する様に細剣を振っては次々と作り出される強烈な魔法を叩き込み続けたのだ。
ラナラはここが切り時かと【夜叉】を使う。
その脚力で以て迎撃では無く回避に動き、激しい緩急を伴う動きで照準をずらして肉薄していく。
だがそれでもゼガンには届かない。
氷の様に冷静な眼差しでゼガンは剣の先に圧縮凝縮された、ディクトのそれよりもより濃密な嵐の塊を構える。
夜叉化したラナラの速度と脚、ゼガンの腕と細剣を含めたリーチの先から放たれる魔法。
果たしてどちらが先にその攻撃を届かせるのかは、本人達なら分かっている。
ラナラが【夜叉】を解いて武器を収め降参を宣言する。
それを受けてゼガンもまた冷酷な瞳と魔法、そして武器を収めて握手を交わした。
ゼガンとて、ここで負ける訳には行かないのだ。
グロックの猛りは見ていた。自分もまた同じ思いを抱いて居た。
一人で突っ走る大馬鹿野郎に並走出来ない友人では恥ずかしい。自らの強さを示す為にも、手始めに優勝を掻っ攫うべく全力も見せずに戦い終えたのはその為だ。
入場口に入り人の目が消えた瞬間、ゼガンの頭は思考に入る。その他有力選手を叩きのめす為に。
第六試合はリアンダ対ミル。
青いローブと青い魔石が嵌った大きな杖を手に現れたリアンダは自分に降り注ぐ歓声におどおどとしながらも丁寧に礼を返す。
リリエラに魔物素材で作ってもらった袴姿で現れたミルは、ラナラと似た理由から動きを阻害しかねない装備は着けない。
強いて言うならアッシュとお互いの瞳の色を模したブレスレットを身に付けている程度。
そしてミルは対照的に観客からの歓声に全く動じず反応も返さない。ただその瞳と大きな狐耳が忙しなく観客席へと向けられていく。
やがてお目当ての者を発見出来なかったのかへにゃりと耳を倒したミル。
それを気遣うリアンダと言った、これまでの殺伐さを消し去るかの様なほのぼのとした空間に、観客達の心が息つく暇を得る。
そして舌戦とは名ばかりのお互い頑張りましょうと応援し合う形で始まった二人の戦いは————
————初手で舞台が水没した。
入場口の方にはいつの間にか土魔法で小さな堰が作られており、水が溜まる様にリアンダが即座に動いていたのだ。
意図は単純、水を溜めて水で攻撃する。同時に武術家であるミルの機動力を奪う為だ。
登場時のおどおどとした姿から一転、全く容赦も詰めの甘さも無い迅速な陣地作り。
これにはミルも苦笑いを見せつつ、即座に精神統一と精密身体強化。
足元にある水の全ては再現の水。よってミルにも干渉は可能。そしてミルの得意魔法は水魔法。不利ではあれど、窮地では無い。
それに水自体にも様々な使い道がある。そう例えば。
ただ単に足で掬って水を相手に蹴り飛ばすだけ。
機動力を削がれたのは向こうも同じ。そして水は存外視界を奪ってしまう。
蹴り上げられた水による一瞬のヴェール。それはミルの動きをリアンダに読み取らせない。
直後ミルが放つのは『衝掌』で水魔法を打ち出す『水衝』。それは水のヴェールを吹き飛ばしリアンダに迫る。
が、リアンダはそれをまるでゼリーの様に柔らかな水で受け止め相殺。
そして戦いは動き出す。
リアンダの操る水は形を崩す事無く物に干渉し、持ち上げる事も出来る特殊なものだ。その柔軟性と弾力は攻撃を受け流し威力を殺すと言う意味では最高の魔法。
リアンダの水魔法は何故か昔からこうだった。普通の水を出す事にも苦労した幼少期。
この特異性は武器なるのではないかとラディアル入学を目指し、入学後にナツメに見初められて技を磨くに至る。
が、何も順風満帆だった訳ではない。多くの者から除け者にされ、馬鹿にされ笑われてきた。
唯一側に居てくれてのは幼馴染のクミ。彼女が居なければとっくの昔にリアンダは折れていただろう。
……まあ、今となっては昔の話。タイアと出会ってからは面白いだの凄いだの、とにかく褒めそやされて来たのだ。
形成された臆病な性格を矯正するには至らずとも、自負を持てない訳では無い。
リアンダは知っている。自分の魔法は凄いのだと。
だが、ミルとてそれは知っている。エレア達に喰らい付いた猛者が弱い訳が無いのだと。
小手調べはもう良い。己が全霊で打ち倒すべきリアンダを見遣る。
リアンダもまた、杖を構えて足元の水を特異な水へと変える。
動き出しはミルが一歩早かったか、真っ直ぐに前進するミルを水の触腕が捕らえに掛かるも絶妙な力加減で水を外へと受け流し逸らしていく。
だが足元の水はすでに特異。リアンダに近づく程にそこはリアンダの領域となる。
ミルが動いて尚、不動を貫いたリアンダはミルを包む様に足元から特異な水を持ち上げた。
しっかりと罠を仕掛けてミルを捕らえたリアンダは、己が水に闇を纏わせ触腕の先を氷にして見せる。
攻撃性が無い? そんな訳が無い。彼女はレステアに師事していたのだ。もちろん闇魔法の扱いを覚え擬似的に氷を作り出す術を習得している。
無数の触腕の先を氷の槍へと変えたリアンダは少しの躊躇の後、その全てを捕らえたミルへと放って見せる。
瞬間、ミルを包んでいた水の膜と刺さった触腕の全てが弾け飛び粉砕された。
ミルが放ったのは、足元に作り出した水を『衝脚』で踏み付ける技『
それにより『水衝波』が衝突した物を軒並み粉砕していく。
もちろんこのスキルには限度があり、魔力を乗せた攻撃でないと効力を発揮せず、乗せた魔力量に依存する規模でしかその効力を見せない。
強力過ぎるスキルには、それ相応の費用があるのだ。
リアンダはそれを見て即座に再度捕縛に動くも、ミルは一歩踏み出すごとに『粉砕水衝波』を放つ事で全ての魔法を踏み砕いていく。
最後に一歩、二倍圧縮身体強化と身体強化魔法で瞬間的に超強化した肉体で以てリアンダに迫ったミルは、リアンダの胸に掌を添えて微笑んだ。
それを受けて降参を選択したリアンダと握手を交わしたミルは、リアンダに一つ告げる。
「貴方の魔法は、いつかの私が心の底から求めた物でした。大変素晴らしい魔法を見せて下さり、ありがとうございました」
そう言って丁寧に礼をし、二人は水浸しの闘技場を歩いて去っていく。
惜しみない拍手を背に受け、堂々たる歩みで去っていく。
…………そしてやってくる舞台整備魔法士の苦難。
きっと今大会の功労者は自分達に違いない。いや、そうであって欲しいと、彼らはそう思うのだった。
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