第250話 僕、友達居ないのかもしれない
◇ ◇ ◇ ◇
損な役回り、と言う程でも無いが、必要な脅しだったとは思う。
学園とは人材育成の場だ。おままごとをさせる場所では無い。
次代を担う者達を鍛え、伸ばし、育む為の場所で容赦などするだけ無駄と言える。
より良い国を目指す? ならばより良い人材を育て上げねばならない。
今より強い国なら、今の十傑を塗り替える存在を。
今より賢い国なら、今の宰相や大臣を超える知性を。
であればこそ、私達が壁にならねばならない。
その壁に臆さず立ち向かえる者達でなければ、スタートラインにすら立てないのだから。
「シャリア君、少しの間この場を頼むよ。私が居ては休まらないだろうから、一旦席を外す」
「承りました〜。……お疲れ様です」
「理解者が居てくれるだけでも心強いよ」
にしても、やはりアッシュ君は凄いな。私が魔力を集め出した段階で気付くのだから。
そしてレステア君。あの魔境に身を置いただけはある、私の威圧程度ではもうびくともしない様だ。
「はぁ……私の方が自信を失くしてしまうだろう、全く」
不思議と上がる口角を手で隠しながら訓練場を出る。
校舎の南側に出ると、第一訓練場の方からはリヒトの魔力を感じた。
どうやらあちらもあちらで似た事をやっている様だ。
結果を思えば仕方は無い。
通常トーナメントでさえ、枠を勝ち取った四、五年生は十人程。
新たに作ったトーナメントには誰一人居ない。
だが、私はこの結果を見て、リヒトや上級生を不甲斐無いとは思わない。
ある意味では当然の結果なのだから。
私達が学園に干渉する前に入学し、内側から腐敗を食い破って自由に闊歩し続けていたタイア同盟の四人の少女。
その四人の少女の後に続いて常に学びを得続けたさらに四人の少女。
そして一番のイレギュラーはアッシュ君。
彼が懇意にした者程、その力量を大きく跳ね上げている。
カンロ出身者はこの際除外するとして、鬼人と翼人の五人。そしてアネット君とレイド君。彼らは確実に彼の影響を多大に受けている。
魔法を苦手と公言していた鬼人の二人が当然の様に魔法を使い出した。
空中戦を主としていた翼人が地上戦を学び始め、戦闘の幅を広げ始めた。
火魔法の名家であるルージュ家の者が、当たり前の様に火魔法以外を使い、研究を始め、洗練された魔力操作を我が物とし始めている。
一番驚くべきはレイド君。
何の変哲もない村出身の彼は成長曲線が止まらない。
アッシュ君と言う規格外に恐れず向き合い、彼に触れて成長して行く周囲すら自らの薪としていく。
さらにメテオと言う相性抜群の師を得て、燻っていた薪は煌々と輝き出した。
「将来は安泰だな……。その多くが冒険者志望なのが笑えないが」
「激しく同意するわ。今後の講義内容は騎士団と魔法士団をヨイショする内容に変更せなあかん。これ真面目な話な?」
「ああ、至極真面目な話だよ。十傑の誰かを臨時講師で招こうか」
「良い考えやね。分かりやすい『炎滅』ちゃんとか良さそ」
「ロミネ殿か。真面目過ぎる嫌いはあるが、あの凛々しい姿に多くの女子生徒の注目は集まるかもしれないな」
当然の様に姿を消してやってきたリヒトと当たり前の様に会話し、どうにか冒険者に実力者を流さない案を考えていたら時間はあっという間に過ぎてしまった。
学生達へのサプライズとなると思うと、この話はとても面白かった。学園長とリヒトが悪戯好きになる理由が少し分かったよ。
さて、そろそろ向こうも落ち着いていると良いのだが。
◇ ◇ ◇ ◇
「アッシュさ〜ん! お久しぶりですねー!」
思わず口を噤んでしまうこの空気、一体どないしたらええのん? そんな事を考えていた束の間。「空気何それ美味しいの」と言わんばかりにニコニコ駆け寄ってくる自称元聖女様。
張り詰めたまま弛緩するのを忘れていた空気が一瞬で緩み、そして別の意味で張り詰めた。
『こいつ、また新しい女か?』
そんな声がそこかしこから聞こえて来た気がして、僕はとっても肩身が狭くなりました…………。
「あっ……はぃ。お久しぶりでしゅ……」
「? どうされましたか? お腹が痛いのでしょうか?」
「ぃぇぃぇ……そんな事は……」
「おいアッシュ……お前……そろそろヤベェって」
おいやめろコルハ! 誰がそんな迫真の表情で注意を飛ばせと言ったんだ!?
「アッシュ君が初めて植えたって喜んでいたじゃがいも……その花を今度添えますね。お酒は飲めなかったはずですので、果実水をかけてあげますからね?」
「僕が墓石を作るからー。安心してねー」
「ころさないで下さい、お願いします……!!」
僕の手を掴んできたミルの握力がおかしい。ポーラの目が呆れてる。ジェイナとジュリアは……哀しそう!! 僕は無罪なのに!!
享年十歳を覚悟したその時……!
聖女様が微笑んで下さった。
「あっ、失礼致しましたっ。
フードを上げたラクシアさんがにっこりと微笑んで、自己紹介と共に僕の潔白を証言してくれたのだ!
ああ神よ!
⭐︎なんですか?⭐︎
◇はい?◇
ごめん違います。ノリで言うやつです、すみません。
レイリーの気配を感じたのか、恐ろしい速度でこちらに首を向けて来たラクシアさんは少し怖かったです。
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……聖女爆撃からの救済の一手は見事な無自覚マッチポンプ。ラクシアさんの善性がこれほどまでに牙を剥くとは……恐ろしい子……!
一命を取り留めた僕の戦慄をよそに、友人達が誤解に気付いてくれて、笑いながら言葉を掛けてくる。
「何だただの友達かよ。早く言えよなアッシュ。俺、お前の介錯とか嫌だなって思ってたんだぜ?」
「あの丘に供え物を置く日々は少し切ないですもんね!」
「墓石……作ってみたかったなぁー」
「アッシュ殿、色を好むのも良いが、限度はあるぞ。まあ、ラナラは貰ってやって欲しいが」
「お前の様な者にはファリスもファルフィ様も近づけられんなッ!」
「あれ……? 僕って実は友達居なかった、のか?」
「アッシュ! 俺はお前のダチだぜ! ……ああ、ずっとな」
「レイド君! 語尾が! 言葉尻が切ないよ!!」
珍しく男だけで絡んでいるかと思えば、全員が僕に情状酌量の余地は無いと思っているらしい。
奇遇だね、僕もそう思う。
そして少し離れた所ではラクシアさんが女性陣に囲まれている。
あれは単純にめっちゃ可愛いから群がられてるんだろうなぁ。フードで隠してたもんね顔。
特にエレアの食い付きが凄い。おそらくサフィー母さんと髪色が同じ白色だからかな。
ともあれ、僕の首は繋がったままで、張り詰めた空気も緩んだ。訓練にはある程度気楽に望めるだろう。
この自称友人達との付き合い方を考える必要はありそうだが。
と、そろそろ十分も終わりかと終わった頃にシャリア先生の声が響く。
「は〜い。それでは休憩もそろそろ終了ですよ〜。騎士団長が帰ってくる前に持久走くらいは終わらせておきましょ〜か〜!」
休憩の終了はまあ分かる。問題はその後だな。
とんでも無い事を言い出したシャリア先生の言葉に多くの生徒が身震いする。
僕達はこの日、恐るべき積極性で訓練を始め、訓練を終えた。
ランバートさんはその光景をご満悦な表情で眺めていましたとさ。
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訓練を終え、なんだかやたら騎士団を推し出した講義を終えて昼食を摂った後。
「「アッシュ! 付き合いなさい!」」
「アネット様、まるで告白の様で御座います」
「違うわよ!!」
「私はそっちでも構わないわね」
学食で食器を片して食休み中にアネットさんとラナラさんから熱いお誘いを頂いた。
チェルさんの茶化しに突っ込みを入れる癖があるらしいアネットさんは見ていて楽しいね。
「訓練ね。良いよ。ラナラさんはいつでも良いから放課後に時間頂戴」
「今日は訓練が良いわ! なんと言ってもハイクラストーナメント? と言う奴に選ばれたんだもの! 少しでも腕を磨きたいじゃない!」
「それには同意ね。学園長の推薦って言うのが気になるけれど、アッシュを燃やせたら誰でも燃やせる筈だもの」
「殺しは反則ですよ、アネット様
「殺す気でないと勝てそうにない面子なんだから仕方無いわ」
二人の気持ちは分かる。殺す気じゃないとって言うのも、まあ分かる。手加減出来るレベル帯の相手じゃ無い。
何より、熱が入っているのはこの二人だけじゃ無いんだ。全員が魔闘大祭までの四ヶ月で何処まで実力を伸ばせるかの戦いだものね。
と言う事はだ。
「アッシュ」
「アッシュ君」
「アッシュー」
「アッシュ殿」
「おいアッシュ」
「アッシュ」——……「アッシュ」——……
ノイローゼになるわ!
「取り敢えず! 訓練場! 行こう! 話はそれからだ!!」
僕の魔力が蓄魔結晶によって二倍になったことで、相手出来る人数が増えた事が不幸中の大不幸だった。
さらにはラクシアさんが付いてきて、怪我する度に癒してくれるからもっと休めなかった。
良い思いをした後には、今度は少し悪い事がやってくる。人生って得てしてそう言うもんだよね。塞翁が馬とはよく言ったもんだ。
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