第40話 僕、情報量は暴力になると知る

 僕に脅しをかけて迂闊なことをしないように誘導したかったのはまあ分かる。

 何にしても強さが必要で、逃げる力も敵を殺す力も必要なのも事実なのだろう。

 だとしても、殺気ぶつけたりするのはやり過ぎだと思う!!


 ……それに、僕が最悪を想定し過ぎだった部分はあるけど、それでも僕の決意は嘘じゃなかったんだ。

 家族を巻き込むぐらいなら僕はこの村からも、家族からも離れる覚悟はしてたんだ。


 それを、匂いも魔力も直に消えるから実は大丈夫でした〜って……くううぅぅ!!!!


 フェーグさん嫌いだ!

 でも鍛えてはもらう。その際にはとことん技術を盗んでやるっ!


「ほっほっほ。想像以上にアッシュが聡くてのぅ。ワシらも驚いておったのじゃ。お主は今までの霊獣接触者とは色々と違うようじゃのぅ」

「今までの霊獣接触者!? 僕以外にも居たんですか?」

「うむ。じゃが奴らはとてつもない馬鹿者共でな。ある者は村中に自慢して回って村八分にされ、またある者は霊獣と出会った場所に張り込む様になって魔物に食われた。またある者は自分は選ばれたと勘違いして戦闘訓練を自主的に始め、ある時目が覚めたのか顔真っ赤にしながら一週間引きこもってのぅ。今ではこの村の中でも相当に腕の立つ人間にはなったがの?」


 本当の馬鹿者ばっかりじゃないか!!


 でも最後の勘違いしちゃった人が目覚めることが出来て僕すごく嬉しいよ。黒歴史は消えないけどね? これからも前を向いて生きてほしいな。


「じゃからの? お主にも釘を刺しておこうとしたんじゃが、アッシュ。お主は他とは違うみたいじゃしの。」

「俺からも一つ言わせてもらうが、今までのやつは飽くまで接触者だ。坊主、お前は共に寛いだ上に、餌付けまでしやがったんだろう? 状況が違いすぎるんだよ」

「姿の輪郭も捉えていた様だしな。君は色々と例外にあるんだ。警戒しないわけにはいかなかった」

「あぁ。なるほどぉ。ここまでべったりした奴は他に居ないと……んー、そう言えば、言い忘れていたことがありまして」

「まだ何かあんのかよ……」

「別れ際に鳴き声を聞いたのと舌で舐められたのと、姿を一瞬見せてくれたんですよね〜」

「「「…………」」」


 警戒していたのは僕も一緒だったので、警戒を解くという意味でも隠し事はやめようと思い、情報を一気に開示しておく。


 案の定、御三方が固まっておいでで、僕は時が動き出すまで静かに果実水を味わう。


「あーおいしい」

「ほほほほほほほほっほっほっほ!」


 村長が壊れちゃった……


「はぁああああ!!!??? もう接触とかそういう段階じゃねえだろそれ!? お前最後に何ぶちまけてんだ!!」

「果たしてこれが吉兆なのか凶兆なのか……最早どう判断して良いのかわからなくなってしまった……」


 僕が尋問されていた時の粛々とした空気はどこへやら、宴会場も斯くやと言わんばかりの騒がしい部屋になってしまった。

 何よりも村長がずっと「ほほほほ」って言い続けてるのが心配でならない。むしろ怖い。


「あの、感覚的な話で申し訳ないんですけど、単純に懐かれたとか気に入られたとか、そういう感じで良いと思います。悪い感じとかしなかったし」

「ほほほ本当かのののぅ。そうじゃ! 霊獣の姿! どのような姿だったのじゃ!?」

「えと、五尾の白い狐で、尻尾の長さは胴体よりも大きく見えて、神々しかったですかね?」

「ほおおおおお!! 絵描きを呼ばねば!!」


 村長……壊れちゃった……


「狐!? 狐の獣人全員呼び出して山の中回らせるか!? 何かしらの加護が得られるかもしれねえ!!」

「……アッシュ、一つ覚えておきなさい。この村では霊獣を信仰しているんだ。つまり神に等しい存在であるということなんだ、わかるか?」

「! 僕は、神の声を聞いて、神に触れられて、神の御姿を見たと言ってしまった訳ですか」

「分かったようだな。さらに言うと、人間は属性ごとの神と霊獣を獣人は霊獣そのものを信仰していたんだ。こうなっても無理はない」

「エルフは精霊様を信仰してて、霊獣は精霊様に認められた存在でしたもんね。……そっかあ。劇薬だったか」


 このままでは話も出来ないので、ゼフィア先生には耳を塞いでもらい、壊れた村長とハイテンションフェーグさんに向けて柏手を一つ打つ。


 この時に無属性魔法で音を増幅させてやると……


「ほっ? おぉすまぬ取り乱してしまった……」


 どうやら村長は無事正気を取り戻せたようだ、良かったあ。


「あがああああ!? 耳がああ!?」


 あっ、そう言えばフェーグさんって狼っぽい耳してたもんな、やってしまった。


 ……まあいいか。さっきの殺気のお返しってことで。


 一応、最近使えるようになった微弱な回復魔法を無魔法で増幅しながら耳にかけてあげる。


「お前……いや良い。今度からそれは獣人の居ねえとこでやれ……くそったれ」

「流石にもうやらないですよ。僕も最初やった時は3日くらい片耳が聴こえなくなって大変でしたからね」

「……ったく、こう言うことかよゼフィア。コイツどっか頭おかしいぜ。こんな魔法聞いたことねえし、霊獣の件も頭がパンクしちまった」

「ある種異常だと言ったのだがな。だがアッシュは優しい子だ。力を無闇に使う子では無い。そこは私が責任を持って断言する」


 この人達は本当にどこまで行ってもこの村の為に行動するんだろうな。


 村長は霊獣の姿を広めようとして、フェーグさんは自分ではなく狐の獣人達みんなに向かわせようとか言っていた。

 ゼフィア先生は僕をずっと守ろうとしてくれているし、誰も自分の為に動いていない。


 ……霊獣の絵だけは村長の自己満足があるかもしれないけど、村のみんなで助け合いながら育ってきたんだろうな。


 意地悪な大人にはなりたくないけど……こう言う素敵な大人にはなりたいかもしれない。




「ふぅ、一旦落ち着こう、皆の衆」

「村長が一番落ち着いてなかった気がするんだがなあ」

「アッシュ、他に言うべきことは無いか? この際だ、私たちもしっかりと把握しておきたい」

「流石にもう無いですよ。今日あったことはこれだけです」

「「「だけ……」」」


 三人ともが同時に半目の視線を向けてくるのは怖いからやめて頂きたい。


 いやまあ、言いたいことは分かるけど……

 僕だって関わりたくて関わった訳じゃないのに……

 こういう理不尽ぽいのは神様と言えるかもしれないね。


「今は、アッシュが霊獣に気に入られたかもしれない、これで置いておくとしようかのぅ。また何かあれば、どんな些細なことでも良いからワシらのうちの誰かに伝えておくれアッシュ」

「はい、わかりました」

「アッシュ。お前の鍛錬はみっちりつけてやるから、三日後にコルハの家にこい。あそこが俺ん家だ。ついでにコルハの奴も厳しく鍛えてやるかねぇ」

「では折角だ、私も予定を空けてアッシュの鍛錬に付き合おう。第六感を開くのは難しいからな、手伝わせてもらう」

「……ありがとう、ございます!」


 フェーグさんってやっぱりコルハのお父さんなんだとか、村長もゼフィア先生も懐が深いなとか色々思うことはあれど、やっぱり最後はありがとうになる。


 僕はこの人達にどうやったら恩を返せるのだろう……それを探す為にもやっぱり王都の学園で学びたいな。

 そしてその為には強くならなきゃ。自分も家族も村のみんなも守る為に。



「では、今日のところはこれにて終了じゃ。最後にアッシュの未来が明るいものであるように皆で祈ろう」


 元の威厳ある村長に戻った村長がそう声をかけると、やはりフェーグさんとゼフィア先生の顔つきも引き締まったものになる。


 僕もそれに倣っておく。


「うむ。では略式ではあるが、火、水、土、風、光、闇の神よ。精霊の神よ。獣の神よ。どうかアッシュを御守りください」


 村長はの老いを感じさせない厳粛な声が部屋に響く。


 フェーグさんとゼフィア先生が胸に手を当てて祈りを捧げているので、僕も咄嗟に真似をする。


 ……だけど、やっぱり神の中に菱形だとか四角だとかの神様はいないんだな。

 せめて僕だけでもウィンドウさんに祈りを捧げよう。



 僕が目を開けると、他の三人はまだ目を瞑っていた。


 この三人が敬虔なのか僕が前世の感覚を引きずって信仰が薄いのかどっちなんだろうなぁ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


アビリティサーマライズと言ってください


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 なんて考えていると突然目の前に菱形が現れた!?


 流石の僕も驚いて椅子ごと後ろにひっくり返りそうになるが、なんとか耐える。


 急にやめてよ!? しかもなんか恥ずかしいこと言わせようとしてない!? 僕の黒歴史作ろうとしてない!?


 そんなことを考えている間にウィンドウがチカチカと明滅しだした。


 催促してるのかこれ!? はよ言えと? 言える訳ないじゃん! もうちょっと待ってよウィンドウさん!


 ◇早く言ってください◇


 直接催促するなーー!


 仕方がないのでぼそっと言ってみる。

「あびりてぃさーまらいず……」


 ◇明瞭に詠唱してください◇


 くそっ!! なんで? 良い空気で終わろうとしていたのにどうしても急に僕だけこんな目にあうんだよ……


 しかも今は祈りの最中で沈黙が痛いくらいなんだ、そんな中この世界でも聞いたことのない横文字カタカナみたいな詠唱なんてしてみろ、頭のおかしいやつの出来上がりじゃないか……


「ん? アッシュどうしたんだ?」


 ゼフィア先生が祈りを終えてしまった。

 その声に反応するように村長もフェーグさんも僕を見てくるが、その間も僕の視界ではウィンドウが明滅を繰り返してうるさい。


 あーもう……疲れちゃった!


「アビリティサーマライズ!!」


 ほらみろ三人が怪訝な顔で僕を見てる……死にたく無いけど死にたい……


 そう思った次の瞬間


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ギフト

・記憶・魔法の才・浄化

スキル

・火魔法・水魔法・土魔法・風魔法・光魔法

・闇魔法・剣術・体術・気配迷彩・生命探知

・身体強化・身体超強化・魔力圧縮・土壌活性

・存在霧散・神像制作・プラネタリウムetc......


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 この世界であってはならないようなウィンドウが出てくるのだった。


 ……なんかステータス画面のスキル欄みたいなの出てきたんだけど。


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