第36話 僕、像をつくってみただけなんだ
グロック、コルハ、ゼガンに稽古をつけながら魔法で遊びすぎた僕は、三人からの追求をのらりくらりと躱しつつ稽古をどうにかこなした。
翌日、サフィー母さんに光と無の特徴を上手く使うと魔法の威力が文字通り爆発的に上昇してしまったことを報告することにした。
流石に今回のことは相談して置くべきだよね。
サフィー母さんと二人になったタイミングで話しかけることにする。
「母さん、ちょっと相談というか報告というか……話があって」
「ん〜何かしら? 何か悪いことでもしたの〜?」
「悪いことなんてしてないよ!? でも、悪いことになる前にって感じ?」
「素直に白状なさい! 一体今度は何やらかしたの! ちゃんとお母さんにも教えなさい! 一人で楽しむのは狡いわよ!」
ずるいって何だよ! 楽しいことではあったけど……
「……簡単にいうと、魔法がすんごい威力になる方法が見つかったんだよ。あまりにも凶悪だったから母さんかゼフィア先生に意見を聞きたくて」
「魔法の威力が上がる……具体的にはどういう方法なの?」
「僕がやったのは、火の魔法に光魔法で光の特徴を重ねて、そこから更に無魔法で無の特徴を重ねたんだ。そしたら熱量がどんどん増して地面が溶けていっちゃって……」
今思えば、青い炎って色温度として見るなら一万度を超えるはずなんだけどそこまでの熱は感じていない。多分。
太陽の表面温度が確か六千度程だったはずなので、僕が出した蒼炎は太陽に比べれば可愛い温度だろう。
でなければ、僕の体が溶けているはずだ。
恐らく僕のイメージが強く流れ込んだか、魔力による完全燃焼でもしたのかな?
なんにせよ危険であることに違いはない。
地面が溶ける温度が約千度程なので、地面を容易に溶かしていたあの炎が数千度あったのは確実だ。
【記憶】で科学知識を思い出すことも出来るので、危険度も測りやすい。ありがとう【記憶】スキル。
「……そうね、確かにそれは危ないかもしれないわね……でも〜どう危ないのか分からないからー改めて目の前で使って見てもらおうかしらねー!」
目がキラキラしている……僕の説明を聞きながらソワソワしていたから何となく予想はついていたけど、好奇心が強すぎる!
あれはコルハの家の訓練場があったから出来たことであって……っ!?
……水魔法を試すチャンス、なのでは??
「そっ、そうだねえー! 確かに自分の目で見ないと納得も理解も出来ないよねー! じゃあちょっと試そうか!!」
「そうよ! そうしましょう! さあ庭に行くわよー!」
「おー!」
血は争えないのだと深く思った。
「さあっお父さんが帰って来る前にやっちゃいましょう!」
カル父さんは慎重だから、僕に話を聞いた上で試すなんて事を言ったら絶対に止めに入ってくる。そんなカル父さんは村の話し合いに行っていて今は外している。
危険な魔法を試すなら今しかない!
「流石にここで火の魔法は試せないから、今度はみっ水の魔法! 試すね! えへへへ!」
僕は再現の水を無詠唱で出し、それに対して闇魔法を行使する。
「『僕が求めるは闇 熱を奪う闇 動きを止める闇』!」
僕の想像通り原子の動きをや熱を奪うことで水が凍っていき、水球の形の透き通った氷が生まれる。
「水に対して闇魔法使うことで氷に出来るの!? 闇の奪う特徴で熱を奪うことでこんなことが出来るなんて! ……これで夏も快適に過ごせるっ!」
「母さん! そんな当然のことを言わないでよ。果実水に氷を入れたり、氷を置いたところから風を吹かせたり、それぐらいやるに決まってるじゃん?」
「その思考、流石私の子だわ、アッシュ。立派な息子を持てて私は感動しているわ! 今年からは夏も優雅に過ごせるわね〜」
サフィー母さんと二人でいるとストッパーがいないからどこまでも行ってしまいそうだ。
でも今回の実験は氷をつくることが目的では無い。この氷に対してさらに無魔法で闇魔法の出力を増幅する。
「母さ〜ん。今回はここからさらに無魔法使うよ〜 『闇に力を与えよ 闇の力を増幅させよ エンハンス』」
無魔法で闇の力を増幅させる事で、絶対零度とまでは行かずとも相当に低い温度の氷になったはずだ。
丸い氷が漏らす冷気がさらに増していく。
氷を一旦地面に置いて、魔法の発動をやめて氷の状態を確認する。
科学知識的には、氷の温度を下げても氷以外の物質になることはないし、変わるとしても氷の硬度が変わるぐらいのはず。
十分ほど放置して様子を見てみるが、一向に溶ける様子はない。
ここ数日はどんどん気温も上がってきており、村人の中には半袖過ごす人も居るくらいなのだが、氷に変化が見られないどころか、周辺の温度が下がっている気すらする。
「何だか寒くなってきたわね。上着取ってこようかしら?」
「やっぱり周辺に影響を出す程度には強化されてるんだなあ……強度も確かめてみようかな」
隣に水と闇魔法だけで作った氷を置いて、木剣を上から振り下ろす。
ただの氷は木剣によってバラバラに砕かれたが、無魔法も使って作った氷にはヒビすら入れることは出来なかった。
それどころか、カル父さんお手製の木剣の先が折れてしまった……やっちゃった……
罪悪感と怒られるかもという恐怖を感じ、冷気以外のもので身体が冷える。
「あっ。どうしよう、これ……母さんどうしよう!?」
「ふぇ!? さっ流石にお母さんにもどうしようもないし……アッシュ、素直に謝りなさい?」
「確かに僕が勝手に木剣振ったけど、魔法の実験の為にやったんだから、せめて母さんも一緒に謝ってよ!」
「嫌!! お母さんは謝らない!! カルに怒られたく無い!!」
「ケチ!!!」
結局、程なくしてカル父さんが帰ってきやことで、僕らがしていたことはバレた。
勿論、説明もさせられて二人ともお説教された。
ついでのように三つ以上の魔法の同時使用も禁止されてしまったのだった。
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三つ以上の魔法同時使用を禁止されてから一ヶ月。
僕は無属性と他の属性を合わせる練習をしていた。
火は熱量と火の大きさ
水は水圧と水量
風は風量とそれに伴う風圧
土は土の量と圧縮の際の硬度
とそれぞれ増幅することが出来た。
これらは魔力を操る技術によって出来ることではあるのだが、無魔法と魔力操作技術は効果が重複するのだ。
これが本当に面白い!
魔力の使い方を工夫して土を圧縮したところに無魔法を重ねることで、さらに圧縮することが出来る。
これにより、僕では全く壊せない何故か黒い土の塊が出来た。
折角、頑丈な物がつくれるようになったので、今日は僕にとっての神様の像でもつくろうと思う。
僕にとっての神様とはウィンドウさんだ。
僕にスキルを与えてくれて、前世の僕を知り、そして僕を送り出してくれた唯一の人(?)だ。
畏怖とかではないが、敬愛と感謝を込めてウィンドウさんっぽい像をつくりたい。
でもあの人の特徴ってなんだろう? 菱形かな?
文面の上下に菱形が連なったような装飾があったんだよね〜
ウィンドウも四角だし、菱形をモチーフにつくってみよう!
数時間後
僕の無い知恵を絞って出来上がったのは、菱形と菱形を角で繋げた線で出来た立方体だった。
いやどう考えても擬人化は出来なかったんだ!
そういう方向でのセンスは僕には期待出来ないし!
土台に三角形の穴を開けて、そこに立方体の角を差し込むことでスケスケの菱形で出来た立方体が立った。
うん、渾身の出来ではある……菱形や立方体の中はくり抜いて、立方体の奥行きを見えるようにつくっては見たんだけど……ごめんウィンドウさん。僕、今日からこれに感謝捧げるよ。
幾何学模様とか好きだったから、実は結構気に入ってるんだ……
ウィンドウさんには申し訳ないけど、僕が感謝するためのものだし、まあ良いよね?
僕が木剣を立てかけている納屋の壁の所にこっそりウィンドウさん像を置くための小さめの祠を作って置いておく。
今日はもう疲れたからご飯食べて寝る支度して就寝することにした。
寝る前に自作のウィンドウさん像に改めて感謝を捧げる。
「僕がこんなにも充実した人生を送れているのは、ウィンドウさんのお陰です。転生させてくれて、スキルを選ばせてくれて、本当にありがとうございます。……スキルの説明不足だけは今でもちょっと不満に思いますけど……まあでも、やっぱりありがとう、ウィンドウさん!」
純粋な感謝を捧げてから僕は眠った。
翌朝、僕がつくったウィンドウさん像の台座に四角い枠と文字が刻まれていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ありがとうございます。和田日向。いえ、アッシュ。
あなたの想いは確かに届いています。
デザインも嫌いではありません。
そして何よりも、貴方には自由に人生を歩んでほしい、
私はそう言いました。その結果この像が生まれたのな
らこれ以上に望むものはありません。
貴方の感謝に応え、大したものではありませんが私の
加護を貴方に与えます。
どうか貴方の未来に幸多からんことを祈っています。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
…………んえええええええ!?!?
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