第24話 僕、剣の稽古をする
ジェイナと共に、そこそこに綺麗なブロックをつくることに成功したのだが、グロック的にはまだまだらしい。
グロック曰く、土の密度が一定じゃないだとか、硬度も合わせてほしかっただとか、もっと言えば制限時間もつけたかったよね~~っとのことだ……ちなみに僕のも粗が目立つとのこと。
ここぞとばかりにどや顔で顎をしゃくりながら喋るグロックを見て僕は思った。
あぁ、こいつもちゃんと悪ガキだ。取れるところですかさずマウントを取ってくる。無性にぶっとばしたくなるよ!
改めてグロックの作った土のブロックは、彼の言う通りとても均一な作りで、こういうのを立方体というのだろうと思わされる。
が、にしてもむかつく!! どうやらそれは僕らだけの感情ではなかったようで、こっぴどくこけ降ろされた他のみんなと同時に目が合い、頷き合った。
僕らの気持ちは、今ここに一つになった。
共通の敵が表れることで団結することが出来た、共にこの性悪ドワーフにやり返そうと!
「そろそろお昼だから帰らないとね~エレアお姉ちゃんっ!」
「アッシュの言う通りだねっ、家族が待ってるから急いで帰らなきゃ。ねっ、ポーラちゃん」
「だなー! ちゃっちゃと土を片して帰らねえとなー! ジェイナ?」
「折角だからぁ、みんなで競争でもしよっか? ねージュリア?」
「そうね。ここの丘を降りるまでを競いましょうか。どうかしら、ゼガン?」
「構いませんよ? 負けた人がこの場の後片付けですね。 コルハもそれでいいですか?」
「もちのろんだぜぇ? グロックゥ? 満場一致だな!」
「えっ、え? 待って待って~? そんなの僕に勝ち目が――」
「――よーいどん!!」
この時の僕らの息の合い方は本当にすごかった。打ち合わせも何もしていないのに、流れるように言葉が回っていった。
そしてそのまま、ごり押しで唐突に開始の合図を出したにも関わらず、誰一人遅れることはなかった。
グロック以外は。
「なっ!? ひどいよおおおおお!!」
グロックの声を背に受けながら、僕らは清々しい気持ちで丘を駆け下りて言った。
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見晴らしが良いとはいえ、流石に村の外なので、グロックが諸々の片づけを終えるまで僕らは丘の下で休憩していた。
グロックが追いついて来たら、そのあとはみんなで帰る。
帰る道中、印象的だったのは、ジェイナの笑顔が今までよりずっと柔らかくなっていて、普段から接していたゼガンやジュリアさんはその変化に驚いており、頻りにどうしたんだと質問していた。
当のジェイナは問いに応えずはぐらかしながらもずっと笑っていた。
村まで着いたらそのあとは、各々帰宅し、僕らは遅れた事を詫びてからサフィー母さんの美味しいお昼ご飯を頂いた。
今日は何を学んだだとか、そのあと何をしていたかなどを話していたので、非常に賑やかなお昼ご飯だった。
……どうやら、エレアお姉ちゃんは僕の女性の趣味がどうこうは忘れてしまったらしい。このまま有耶無耶にしてしまおう。
昼食の後は、剣の稽古だ。
今日はカル父さんと打ち合いをしてみようと言われていたので、とても気合が入っている。
でも、その前に、丘の上の大樹のもとで僕が天に召されかけた時のことを思い出しておく。
僕が思い出した【記憶】はとても不思議なものだった。
まるで僕が僕ではないような……僕の存在が溶けていくような……
コルハが叫んでいたように気配がとても希薄で、このまま消えてしまいそうで今はこれ以上は怖いと思ってしまった。
それでもある程度は体に【記憶】することも出来たようで、体の溶かし方がなんとなくわかった。溶かしかたってこわいな。隠密、というよりは「紛れる」だろうか。
何はともあれ、僕の持つ現状最高と思しき技術なんだ。こまめに使って心を慣れさせていこう。
実用化はもう少し先になりそうだ。
少し食休みをしてから剣術の稽古が始まる。
最初から打ち合いはせずに、まずは基礎訓練のランニングや受け身の取り方、素振りなどだ。
僕にとっては慣れ親しんだ訓練メニューだ。
少し前まで、僕は力が無かった分、木剣を振るより、走って転がってを続け、カル父さんとエレアお姉ちゃんの稽古を見続けてきた。
稽古中の立ち回りはあらかた見てきたし、剣の振り方はカル父さんが一度だけ会心の一振りを見せてくれたので、それを【記憶】している。
木剣が振れるようになったら、速攻で体に記憶してやるんだーなんて思っていた。
当時、動体視力に魔力全振りで強化したのに剣を見るのでギリギリだった。
僕の【記憶】は見たもの感じたものを記憶する。つまり、凄まじい一振りでも僕の目にぶれて映った一振りは【記憶】の中でもぶれたままだ。
その上、少し前まで木剣を振るのに身体強化もしなければならなかった。とにかく筋力をつけることが最優先事項だった。
ここ最近は、カル父さんお手製の木剣を漸く自力で振れるようになったことで、カル父さんの会心の一振りを見本に稽古するわけですけど……どうにも意味が分からない。理解できる所に僕がいないということなのだろう。
とりあえずは、重心や足の開き、握り方や剣の軌道を意識して振り、それを【記憶】を使って照らし合わせながら微調整していく日々だった。
今までのことを思い出しながら、基礎訓練を終える。
そんなこんなでやっと打ち合い稽古だ。今までの集大成を見せる時、張り切らざるを得ない!
今からカル父さんの驚く顔が楽しみだ!!
「アッシュ、身体強化は軽くなら使って良い。あくまで稽古、打ち合う時の剣のぶれや姿勢の維持など、アッシュが実践でどう動くのかを見るためのものだ。それらを踏まえた上で遠慮なくかかっておいで!」
むっ、それもそうだ。これは稽古だ。失念していた。
どうやら無意識に男の子な感情が出てしまっていたらしい。気を引き締めて真面目に行こう。
「あっ、エレアは僕らの打ち合いをよく見ておいてね。アッシュとの稽古が終わったら、どこが駄目でどこが良かったのか聞かせてもらうからねー!」
僕との打ち合い稽古もエレアお姉ちゃんの稽古に生かす。流石カル父さん、無駄がない!
「父さん、よろしくお願いします!」
「お願いします! いつでもどうぞ!」
お言葉に甘えて、軽く身体強化を発動させ、剣を上段に構える。そのまま重力をに逆らわず振り下ろす。
その直前に前に出していた足の膝を抜き、後ろ足で地面を強く前に蹴り飛び出る。
これにより、前傾姿勢で飛び出した勢いを殺さずに剣を振れると思い仕掛けて見た。
剣筋は縦に一直線。上段から肘を引くように木剣を振るう。
だがそれは簡単に受け止められてしまった。
「すごいねっ……勢いを殺さないように初手から全力での振り下ろし。思い切りが良い。」
鍔迫り合う意味はないのですぐに押し合うのをやめ、手元の力を抜いて剣を斜めに倒し撫で斬るように木剣を胴体へと当てに行く。
「!? そんな剣の使い方まだ教えてないよ!?」
カル父さんが軽く飛び退いたので、すぐに追いかけて次は右から薙ぐ。
だがすでに僕の剣の軌道上に剣が置かれている。それが見えたのでわざと当てに行き、反動を利用して逆から薙ぐ。
それもしっかりと防がれる。
「攻めが激しい!? こんなの教えてないよね!?」
それから少しの間攻め続けたが、全く剣が届く気がしない。カル父さんからしたらどれも遅いものだろうし仕方がないけど、悔しい……
「そろそろ攻守交代しようか。お父さんの剣にどう対処する?」
カル父さんの剣は軽々振ってるのに重く、現状受けるのは悪手。
今は目を強化してひたすら避けるか、受けても出来る限り木剣に角度をつけて流す。
受ける方がスタミナが削れるのが早い……次の一撃は避けると同時に斬りかかってみよう!
【記憶】でカル父さんとエレアお姉ちゃんの打ち合いは憶えてるんだ。ある程度の癖は掴んでる。
次の一撃は、鋒をこちらに向けながら胸の前に剣を持ってきて少し貯めている。
これは慣れてないと対処が難しい突きの構えだ。横に体を開いて避けても、突いたまま横に木剣を動かされれば当たってしまう。
弾くことは筋力的に無理。ならば、しゃがんで足元から行くか? 蹴りが飛んできてもキツい。——エレアお姉ちゃんとの稽古では、足も出していた——じゃあ上に跳んで攻撃に繋げる? 跳んだ後がイメージ出来ないからダメ。
よし、決めた。
「これはどう対処する!アッシュ!」
突きが伸び切るまで下がる。
伸び切ったところで剣に剣を真っすぐ上から振り下ろす!
剣が斜めに落ちたら、剣を踏み台にして斬りかかる。
手から落とせたら万々歳、で斬りかかる。
そのどちらも出来なければ距離を置いて仕切り直すしかないかな。
……伸び切ったままの状態で振り下ろしを受け切られた。……筋力ぅぅぅ!!!
「一旦ここまで! アッシュ……どうして下がってから突きを打ち落とそうとしたんだい?」
「僕の力じゃ父さんの突きは払えないし、横に避けても突いた後にそのまま横に振られたら斬られる。下にしゃがんでも蹴りが飛んでくるし、上に跳ぶのはその後がイメージ出来なかった。だから下がるしかないなって。打ち落とすのに失敗しても仕切り直せる可能性があるから……父さん?」
どうしたんだ急に俯いて、ぷるぷる震え出して?
「父さん、どうしたの? 何かまずかったかな? かなり自由に戦って見たけど、ダメだった?」
「お父さんも戦いながら分析して、その場その場で戦うタイプでね……嬉しいんだ。それにアッシュの行動には必ず意味があった。うぅ、将来が楽しみだよおぉ」
どうやら将来性を見出して喜びに打ち震えていたらしい。
それならよかったのかな?
にしても、力が足りなさすぎる。
打ち込むにしても、余裕で受けられて即反撃されるイメージしか湧かなくて、打ち込みのに尻込みしてしまっていた。
受けはそこそこ出来てた気がするし、打ち込みを重点的に練習したいな。
「エレアー! 今の見ていたかい? 感想をまずはお父さんに聞かせてほしい。」
「…………」
エレアお姉ちゃんにカル父さんの声が届いていない。
どうやら先の打ち合い稽古がエレアお姉ちゃんの心に火を点けてしまったらしい。
うちのお姉ちゃん、あれでかなり戦闘民族と言うか、僕に追いつかれたりするのを凄く嫌うからな。
僕の小細工満載の戦い方から何かを得ようと頭がフル回転してそうだ。
当面のやるべき事が決まった僕は、少し離れたところでもう一度、基礎訓練と素振りを繰り返す。
こんなもんじゃ自衛すら出来ないかもしれない、それじゃダメだ!
力こそパワーだ! 筋肉をつけなければ!
基礎訓練を日課にしよう!
マッチョ目指してがんばるぞー!!
苦笑しながら僕らの事をカル父さんが見ていることには気づかずに。
「二人とも、自分が決めたら頑固なところはそっくりだね?」
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