第23話 僕が僕の力で成したこと。成せたこと。
無事ジェイナさんは、僕のやり方で魔法の発動に成功した。
そして、どうやらこっちの方がジェイナさんには合っていたようで、魔法に少し自信がついてきたのか始まった頃より楽しそうにしている。
やっぱり人が楽しそうに笑ってる姿は良いよね。つられて僕も笑ってしまうよ。
....僕も笑顔の素敵な人になりたかったよ。アルカイックなスマイルが癖になってしまってね....
そろそろジェイナと喜ぶ時間も終わりにして、出来たブロックを整えていこうかな。
「ジェイナ、そろそろ次の段階に行こう?」
「うんっ! アッシュ君が教えてくれたらきっとつくれるねぇ! 私がんばるよぉ〜!」
良い心意気だ。
魔法に理論を求めても、最終的に大事になるのはイメージだ。自信を持ってイメージを出来るだけでも魔法の出来はすごく変わってくる。
今のジェイナならもっと魔法が上手く使えるかもしれない。
「それじゃあジェイナ、僕が言った魔法の感覚を覚えるってやつ、どうかな?」
「あれだよね? 魔力の流れ方と、魔法になっていく過程を感じろって。しっかり感じ取れたよ! 良くはわからなかったけど。」
「感じ取れてるなら良いんだ。ちなみにその時、何かに引っ張られるような、魔力が勝手に動くような感覚はした?」
「あっ、あったよぉ! 精霊様にお願いする時はそれがずっと強かったんだよねぇ」
なるほどね、僕の使うものよりも余程詠唱に依存しているのか、本当に精霊様がいて力を貸してくれているのか知らないけど、ジェイナはそれに違和感を感じていたようだ。
僕のところの詠唱は道筋を作る形に近いと思われるので、違和感が少なかったのかな。
「おそらくそれは、詠唱か精霊様に沢山手伝ってもらってる状態なんだ。僕の感覚で言えば、無詠唱は完全に自分自身の力で魔法を使える状態なんだよ。」
「手伝ってもらってるからぁ、私の思うような魔法にぃ、ならないってことぉ?」
「たぶん、そうなるのかな。だから、手伝ってもらった時の感覚を自分で再現する必要があるんだ。今回はそこまでする時間がないから、僕がちょっと干渉して誘導と補強をしてみようと思うよ。」
そう僕がするのはジェイナの魔力の誘導と、それがブレないように補強すること。
僕レベルの魔力操作の技術があれば、ちょっとがんばれば出来ると思う!
「干渉しやすくするために、魔法を放つ方の手を後ろから握らせてもらうね。」
ジェイナには悪いが、指と指の間に僕の指を通すように前に突き出す方の手を後ろから握る。
魔力の向かう方向や、放出してすぐの魔力に干渉することを考えるとこうするのが一番だと思ったんだ。
他意は無い!!
ジェイナのイメージや魔力の動きはしっかり【記憶】したからね、それに合わせるようにするだけだ。
手を握った状態で、僕の魔力をいつでも動かせるように、五指から先んじて放出しておく。
それと同時に先ほどの魔力視の状態を体に【記憶】させていく。
それから魔力視をすれば......やっぱりかなり楽になった。いつも助かるよ【記憶】大先生!
......!? 余裕が出来て初めて気づいたが、ジェイナのこの魔力、とてつもない量だ。
これだけの魔力があっても魔法が上手くならなかったのか、ジェイナ....
いや、同情するのは違うか。今はサポートに徹しよう。
良い流れが来てるんだ。今回の魔法が上手くいけば自信がついて、魔法に対する苦手意識も変わっていくはずだ。
いっちょ一肌脱いでがんばろうかな!
「あっあの......えっとぉ......なんか恥ずかしいねえ」
「そんなこと言ってる暇はないよ! グロックの作った見本をよく見て、頭に焼き付けて、そして強くイメージしてね。......難しい作業だよ。」
そうこれは、作業だ。
慣れて仕舞えば、当たり前のように出来る。でも慣れるまでが凄まじく大変だ。
僕は慣れるまでを【記憶】で一瞬で行えてしまうけど、本来は反復作業を繰り返して覚えるものだ。
魔法で行う造形の基礎。ドワーフの遊びはレベルが違いすぎる。
「ジェイナ、魔力を回して」
「....っはい!」
うん、良い。まだ数回しかしてないのに吸収が早い。
僕の【記憶】が霞むほどの吸収スピードだよ。
「いいね。そのまま手に魔力を集めて?」
「ふぅ〜......うん、こんな感じだったかな?」
「うん、すごく良い! その調子で焦らず、ゆっくりと行こう」
本当に凄いな。魔法発動前の状態にかなりスムーズに移行出来ている。
実は、魔法や魔力に対する素質を高いレベルで持っているのかもしれないな。やり方が悪かっただけで。
「それじゃあ次は、さっきジェイナが作ったブロックに向けて、手から魔力を飛ばしてみよう。その飛ばした魔力を意識して動かしてみるんだ。」
「うんっ....」
ここでようやく僕の出番。
基本的に魔力が混ざり合うことはない。その性質を生かして、ジェイナが飛ばし始めた魔力を遮らないように、でも霧散してしまわないように、ジェイナの魔力を覆いながら一緒に動かしていく。
要は魔力の道、というよりトンネルをつくるんだ。
「たどり着いたら次はブロックに魔力を染み込ませるんだ。」
「......!」
次は、ブロックに辿り着いた魔力を浸透させていく段階。
これに関しては、ジェイナ自身の魔力で作り出したばかりなので、まだジェイナの魔力の残滓が残っておりかなりやり易いはずだ。
「すごいっ私の魔力がいっぱい染み込んでいくねぇ!」
「今の所すごく順調だよ! じゃあ最終工程の詠唱に行こうか。詠唱は少し直して、『我が意に応え、土よ、四角を象り直せ』。これで行こう」
「分かった、それじゃ。『我が意に応え、土よ、象り直せ』!」
ここで、僕の魔力で四角の枠を作って修正箇所にガイドラインを引いていく。
ジェイナの魔法発動において、僕の魔力は異物のはずだ。それを避けるように魔法が発動することで——
「っ! 出来た....私にも、出来た....」
「ふぃ〜....まさかの一発で出来たねえ。おめでとうジェイナ! っうぉっと!?」
「出来た! 出来たよアッシュ君〜!! 私にも出来たあ〜! うわああぁぁん!」
突然抱き付かれたと思ったら、さらに突然さめざめと泣き始めたんだけど、どうしたらいいんだこれ!?
とりあえず頭をぽんぽんと撫でながら、よかったね〜がんばったね〜と言いながら宥めすかす。
うーん......泣いてる女の子との接し方はさすがに分かんないや。
人生経験って積極的に積んで行かないと価値がないのかもしれない。少なくとも二十数年の前世で僕は泣いている女の子との接し方を学べていなかった。
改めて人との繋がりが薄い前世だったと思わされる。
空虚を感じてはいたが、何も無かった訳ではない。でも中身は確実に薄かったのだろうな。
......転生しても後悔してる、はははっ。笑うしかないや。
だからこそ、変わらなきゃね......沢山の事から逃げて、流されて、深く関わらないように生きた結果が薄い人生なら、今世では僕は一歩、もう一歩前に踏み込まなければ意味がない。
泣いてる子に手を差し伸べるのか
涙を拭ってあげるのか
胸を貸して泣かせてあげるのか
......僕が彼女にしてあげられること、それは——
「....ジェイナって魔法苦手だよね? 今日、ゼガンやジュリアさんは使っていたのに、ジェイナが使ってるところ一回も見なかった。魔法が上手く使えないから、ジェイナは自分が持つ有り余る魔力を身体強化に回していた。だから力持ちって言ってたんだよね?」
「すごいねぇ......なんでもわかっちゃうんだぁ....?」
魔力視で見たジェイナの魔力量は僕のそれを超えるほどだ。
カンロ村では各家庭で戦闘訓練が行われるのだが、——僕らの剣の稽古や魔法の練習もその一環だ——規格外の魔力を持って生まれたジェイナは、練習のための魔法じゃ碌に魔力が減らなかったはずだ。
それなのに不安定な魔法しか使えなかったジェイナは、きっと規格外の魔力に飽かせて沢山練習したに違いない。
そう、沢山練習したんだ。魔力が動く感覚も、魔力が魔法になる感覚も、僕なんかよりずっと感じてきたはずだ。
だから、魔力の体内操作や体外操作の飲み込みがあんなに早かったんだ。僕よりずっと魔法に触れていたから。
だが、それでも上手くならなかった。
きっと誰より悔しくて悲しくてやるせ無かったはずだ。
エルフは魔法を主体に戦うそうだが、魔法が不安定なジェイナは身体強化に魔力を回すことで自分の価値を見出そうとした、その結果が今のジェイナなのだろう。
まともに魔法が使えただけで泣いてしまう程に思い悩んで、その末に至ったのだろう今の彼女を否定してはいけない。
「....ジェイナがこれまでしてきた努力は絶対に無駄じゃないよ。意味があって、価値があるものだよ。だからね、これまでのジェイナも、これからのジェイナも大切にしてあげてね?」
「本当になんでもわかっちゃうんだね.....」
僕にしてあげられること、それは——受け入れて、受け止めて、認めてあげることだ。
「うん。私、魔法がほとんど使えないの。魔力だけはいっぱいあったからね、ずーっと練習してた。でもどんなに練習しても変わらなかった。どうにか使えても、簡単なものを時間をかけてようやくって感じで。そんな私を家族みんなが気遣ってくれるの。その気遣いに泣きそうになっちゃうからずっと笑って誤魔化してたんだ......」
最初に掴めない人だと感じたのはそのせいだったのかな。笑顔で誤魔化す、か。
「そんな私が、魔法を使えるようになるかもしれない、そう思ったら......気付いたら泣いちゃってた。ごめんね? アッシュ君」
彼女の苦労は察するに余りある。
それでも諦めずに身体強化に目をつけて、でもようやく今日、魔法を使えた。泣くなっていう方が無理がある。
「たくさん頑張ったんだ、泣いたって良いんだよ? もう誤魔化す必要はないんだから、たくさん泣いて良いんだよ! 僕で良ければいくらでも——」
「....えっへへぇ。もう泣かないよっ。みんなが近くにいるし、恥ずかしいからねぇ....でも、ありがとうね!」
そこに居たのは掴みどころのない人ではなく、ただ純粋に笑う一人の女の子。
照れて顔が熱いのか手で顔を仰ぎながらもジェイナはそれでも笑っていた。
エレアお姉ちゃんといい、ジェイナといい、女の子ってすごく強いんだな....
この笑顔をみることが出来ただけでも【記憶】と【魔法の才】を選んだ価値があったよ。
そして、一歩を踏み込む勇気を出してよかった。
......こんな僕にも出来ることがあって本当に良かった!
「......うん、どういたしまして!」
気が付けば、もう日が真上に登っている。
そろそろお昼ご飯を食べに帰らないとだ。
僕は、今日一人の女の子の心を救えたのかもしれない。
これは
この世界に生まれ変わった意味が、価値が、生まれた瞬間だった。
また僕の【記憶】に大切な記憶が増えた。
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