第18話 僕、また家族になる
「父さん、母さん、一先ず僕ら勉強会に行くよ。王都の学校の話は、また後でも良いかな、エレアお姉ちゃん?」
「うん、それでいいよ....じゃあ、行ってくるね....」
「あぁ、わかったよ。いってらっしゃい」
「気を付けてね?」
ものすごくテンションの低いエレアお姉ちゃんを見るのなんて初めてかもしれない..........よし。
僕はエレアお姉ちゃんの手を強く握って引っ張っていく
「エレアお姉ちゃん! 行こう!」
「アッシュ....でも....」
「僕は、エレアお姉ちゃんのためだと思って、呼び方を変えてみたり、手を繋がずに行こうって言ったりした。でも、エレアお姉ちゃんを傷付けたかったわけじゃないんだ。泣かせたかった訳でもない。それは分かってほしいんだ」
「....うん」
また涙が溢れてきたらしく、繋いでない方の手で涙をぬぐっている。
僕はそんな顔をさせたかった訳じゃないんだ。でも、今言っておかなきゃ変えられなくなりそうだった。エレアお姉ちゃんの中で僕の存在が大きくなり過ぎてしまった。
そして一番大きな理由はきっと....
「........エレアお姉ちゃん、僕らは家族だよ。どこに居たって、何をしてたって、家族だよ。血で繋がってる。なんなら血よりも深く心が繋がってる。エレアお姉ちゃんの心の中に父さんも母さんも、もちろん僕も、ずっといるよ。」
家の扉の前で立ち止まって、エレアお姉ちゃんを抱きしめる。
僕よりも頭一つ分大きな姉を。
僕よりも大きいのに、今はとても小さな姉を。
きっと、家族で結婚すれば四人で一緒に入れると思ったんだろう。
だってあの時エレアお姉ちゃんは――
「私もいつか、誰かと結婚するのかな....そうしたら、こうしてみんな一緒にはいられなくなるのかな....」
――きっと誰よりも家族愛が強くて、「みんな」が大好きなんだ。
そして「みんな」が一緒に居られる道を考えた時、長男の僕と結婚すればみんな一緒だと強く思ってしまったのかもしれない。
そんなエレアお姉ちゃんには分かってもらわなきゃ、僕らの絆は切っても切れないものなんだと。僕らの積み重ねてきた時間は消えないんだと。
そばに居なくても、そばに居るってことを。
「だって僕らは、『家族』なんだから。」
「うぅわぁぁあああん!! あぁぁぁああぁぁぁ!」
僕がいつかしてもらったように、痛くないように強く抱きしめながら、頭を撫でる。背中の中ほどまで綺麗に伸ばした髪を乱さないように優しく。
こうされるとね、気持ちがあふれ出して止まらないんだ。感情を止める必要が無いって心でわかっちゃうんだ。受け止めてくれるって体で感じてるから。
でも、泣かせたくないなんて言いながら大泣きさせちゃった....めちゃくちゃだな、僕も。
カル父さんとサフィー母さんはまだ、エレアお姉ちゃんの気持ちの本当の理由に気付いてないかもしれないけれど、この二人が大泣きしている娘を放っておくわけがない。
すぐに駆け寄ってきて僕ごとエレアお姉ちゃんを抱きしめる。ちょっと苦しいけど....やっぱり暖かい。
うん、エレアお姉ちゃん。きっと僕らは独りになんてなれないよ?
だって、こんなにも愛されてるんだから。
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エレアお姉ちゃんが泣き止んで落ち着くまで僕らは家族みんなで抱きしめあっていた。
「もうだいじょうぶだよっ。ありがとう、お父さん、お母さん....アッシュ!」
その言葉を皮切りに一旦みんなが離れる。
この際だし、僕の気持ちをぶつけておこう。
今なら、正しく僕の言葉を受け取ってくれる、そんな気がするから。
「エレアお姉ちゃん。僕はね、ものを憶えることが得意なんだ。小さい頃のことも全部憶えてる。そしてエレアお姉ちゃんが家族みんなが大好きで離れたくないって思ってることも憶えてる。僕らはこれまでずっと一緒に居た、その過去が無くなることはないんだ。そして僕はそれを何一つ忘れない。僕がずっとお姉ちゃんを大好きなことも忘れないし、変わらないよ。」
「うぅ~~また泣いちゃいそうなこと言わないでよ~! アッシュの女たらし! ばか! ....ありがとう、だいすきだよアッシュっ!」
そう言ってもう一度抱き着いてくるエレアお姉ちゃんは、何か吹っ切れたような、そしてとても綺麗な笑みを浮かべていた。
「ねえ、アッシュ? アッシュが記憶力良いのは知ってたけど、ほんとに全部おぼえてるの~~? 嘘はよくないよ?」
「そういうこと言うんだ! いいよ、昔のこと何か聞いてみてよ! いくらでも答えてあげるよ!」
急に元気になったと思ったら....その喧嘩買ったろうやないですかい!!
「じゃあね~、アッシュがとーっても小さかった頃。とある言葉の練習をしました。誕生日にお披露目した時は、お父さんもお母さんも大喜びでした。その言葉とは何でしょーかっ!」
「『ありがとう』でしょ? エレアお姉ちゃんがこっそり僕のところにきて一緒に一文字ずつ練習したんだ。あ・い・が・とーってね。」
こちとら【記憶】大先生がいますからね。今から復習することも出来るんだよねっ
「うそっ....ほんとに憶えてるのっ?」
「「そんなことしてたのかい(していたの)!?」」
思わずといった感じで口元を抑えるエレアお姉ちゃんと、全く知らないところで起こっていた出来事に目を向いて驚くカル父さんとサフィー母さん
良いリアクションだなあ。見てるこっちが楽しくなってきちゃうよ。
「ぷふっ....あははははっ! アッシュまた変な顔してる~!」
「変な顔してないしー! ちょっと笑っただけだしー!」
「うっそだー! いつもその顔して私のこと笑わせてくるもんっ」
「そんなつもりないんだよー! なんか癖になってるんだもん、仕方ないじゃん!」
そんなことを言い合いながら、僕らの関係はあるべき形へと戻っていった。
勉強会に少し遅れるくらい、エレアお姉ちゃんに比べれば大したことじゃない。
遅刻を気にせず堂々とお互いをからかっていると、カル父さんとサフィー母さんに勉強会に行くように急かされ、僕らは村を駆け足で走っていく。
笑い合いながら手を繋いで。
今日の空は雲一つない快晴。畑で秋蒔き小麦の穂が楽しそうにゆらゆら揺れている。
電線などなく、とても高い空。目に優しい小麦の穂の緑。隣には大好きなお姉ちゃん。
僕は今、すっごく幸せだ。
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