第6話 俺、両親を知る

 俺の誕生月祝いをした翌日、母がリビングにご近所の奥さん方を呼んでお茶会を開いているようだ。


 話の内容としては、ひたすらに我が子自慢で聞こえてくる身としては嬉し恥ずかしと申しますか、まだまだ手札はあるので我が子自慢に困ることはないですよと、こちらがしたり顔と申しますか。


 どうやら我が子自慢にも一区切り着いたらしく、話が変わり、ここでの生活に不便はないかだとか、お互いの馴れ初めだったりになっていった。


 そう、我が父と母の馴れ初め!何それ聞きたい!ていうか、俺は両親のこと何にも知らない。知らなさすぎる!

 姉のエレアは父と母のことをお父さんお母さんと呼ぶし、俺が起きている時に、エレアとアッシュ以外の名前と思しき単語を聞いた記憶がないのだ!【記憶】スキルを持っている俺が言うんだ、間違いない!


 そんな両親の話を盗み聞きで聞いてしまうのは少し罪悪感があるが、赤ちゃんの好奇心は誰にも止められない....!





 と、盗み聞きをする前に一先ず、今わかっている範囲で我が家族のことを整理も兼ねて思い返しておこう。


 まずは父、名前不詳、年齢不詳、背丈は結構高くて、前世の俺が175cmだったのだが、それよりも明らかに大きいと言えるだろう。180cmはかたいな。

 そして、昨日高い高いをされて再認識したが、我が父はとっても筋肉質だ。なのにぱっと見それがわからない、素晴らしいまでの細マッチョ。普段は畑を耕したり、時々狩りにもいくようだが、それだけでこんな筋肉つくのだろうか?

 黒い髪は後ろにゆるく撫で付けており、整った顔立ちが良く見えて、息子の俺からしても眼福です。

 目元は緩やかな弧を描いており少しタレ目だろうか?そのおかげなのか目をみるだけで伝わってくる優しさ。

 目の色は深い濃い青で、青は鎮静色というが、そんなの関係なしに鎮静されちゃうよ。


 感想、完璧なイケメン。そして子煩悩。悪いところが見当たらない。


 次に母、こちらも名前、年齢ともに不祥。背丈は父と頭一個分は違うように見えるので160cmほどだろうか?

 髪色はしらがではなく綺麗な白で、目の色はとても赤い。以前アルビノかなと思ったが長時間外出して日にあたっても問題ないことからなんとも言えない。

 目元は、父とはまた違う切れ長な目をしており、まつ毛もそれはもう長い。

 胸囲なのだがこちらは均整が取れているというか体にあったサイズというやつなのだろうか、大きくも小さくもない。

 スタイルに関しても、二児の母だとは思えないほどスレンダーだ。


 感想、めっちゃ美人で、美白で神秘的な人だ。こんな長閑な場所には不釣り合いな程に。そしてこちらも子煩悩。エレアと一緒に良く遊んでいるらしい。


 一体どうなってんだだろうね俺の両親。


 最後に我が家のエンジェルこと、姉のエレア。年齢は四歳だが、もう少ししたら五歳になるらしい。

 サラッサラの父譲りの黒髪と、淡い空色の瞳、目元は母譲りなのか切れ長で、将来は絶対美人さんになるね!

 性格も、とっても明るくて、でも激しくはなく、姉として俺に優しく接してくれる。なんだかんだ一番構ってくれているのは姉かもしれない。

 普段は母の、家事を手伝ったり、友だちと遊んだり、最近は俺の面倒を見てくれていたりする。


 感想、包容力をすでに持ち始めている、幼き天使様です。もしエレアが結婚するときは、その結婚相手を一発ぶん殴らせてもらおう。


 ついでに俺。アッシュ、一歳、灰色の髪からアッシュとつけられたっぽい。

 目元は母に似ているようだ。切れ長でかっこいいらしい。良く父相手に自慢しているところを見る。

 目の色は紫色のようで、髪色と同じくに父と母の色が混ざったような色だと思った。


 まあ特に俺から言うことはないな。強いていうなら、大切な家族から受け継いだかのようなこの体を後生大事にしたいと思う。



 とまあ、外見的要素しかほぼわかっていない!故に扉の向こうで開かれているお茶会の会話の内容が俺にとっては貴重な情報!それも両親の馴れ初めとなれば聞くなという方が無理な話だ!

 出来る限り息を殺して、耳をそばだてる。


 「カルくんとサフィーちゃんの馴れ初め、聞かせてもらってもいいかしら?娯楽扱いするつもりはないんだけど、やっぱり夢があって何度聞いても素敵なのよね〜」


 もしかして、カルくんが父でサフィーが母の名前なのか。素敵な名前ではないですか。


 「そうね〜それはすごく分かるわ。女性なら一度は憧れるような内容だものね!」


 刺激的なのだろうか、一歳の俺が聞いても大丈夫な内容なのか心配になる....


 「そうですねぇ....それじゃあかいつまんで簡単に。やっぱり恥ずかしいですからねっ」



 それから聞こえた話は、とてもロマンチックなお話だった。母も思い出しながら少し感傷に浸っていたのか、幸せそうな声で語っていた。


 実は母サフィーは、貴族の生まれなのだとか。

 貴族といっても大して力を持っていない下級の貴族で、そんな家の三女として生まれたらしい。

 サフィーの髪色や目の色などは生来のものなのだが、それを気味悪がった親たちは忌子だなんだと決めつけ、ほぼいない様なものとして扱われていたらしい。


 だがサフィーは強かった。境遇には恵まれなかったが、強い魔力と魔法の才を持って生まれたらしく、隠れながら書斎などで本を読み勉強し、成人となる十五の年に直ぐさま独り立ちし冒険者となったそうな。

 その際に貴族籍からもはずれ、縁も切ったとか。

 逞しすぎるよ母....


 そうして冒険者になって数年が経った頃、商人の馬車の護衛の依頼を受けた時に出会ったのが後の父、カルだった。


 カルは商家の生まれで、こちらも三男として生を受けたらしい。家を継げる立場でもなく、勉強は苦手ではなかったが、体を動かす方が好きで、カルが冒険者になったのは必然と言えた。


 商人の護衛依頼を受けた際は二人とも今まで一緒にやっていたパーティーを抜け、一人でゆったりと旅をしたいと思っていたようだ。

 というのも二人ともその当時にはすでに単独での戦闘能力が高く、高位冒険者として認められていたとか。


 その出会いをきっかけに、仲を深め、目的も同じだったがために共に行動するようになり結婚を考え始めた頃。

 サフィーの実家がサフィーの実力をどこかで知ったのか、嗅ぎつけて来たようだ。そして我が家に戻ってこいとしつこく連れ戻そうとした所を、カルが決闘を挑み、自分が勝ったら二度とサフィーに関わるなと、そしてこの決闘に勝ったらサフィーと結婚するのだと宣言したんだそうだ。


 聴きながら、俺も「ふおおおお父かっけえ!!」と大興奮したよ!


 そして決闘に余裕で勝利しサフィーを掻っ攫っていった末に、穏やかな村でゆっくり暮らそうと今の場所に居を移し、今に至るわけだ。


 ドラマチックな人生を歩んでいる両親にちょっとした憧れを抱き、自分にもそんな出会いが訪れるのだろうかと、淡い期待を抱いたところで....


 すみません、気が緩んだのかおしっこお漏らししちゃった。


 「うえええええええん!!!!」


 不快感でまた泣いちゃったよ。


 キリも良いし今日はここらで解散しましょうかと、井戸端お茶会はここでお開きとなってしまった。


 すぐさま母が気づいておしめを変えてくれたのだが、お茶会を中断させてしまったことが申し訳なくて、しばらく泣き続けてあやしてもらってしまったよ。


 素敵な話を聞いた後にこれだもん、感情の制御が上手くいかなくってもどかしいよ....


 今度歩けるようになったことお披露目するから許しておくれ

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