第5話 俺、一歳になる

 俺は無事、姉とのご対面を果たした。五体満足なんてもんじゃない、心も満足、家族も満足、最高の一日だったと言える。


 姉のエレアは弟の俺から見ても将来が楽しみなほどの可愛さを備えており、性格も言動も終始穏やかなものだった。エレかわ。

 姉としての自覚を持っていたのか、あれが地の性格なのかは分かりかねるが、良い子ということだけは明らかだった。


 警戒していた自分が馬鹿だったなと思い、【記憶】で自分の行動を振り返って見たのだが、あまりの恥ずかしさに穴があったら入りたいほどだった。

 だがその後に流れる、昨日の穏やかで幸せいっぱいの記憶が傷を癒してくれた。


 この時俺は【記憶】スキルを選んだ自分を全力褒めちぎったよ。この幸せな記憶があるだけで俺はどこまでも前を向いて歩いていけそうだ。

 あとはあの方にもお礼をおっておこう。素敵なスキルをありがとうウィンドウさん!


 そういえば、スキルの説明なんて受けてないのに使い方は勝手に分かるんだよな。こういうものなのだろうか。

 ....いやそうじゃない、自分で推測しただろ、先天的だ後天的だと。そして【記憶】はおそらく先天的スキルだったということ。だからこそ、使い方が分かっているんだ。


 それならば、残り二つの【浄化】と【魔法の才】はどうなっているのかという話。

 これらは実はうんともすんとも言わない。スキルの使用を意識しても物が綺麗になったり、魔法に関する何かが分かるわけでも無かった。


 もしかすると、【浄化】はまだしも、【魔法の才】は後天的スキルということになるのだろうか?

 才能の発現といった考え方も出来るが、詰まるところそれは、発見に至っていなかったか、肉体が追いついていなかったにすぎない話な訳で....


 ん?肉体が追いついていない?原因はこれか?

 ファンタジーの魔法というからには、空気中か体内に魔法を発動させるための力のようなものがあって然るべきだ。それがまだ十分な量生成されていないだとか、肉体の安定と成長のために身体構造的に後回しされているなどはあり得るかもしれない。


 仮にそうだとすれば、【記憶】以外のスキルについては、気長に待つとするか。焦っても仕方ないしね。


 そうとなったら、今は次なる目標、ハイハイを目指してがんばって体を動かすとしますか!


 「あいっあいっおーっ!」


 寝返りを打って、うつ伏せになりながら片腕を前に伸ばし気合いを入れる。


 そしてそんな俺を扉の隙間からエレアが覗いて悶えていた。



 時の流れは早い物で、そろそろ俺が生まれて一年が経とうとしているようだ。

 この世界の暦は、火水風土無を五日間に割り当てそれが一週間、一週間が六回で一月、一月が十二回で一年と、前世とは多少の違いはあれど大きな差が無くてたすかった。


 生まれて一年、もうすでにハイハイはマスターしており、これを家族の前で披露した時はこれまた大騒ぎで、ハイハイコールが外が暗くなるまで続いた。


 俺も舞い上がっちゃって、いっぱいハイハイしたもんだから、マスターするのにそう時間はかからなかったよ。

 実はすでに立ち上がることと歩くことも出来るようになっているのだが、俺が何かを成す度に起こる大騒ぎが楽しすぎて小出しにしている。


 そろそろ一歳という節目なのでね、みんなの前で立ち上がってやりますか!みんなの反応が楽しみだぜ!




 その日の夕ご飯は鳥が取れたらしく、いつもよりも豪勢で、俺の離乳食にも良く解されたものが入っていた。

 ちなみに四人でテーブルを囲んでいるのだが、ちゃんと俺も椅子に座っているぞ。

 赤ちゃん用の椅子を作ってそれを赤ちゃんのいる家庭に回しているようだ。

 両親たちが良いご近所付き合いが出来ているようで安心です!


 みんなが揃ったところで、父が音頭をとって俺の一歳の誕生月を祝ってくれた。

 (この世界では生まれた月で祝うのが主流らしい)


 「みんな!今日はアッシュが生まれて一年!一歳の誕生月だ!アッシュ!おめでとうー!」

 「アッシュ、おめでとう!」

 「アッシュおめでとっ」


 父、母、エレアが祝いの言葉をかけてくれた。


 感謝で胸がいっぱいだ....


 ようし!お返しにお披露目致しましょう!俺の仁王立ちとこの胸いっぱいの思いを!今!ここで!


 俺は椅子の手すりを持ちながら立ち上がり、出来る限り明瞭に言葉を発する。


 「あいっ!あいがとー!」


 一瞬の静寂の後、みんながこれでもかと盛り上がる!

 父は俺を持ち上げて涙を流しながら高い高いをして、母はもう一回もう一回と「あいがとー」の催促に全力だ。姉のエレアはそんな両親を微笑みながら見つめており、一番大人な対応をしていた。


 実は、エレアには喋る練習をしているところを何度か見られており、なんなら練習に付き合ってくれていたのだ。それ故の落ち着きようなのだが、俺が初めて彼女の前で「あいがとー」をした時なんて数十秒間固まっていた。


 似た物家族だよ。


 まあなんにせよ、今日はパーティーだ。

 リクエストには出来る限り答えてやるぜ!

 

 お肉が入った豪華な離乳食を残さずいただき、チヤホヤしてくれる両親に応え、姉のエレアと一緒に笑い、素敵な夜を過ごした。




 拝啓

 父さん、母さん、ついでに演技の友人


 俺、1歳になりました。元気で楽しくやってます。まだまだ出来ないこと知らないことだらけだけど、とても幸せです。

 今度こそ、後悔なんてしないように大切な家族との時間を大切に過ごすよ。

 人は唐突に死んでしまうものだから。例えいつだれが居なくなっても後悔しないように、俺は俺に出来る精一杯で、生きていくよ。

                                       敬具

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