第3話 俺、生まれ変わったみたい

 前が見えない


 なんだか寒い


 泣き叫んでる声が聞こえる


 俺まだ泣き腫らしてんのかな....


 なんだか思考もまとまらない....


 けど、不思議と晴れやかな気分だ....


 どうなってるんだろう....

 良くわからないまま俺は眠りに落ちた。


 気がつくと俺は布に包まれて誰かに抱き抱えられていた。まだうっすらぼんやりとしか見えないけど白い髪の女の人が俺を抱えてるのかな?


 なんだか暖かくて心地良い。また眠りつく。

 そんなことを繰り返して早数日、ようやく現状の把握が出来る程度に起き続けられるようになり、また視界も安定した。


 意識がぼんやりしていた間も本能的に母乳などは吸っていたようで、体が思うように動かしづらいこと以外はなんら問題ないと思う。


 起きたことに気が付いたのか、母と思しき人が俺を抱き抱える。


 どうやら今世の母はとっても美人さんと言いますか、美人とか以前に若いと言いますか、20歳いってないのではないかと思うぐらい若々しい人だ。


 しらがではなく、白い髪をしており、切れ長の目は赤く、目鼻立ちは通っており、白い肌に血色の良い唇が映えている。


 うん、めっちゃ美人さんだと思います!


 感情に引っ張られて声が出ていたのか、美人ママが優しい笑顔であやしてくれる。


 これがバブみってやつなんですか??いやいやこの人は正真正銘ママで俺は赤ちゃん。全てが合法だ。......だめだこの思考は危険だとなけなしの理性が叫んでいる、辞めよう。


 反対側に立っている男性は父だろうか?

 こちらは黒髪で、穏やかな青い目をしてらっしゃる。そして父もまたえらいイケメンさんで、体は引き締まっているようにも見える。


 俺が見ていることに気付いたのか、嬉しそうに顔を近づけて頬を指で突ついてくる。


 間近でみるとさらにイケメンでキャッキャと喜んでしまった。


 こんな美男美女から産まれたんですか俺?大丈夫?圧倒的美男に産まれてない?世の女の子たちから黄色い歓声とか貰っちゃえるのでは?

 というかそもそも俺って男?女?わかんないけどまた眠くなってきたぁ....


 腕を伸ばしたまんま眠りこけようとする俺を見てか、くすくすと笑う両親の声にひどく安心感を覚えてまた眠りに落ちる。


 

 俺が生まれて数週間が経った。


 赤ちゃんの理解力は恐ろしいもので、すでに言語を聞き取れるようになってきていた。

 それにより俺の事を、「アッシュ」と呼んでいることが分かった。

 また、性別は男のようだ。前世が男だったからかとても深い安堵を覚えた。俺の息子は今世も息子でいてくれたらしい。


 だが、まだ両親の名前は分からない。何故なら、「アナタ」「おまえ」と呼び合っているからだ。


 それが名前なんてことはないよね!?ちゃんとした名前あるよね!?そろそろ名前で呼び合ってくれてもいいんやで!?

 じゃないと「アナタ」と「おまえ」って呼んじゃうぞ!


 早いところ意思を伝えたいのでいっぱい声を出して喋る練習をしておこう。

 とりあえずひと泣き


 「あぁばあだあ、どぉだあでぇ」


 どうよ?赤ちゃんなりに再現してやったぜ!


 今の声を聞いたからか、2人が寄ってきてお互いがお互いに同時に話しかけたと思ったら、言い合いに発展して行った。


 その後の両親は見るに耐えないほどに醜い争いをしていた。


 俺の顔を覗き込んだかと思ったら、自分の顔を指差してあーだこーだと牽制しあって、最終的には俺に言わせようと必死になっていた。


 面倒だったので、無視して寝たふりを決め込んでやったよ、その後そのまま寝ちゃったわ。



 後日、話を聞きかじってると、やはりパパを呼んだママを呼んだで揉めていたらしい。

 両方のこと呼んだし、なんならパパとママは言ってないんだが....これも赤ちゃん相手故に起きた悲しい出来事なのかもしれない。


 当分の間は、目線や態勢で呼んでる人物を推測させよう、そのために寝返りの練習もしなくてはな!

 

 全く赤ちゃんも大変だ。やれやれ....あっおしっこ


 「びやああああああああああ」


 おむつが濡れて不快感で思わず泣いてしまう。

 すぐさま母がやってきておしめを取り替えてくれた。父はおろおろしていて、ちょっと情けなかった。


 その後母乳を飲んでゲップをした後また眠った。


 生まれてから4ヶ月ほど経った


 なななんと!ついに寝返りを打つことに成功しました!

 苦節百二十日!体をばたつかせ手足を動かし続け、ようやく今日この時がやって参りました!


 さてさて、この寝返りをいつ両親にお披露目してやろうかな?

 ....どう考えても両親が一緒にいる時にしないと絶対面倒だよね?

 片方しか居ない時にすると醜い争いがまた始まりそうのでね....


 それはさておき、寝返りをうてるようになり周囲を自由に見れるようになったおかげで自分の居る部屋のことがようやくわかった。


 俺が普段寝ているのは、ベビーベッドのような柵付きのベッドなのだが、どうやら寝室に置かれているようだ。


 あんまり覚えてないけど夜泣きや、おしめを変えたりなどを考慮すると、両親は眠れているのか心配になる。あまり無理をしないでほしいのだが....


 家具の配置としては、三つのベッドと一つのベビーベッドが並んで置かれており、両親が寝るだろう二つのベッドの間に俺が今寝ているベビーベッドが一つ置かれている。そして寝室の扉に1番近い場所にもう一つベッドが置かれている。それ以外に物はほとんどない。せいぜい、サイドテーブルとその上にある蝋燭ぐらいだろうか?


 この寝室に置かれている端っこのベッド、これは誰のものだろうか?俺には兄か姉がいるのだろうか?だとしたらなぜ居ないのだろうか?


 あんまり良い想像に繋がらないな....暗い気分になりそうな上に考えても分からないことだし、一旦置いておこう。



 折角だから気分が上がるようなことを考えよう、悲しくなると感情の制御ができなくて泣き出しそうだしな、今の俺。


 そうだ、散歩!

 最近は母に抱き上げられながら外に散歩に行くことがあるんだが、その時に当たる風の心地よさ。目に広がる豊かな緑。そして広くて高い青い空。なんとも長閑でなんと雄大な自然。


 とても気分が良くなるんだ。母に連れられての散歩は俺にとって密かな楽しみだ。

 前世では外出なんて億劫だったのだが、今世ではもっと連れて行って欲しいくらい。今度おねだりしてみよう、伝わると良いのだが。


 なんて言ってはみたものの自然の緑と空の青以外はまだ良く見えない。

 赤ちゃんって思ったより視力が無いらしい。父と母はド近眼でも見えるわっ!って程の位置に顔を近づけてくれるから分かるけどそれ以外はほぼ色彩で認識している程度だ。

 なので家の周囲やその他のことはまだわからない。未知がいっぱいで歩けるようになった後がとても楽しみなんだ。


 他には、最近は理解できる言葉が増えて来て毎日お話を聞くのが楽しい。

 記憶力も上がってきているような?【記憶】スキルが仕事してくれてるのかな?それとも赤ちゃん本来の能力なのかな?ゴールデンスリープだっけ。


 あっあと、ついさっき両親が話していたことなのだが、どうやら俺には四つ上に姉がいるらしい。 一つ空いてたベッドの持ち主が分かったね。


 肝心の姉なのだが、まだ俺の首が座っているか分からないから、もしもが起き無いようにと、ここ数ヶ月間、夜はご近所さんの家でお泊まりしているらしい。


 非常に助かる思いでいっぱいだ。

 四歳はまだ自我が確立しているとは言いにくいからなあ、赤ちゃんの手なんて捻られたらおしまいですよ!慣用句にもあるくらいですからね!


 そんなお姉ちゃんをアッシュにそろそろ会わせてあげようかという話のようだった。


 ここ最近、両親は俺に構い切りだからな、寂しさだって感じてるだろうし、その根源である赤ちゃんに怒りを覚えていてもおかしくない。


 ....俺の転生後、初の大舞台になるかもしれないな。

 人間関係の構築に置いて大切なのはファーストインプレッションだと聞いたことがある。日本語で言うところの第一印象だ。

 最高の声と笑顔で姉の心を射止めて嫉妬なんてさせないくらいゾッコンにさせなければ....!


 俺の人生を終わらせるにはまだ早いんだぜ。


 まずは、姉を悩殺するためのキメ顔キメ声練習だ!


 「だあだあばあ!キャハッ!キャハッ!」


 こんなんじゃだめだ。無邪気なだけじゃあ姉にインパクトを残せない....!


 そうだ、確か前世で俳優になりたいと言っていた奴から聞いた話があったな。

 確か....

 『笑った顔からは明るい声が出るし、怒った顔からは低い声が出る。意図的に崩すことはできるが基本的には感情と表情と声は密接に関わっている』

 とかだっけ?


 ....一言一句違えずに思い出せたんだが....これってもしかしなくても【記憶】スキルくん仕事してくれた感じかな? めちゃんこありがたいな、もうちょっと深く思い出してみよう。


 『表情を作ることで感情が追いつき、その感情が言葉に勝手にのるんだよ!まあ独自の理論だから信憑性は皆無だけどね』


 あああ!!独自理論かよ!!俺の期待を返してくれ!!

 でも参考にはなるかも?ひとまず表情からつくってみるか!

 どうせつくるなら笑顔だよな。そして笑顔といえば......

 ふっふっふ......必殺の笑顔を作り上げ、俺は命を繋ぐ!待っていろよ?まだ見ぬ姉よ!


 ふっふっふ....はっはっは!はーっはっはっは!


 「ひゅーひゅーひゅー....えへっえへっえへっ!だーいやーいあいあい!」


 母がこちらを見て不思議そうにしながら見ていた。


 すごく恥ずかしいです....

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