転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた。

ゆらゆら

幼年期編

第1話 俺、生まれ変われるみたい

 俺は、和田日向わだひなた。大学生をやっていた。恋愛経験はあったし、童貞でも無い。オタクではあった。まあそこそこ充実した生活を送っていたよ。


 どうやら俺は、バイトに行く道すがらで自動車との交通事故に遭い、打ち所が悪かったのかそのまま死んでしまったらしい。


 なんの変哲もない交通事故。治安が良いとされる日本でも交通事故なんて珍しくもない。毎年数千件の事故が起きてる。そして数千人の人が亡くなってる。

 

 改めて考えるとものすごい話だ。そしてその中の一人に俺が入ってしまっただけだ。大したことはない。


 いや、親や友人からしたらそんなことは無いのだろうが、俺には死んだ実感が無かったし、なんなら意識がずっと残ってて今もこうして思考し続けてるわけで....



 気が付けば一面真っ白な場所にいた俺は、ここに至るまでのことを思い返していた。


「天国ってやつだろうか? だとしたら空虚な場所だな。白いだけの部屋って気が狂うとかって聞くけど....」


 すると目の前に透明なウィンドウが開かれた。そこには転生時取得スキル選択権と書かれていた。


 「えっ....転生?....えっ」


 喜びなどよりも困惑の方が強かった。まさか自分が転生する権利を得られるとは夢にも思わなかったのだから当然だ。妄想ぐらいはしていたが。


 だとしても、この真っ白な場所で神様に出会うでもなく、気がつけば転生していたでもなく、ウィンドウが開いてそこから選べと?


 ......手抜きでは??

 

 思わず顔を顰めていた。


 仮にもオタクとして数々のライトノベルを読み漁ってきた身としては、これほどまでに静かなスタートは無い。


 一縷の望みに賭けて少しだけ待ってみた。これから神様やら天使やらが現れて何か説明してくれるのではないかと信じて待ってみた。


 ......待ってみたんだけどなぁ......


 ただひたすらに業務的なウィンドウだけが静かにそこに浮かんでいた。

 

仕方がないのでスキルを選んでみることにする。


 「仮に本当に転生するとして、その際に得られるスキルなら相当重要だよなこれ。」


 試しにスマートフォンの要領で下から上へとスクロールしてみると、夥しいほどのスキルが下から現れては上へと消えていく......


 目頭をつまんでから、口元を引くつかせながらもう一度スクロールしてみる。


 夥しいほどのスキルが下から現れては上へと消えて......


 「多すぎる!!!!!!この中から選べと!?人生を左右するだろうスキルをこの馬鹿みたいに多い中から選べと!?!?」


 なにか注意書きなどはないかと一番上まで戻って転生時習得スキル選択権のあたりを良く見てみるが何もない。


 不親切極まりねえ....


 とりあえず上にあるスキルを見てみるか....


 【愛の加護】 【愛の祝福】 【愛の鞭】....

 

 なんてことだ。非常事態だ。五十音順だ。内容わかんねえのにまさかのあ行始まり。


 「勘弁してくれよ....」


 この真っ白な場所で俺に許されるのは天を仰ぎ遠くを見つめること、そしてスキルを選ぶことだけ。


 「俺、今が人生で一番辛いかもしれない....」



 数時間後


 とりあえずスキルを選ぶことよりも、一通り見てどんなスキルが在るのかを把握することに努めた。それはもう努めた。嫌になるぐらい努めたよ。そのおかげでわかったことが二つある。



 まず一つ、おそらく転生先の世界では努力でスキルを得られるということ。

 例えば【剣技】というスキルがある。文字通りに受け取るなら、これは剣を用いた技ということだろう。

 そして【剣術】というスキルも存在した。術ということは、術理ということ。術理とは要は人間が蓄積してきた技術の理論ということになる。


 これらは恐らく練度を高めたり、技術を習得していく過程で得られるだろうスキルと言える。つまりは後天的なスキルだ。



 そして二つ目、後天的ときたらその逆、先天的スキルだ。努力では得られないだろうスキル。


 まさにこれは後天的には得られないだろうというものがあった。それは【剣の才】というスキル。


 俺の中では才能とは実際にあるもので、それは生まれつき持ち合わせるものという認識がある。

 運動が苦手、勉強が得意、これらはただの意識と練度の問題だ。

 運動は身体の動かし方を把握し、最適化を測っていけばそれなりに出来るようにはなるはずだ。

 勉強に関しては、予習復習。あとは個人に合った教え方そんな所だろうか。


 では才とは何か。

 おそらく感覚的、直感的センスのこと。理論とかそういう物ではない、なんとなく出来そうだからやってみた。そういう次元の物を才能というのだと思う。


 そして【剣の才】の剣という部分。これは運動や勉強などと言った広義的なものでは無い。あからさまに限定的すぎる。


 まるでこの事に気づいて下さいねと言わんばかりの才という文字。それがわかってからは速かった。

 ひたすらに先天的だろうスキルだけをピックアップしていく。


 ピックアップと言っても頭に留め置く程度だけれども。不用意に触れないからね。スワイプして一番上の画面に持っていけたらどんなに楽か。



 そうしてピックアップした中からさらにただ一つのスキルを選び終えた俺は、ついにスキル名をタップすることにした。


 「後天的、先天的という先程までの考えを全て無視して選んでやったぜ!!!」



 何度も何度も、知識が頭からこぼれていくあの無力感。来世でもそれを味わうのは辛い。受験勉強の時なんて、疲れて頭が回らない中、食パンをノートに押し付けて食べたこともあった。二十一世紀に存在するとされる猫型ロボットが齎す神秘の食パン。あれが切実に欲しかった....!


 そして今!!それを超えるかもしれない力が目の前にある!これを欲さずには居られなかった。


 そう!!その名も【記憶】スキル!!!


 ちなみに完全記憶なんかも探して見たがそれは無かった。


 この【記憶】スキルがどこまで覚えてくれるか知らないが、少なくとも確実に異世界ライフを助けてくれるに決まっている!

 だって記憶できるという事は、一度見たものや感じたものを思い出して照らし合わせることも出来る!そうすれば自分の動きを最適化する事で【剣技】や【剣術】なんかの習得速度を上げることだって出来るはず!だから俺は【記憶】スキルに賭ける!


 

 「せっかくだから、俺はこの【記憶】を選ぶぜ!」


 ポチッ


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【記憶】

物事を記憶しておくことができるスキル。

記憶した物を瞬時に思い出すことも出来る。


  このスキルを選択しますか?

     YES or NO

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 「そういう可能性もあるとは思ってた....思ってはいたが....それでもそれはないよぅ....俺のかけた時間を返してくれえぇぇ....」


 自分でも驚く程の弱々しい声が出た。


 先天的、後天的とは書かれていないことから俺が推測に使った時間は無駄では無いと思うが、それでも悲しい....


 だって最悪を想定すると、タップしたらそのまま選択されて転生させられると思うじゃん!?安易にタップ出来ないじゃん!?だから覚悟決めてタップしたのに....したのに....その結果が詳細画面かよぉ....


 「ちょっとだけ親切かよぉ....ありがとう....」


 溢れそうになる涙を堪えてウィンドウに再度向き合う。


 でもこうなるとだ、一つだけタップしておかなければならないものがあるんだ。


 【転生時取得スキル選択権】これだ。


 もしこれで、このウィンドウの詳細が出てきたら俺泣けるよ?静かにほろほろと涙流すよ?


 はあ....覚悟決めてタップするか


 ポチッとな


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【転生時取得スキル選択権】

 貴方にはこれから剣と魔法の世界に転生して頂きます。魔物がひしめき、人類と生存権を奪い合うそんな世界です。

 貴方にしてもらいたい事などはありません。どうぞ自由に生きて、そして自由に死んでください。

 転生の際、貴方の助けとなるだろうスキルを選択する権利を三つ与えます。どうか悔いの無い選択を。

(スキルの詳細に関しては、本文と同様に文字に触れればご確認頂けます。)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 「メッセージ添えられてるううううう!!ていうかこの仕様を最初から出すか書いとけバカタレがあああああ!!!うああああああん!!!!」


 ほろほろ流す涙なんてなかった。恥も外聞も年甲斐も無く号泣だったわ。

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