戦禍のアダバナ

ズヴェズダ

序章 芽吹き

「…………う…………!」

「シ…………………ル…………!」

「………き………………す!」


「…………」


音。


「……が………、………です……」

「……ど…………い……!………す!」


何か聞こえてくる。


幾度と聞こえるシステムの動作音。

忙しなく響く誰かの足音。


「……起動。……に……ろ」

「……!……出力、………いしていま…!」


音が徐々に鮮明になっていく。


「エネルギー出力、問題無し」

「五感インターフェース、問題無し」

「Will《ウィル》システム、リンク完了」


人の声だ。


「メンタル数値、安定しています」

「起動、いつでも可能です!」


声、声、声。人々の声。

聞こえてくる声は全て真剣な様子だ。

押し寄せる音声情報の中で、また、人の声が聞こえる。


「ついに、完成だね」


優しい、男の人の声。


「ああ、ついに完成だ。私の理想。私の最高傑作にして初めての『』……。この兵器は、世界を大きく、そして確実に変えるだろう。」


今度は冷たく、低い声。


そんな会話が聞こえてくる中で、手足の感覚が徐々に戻ってくる。

確かに感じる、私の体を包む冷たい圧力。

どうやら私は液体の中にいるらしい。

徐々に身体の感覚が鮮明なものになる。

液体特有の感覚。

動かなかった身体が、思い通りに動く。

まずは指を少し動かす。

ふらふらと指を泳がせるように動かすと、何か硬いものに触れることができた。

鉄製の物体であることは分かる。だが、それ以上は分からない。

続いて腕、脚を動かそうとしたが、機械に繋がれているらしく、大きくは動かせない。

しかし、何が起こっているのかを、私が認識するには十分な要素だった。


冷たく、低い声がまた響く。


「さぁ、目覚めろ、世界最高の人型兵器アンドロイド」


瞳を開く。

一気に景色が眼前に広がる。

白衣を着た人々の姿、私に繋がれた多くの機械、見つめる視線、期待と不安が混ざったような表情……

多くの視覚情報が押し寄せる。

ようやく、自分の置かれている状況を正確に理解する。


あの冷たく低い声の主が、私の目の前に立つ。周りにいる研究者たちの中でも際立って冷徹な表情、その中にも恐ろしさが伺える。背は高く、威圧感さえ感じさせるような人。

そして何より、私を創り出した人。

そんな彼が、名前を呼ぶ。



「『アダバナ』第一号、リリィ・ルナテア」



リリィ・ルナテア、それが私の名前。

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