第44話 ごめんね




 魔法使いが異空間に創った森にて。


「もう。ずるいよ。瑠衣るいの一部だなんて言われたら。僕、瑠衣を苦しませて赦さないって恨んでいたその能力も、かわいいって言うしかないじゃないか」

「え?い。あ。うん。かわいいって言って」


 可愛いって言わなくていい。

 反射的に拒否しようとした瑠衣は抑え込んで肯定した。

 せっかく能力を受け入れてくれるようになったのだ。

 顔はとても嫌そうな顔をしているけれどそれでも、受け入れてようとしてくれているんだ。


「ありがとう。禾音かのん

「………でも、もしも。もしもだよ。能力が嫌だって、奪い取ってほしいって思ったら、僕に言ってね。僕がすぐに奪い取ってあげるからね」

「摩訶不思議生物と契約して?」

「ううん。摩訶不思議生物が契約を履行してくれるかどうかわからないし。そんな不安要素満載なもので奪い取ったりしない。絶対に。僕が自信満々なもので奪い取る」

「………じゃあ、私は絶対に、能力を奪い取ってって言わない。能力を使いこなせるように絶対になる。禾音が私の能力を奪い取る為に無茶をするから」

「やだなあ。無茶なんてしないよ。僕が無茶をしたら、瑠衣。怒るでしょ。悲しむでしょ」

「そうだよ。だから。お願い」

「………瑠衣」

「うん」

「嫌いじゃないよ。ずっと。ずっと。嫌いになるわけがない。ずっと、好きだよ。僕の唯一無二の人。僕の全部を懸けて守りたい人。だから。ごめんね。前言撤回」


 禾音はお姫様抱っこをしていた瑠衣を優しく地に立たせると、そっと真正面から抱きしめた。


「瑠衣の事で無茶をする僕をゆるして」

「………無茶をしないでって言っても、するんでしょ。私も。無茶するし」

「僕以外の人の為にも無茶するんだ」

「禾音だって、騎士である以上、私以外の人の為にも無茶するでしょ」

「騎士として瑠衣以外の人を助けても、それは全部瑠衣の為だよ。いっぱい稼ぐんだ。瑠衣に金銭面で苦労をかけない為にね」

「ふふ。照れ隠しが過ぎるなあ。騎士なんだから、誤魔化さなくていいのに。騎士はみんなの王子様なんだから」


 瑠衣は禾音の背中に腕を回して、ぽんぽんと優しくリズムよく叩き続けた。


「ふふ。僕を寝かしつけようとしてる?」

「ううん。ただ。こうしたかっただけ。ありがとう。って気持ちを、こうして伝えたかっただけ」

「僕が無茶をしても嫌いにならないでね」

「嫌いにはならないけど。無茶をしないでほしいって言い続けるよ」

「じゃあ、僕も言い続けるよ。無茶をしないで僕に守られ続けてほしいって」

「じゃあ、私も言い続ける。無茶をしないで私にも頼ってほしい。家事も仕事も。禾音よりもできない事が多いけど。頼ってほしい」

「じゃあ、一か月に一回は何もしない日にしようかなー。瑠衣に家事を全部押し付けちゃおうっかなー」

「一か月に一回なら。何とか。うん」

「え?いいの?」

「うん。一か月に一回なら」

「じゃあ、僕の記憶が戻っても戻らなくても、一緒に暮らすって事でいいんだよね?とりあえずは凪局長が用意してくれた平屋で、二人で話し合ってどんな家がいいか考えて、新築を建ててもらって。あ、もちろん、全額僕が出すよ。貯金してるから安心して。それで近い内に引っ越して二人で暮らそうね。ずっと」

「え?あ~~~。シャアハウスなら新築を建てなくても。今の平屋で十分だと思うけど」

「え………うん。瑠衣が気に入ってるなら。うん。今は。いいよ」

「うん」

「じゃあ、冒険ごっこを再開しようか」

「うん、その前に、バクパクが居るって、魔法使いと騎士に知らせようね」

「………え~~~もう。見失ったから、いいんじゃないかな~~~」

「だめ」

「はい」


















「ごめんね。瑠衣」


 L字型の平屋の瑠衣の寝室の前にて。

 あの後、バクパクが森に居た事をゲートの前に居た魔法使いに知らせると、大騒ぎになってしまった。

 当然だ。

 あの森は魔法使いが異空間に創ったものなのだ。

 結界も無論厳重に施されている。

 行き来できるのは、魔法使いが常駐しているゲートを通過した者のみ。

 摩訶不思議生物が入り込むわけがない空間であるはずなのに、居たのだからそれは大騒ぎになるに決まっていた。

 そこから、即刻事情聴取が行われて、解放されたのは五時間後。

 もう何度いい加減にしろと言ったか。

 心中で。

 瑠衣は張り切って事情聴取に協力するものだから、禾音は言うに言えなかったのである。

 そして、瑠衣がいつもにも増して張り切るものだから、もう、寝室で眠ってしまった。


「ごめん」


 禾音は今、瑠衣の寝室の前に居て、謝り続けていた。




 思い出したのだ。

 もう、とびっきりの無茶をした事を。




「ごめん。僕、」




 食べてた。

 摩訶不思議生物を。

 バクパクを。




 瑠衣の能力を確実に不安要素なく、奪い取れるように。

 バクパクの能力を使えるように、肉体と心、魂に馴染ませている最中だったのだ。






「ごめんね」











(2024.9.1)



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