第31話 わからない
大気分析家で働くのは、ずっと見守ってくれる、ずっと指導してくれる凪局長に成長した自分を見てもらいたい為でもあるけど。
それだけじゃなかった。
『るいちゃん!るいちゃんっ!やだよ!ねえ!ねえってば!』
もう、自分の所為で泣いてほしくなかったから。
大気分析家で強くなりたかった。成長したかった。
心配ないよって。
胸を張って、もう大丈夫だって、言いたかった。
「ちょ。
魔法使いが作ったゲートを潜って森に足を踏み入れて、生い茂る多種多様な植物を見渡していた時だった。
瑠衣は不意に浮遊感に襲われたかと思えば、禾音にお姫様抱っこされていたのだ。
禾音は瑠衣をお姫様抱っこしたまま、駆け走り出したのである。
瑠衣の呼びかけにも何も言葉を発さず。
ただ、
(記憶が、)
ただ禾音は、記憶喪失前の、否、それよりもさらに乱暴で禍々しい表情へと激変させて、軽やかに、俊足で駆け走った。
何かを追いかけるように迷いなく。
「禾音。ねえ。禾音。ねえってば………返事。してよ」
さびしい、かなしい、こころがどんどん冷えて行く。
優しさを見せてくれたからこそ余計に。
希望を見てしまったからこそ、余計に。
瑠衣は泣きたくなった。
禾音に声が届かない事。
禾音に近づけたと思ったら、また遠ざかってしまった事。
(森で、一緒に楽しめるって、思ったのに。禾音が、わからない)
わからない事が、ひどく、
(2024.8.3)
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