第13話 昔の夢




 マスクをした瑠衣るいは、前を歩く禾音かのんの背中を見つめながら追いかけて、大きくなったなあと思った。


(八年前。私も禾音も十歳の時は、私の方が頭一つ分背が高かったのに。今は頭三つ分くらい、禾音の方が高くなっちゃってるし。横幅も厚みも、私の二倍くらい?八年でこんなに人って成長するんだなあ)


 もちろん、成長しただけではなく、騎士になるべく、そして、騎士で在り続ける為に、地獄の特訓に耐え抜き続けているがゆえに得た、鋼のような肉体でもあるだろうが。


(そう言えば。何で禾音は騎士になったんだろう?騎士になりたいって言ってたっけ?う~ん。確か。ケーキ屋さん。お菓子屋さん。果物屋さん。とか。甘い食べ物を作って、売りたいって言ってた。ような)


 八年前。病院に連れて行かれてから、丸々六年は、まったく会っていなかった。

 時々、両親との手紙を通じて、禾音に大丈夫だからと伝えてほしいと頼んではいたが、禾音の事は一切わからなかった。

 禾音に何も伝えないでほしいと口止めされていたのか。

 その後、交流が一切なかったのか。

 理由はわからないし、尋ねようとも思わなかった。

 自分の事で、いっぱいいっぱいだったのもある。

 意識してもしなくても、薫香を嗅げば不調をきたす事もたびたびで、覚えなければいけない事が山ほどあって。


(心配をかけたくないって気持ちもあったけど。正直、禾音や家族を考える余裕がなかった。からって。少し余裕ができた今から。知りたいって言うのは、自分勝手過ぎるよね。嫌われているみたい、だし)


 家族には、六年ぶりの再会を果たした時に、手紙でも書いたが改めて、心配をかけてごめんなさいと謝ったけれど。

 禾音にはまだ謝ってはいなかった。

 その機会がなかなか掴めなかったのだ。


(幼馴染が病院に連れて行かれて、六年間もずっと、会わなかったら。幼馴染の両親から、大丈夫だって、伝えられたって。心配、する、よ、ね。本当は、再会した時に、真っ先に言えばよかったんだけど。すごく豹変してて、びっくりして、頭が真っ白になって。禾音は、さっさと背を向けてどこかに行っちゃったし………記憶喪失の禾音に伝えても、だめ、だよ、ね。記憶が戻るように、少しでも手伝って。記憶が戻ったらもう。真っ先に伝えよう)


 よし。

 決意した瑠衣は、前を歩き続ける禾音の後を追ったのであった。











(2024.7.10)



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