第2話 大気分析家




 大気分析家。

 暴風(台風、竜巻など)、豪雨、豪雪、洪水、地震、津波、火山爆発、火災、感染症などの自然災害、及び、摩訶不思議生物の襲来という異変を、大気を読み取る事により、事前に察知、情報集積、及び、騎士団に伝達する職業名。

 数値、色彩、音響、薫香、画像、雲形などから分析をする。


 瑠衣るいは大気に放たれる薫香から、これらの異変を感じ取っていた。




 十歳の時。

 瑠衣は能力を開花した。

 今までに感じた事がなかった甚大な薫香が、瑠衣の嗅覚を、全身を支配した。

 幸い、と言うべきか。

 全ての薫香を、日常生活で感じる薫香さえも、過敏に感じ取れるわけではなかった。

 自然災害及び摩訶不思議生物の襲来時に大気に放たれる薫香だけを敏感に感じ取ったのだ。


 けれど、薫香の種類が制限されていたとて、瑠衣にとっては、初めて体験であり、初めて抱いた恐怖でもあった。

 日常生活において嗅いだ事のあるような、はたまた、今までに嗅いだ事がないような薫香が鼻ばかりか、頭に、いや、全身に襲いかかって来たのである。


 臭くはない。むしろ、いい匂いであったとしても、甚大な匂いを、しかも数種類もの匂いが一気に集中して押し寄せては、全身に厚く纏わりついたのである。

 瑠衣は頭を抱えて、その場に倒れ込んだ。

 あちこちが割れそうに痛みを訴え、とめどなく吐き気が押し寄せて来る。


 クルシイ、イタイ、キモチワルイ。

 イキガデキナイ、

 イキガ、


 瑠衣は恐怖した。

 初めて、死を、実感したのだ。




『るいちゃん!るいちゃんっ!やだよ!ねえ!ねえってば!』




 地面に倒れ込んだ瑠衣を泣きながら大きく揺さぶったのが、一緒に遊んでいた同じ年で幼馴染の少年、禾音かのんであった。











(2024.6.27)



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