異世界モン娘喫茶~【料理】スキルでモンスターが美少女化!?しかもモンスター娘の体液(そざい)は極上のスパイス!?第二の人生は幸せハーレムスローライフ!!~
雨愁軒経
1.だらだらだら~
すっかり辺りの暗くなった森の中で、サトルはしくしくと涙を流しながら膝を抱え、具の少ないスープを木の枝でかき混ぜていた。
具材も拙い山菜知識で厳選した、お吸い物と呼ぶにもみすぼらしい代物。立派なのはそれを煮ているフライパンだけだ。
「くそう、俺の人生っていつもこうだ……!」
半生を振り返ったサトルは袖で目元を拭う。
料理人を志して上京したのはいいものの、いざ自分の店が持てたという翌月に世界をウィルス禍が襲った。あっという間に店を畳むこととなり、借金苦に追われているうちに飢えて野垂れ死んでしまったのが、つい一週間ほど前のこと。
「なあ、いくら天才って呼ばれても、時勢には勝てないんだぜ?」
誰にともなく、虚空に話しかける。
修行でお世話になった二つ星レストランでは史上最短&史上最年少で認可をもらった。それは今でも自慢だ。しかし料理が作れるだけでは、ロックダウンには太刀打ちができなかった。
再就職をしようにも、飲食店はどこも余裕がない状況。元々研究のために収入のほとんどを食事に費やしていたから、すぐに生活は困窮した。
「こんなことになるなら、あそこで死なせておいてくれって話だよなあ……」
力尽きてフローリングに横たわり、気が付けば見知らぬ世界にいた。
同時に、意識の中に不思議な情報が流れてきた。どうやら自分は【料理】にまつわるスキルを得ているらしい。
「別に料理くらい、スキルがなくても作れるしなあ……というかどうやって使うんだよ、スキル」
どうせなら戦闘職が欲しかったと、薪を手で弄びながら溜息を吐く。
魔物が闊歩するこの世界では戦闘系のスキルの方が圧倒的に有利だった。しかも肝心の料理で食い繋ごうにも、元手がなければ首が回らないのはこの世界でも同じ。
金なし職なしのないない尽くしに待ち受けるのは、やはり餓死である。
「どうやって使うんだと言えば、このフライパンもだよな。何だよ『聖剣エクスカリパン』って。どう見てもただのフライパンじゃねえか」
手元でぐつぐつと煮立ち始めたスープを睨みつける。
この世界で目覚めた時に、手に持っていたフライパン。柄を握った瞬間に、それが伝説の聖剣エクスカリパンであるという情報が頭に流れ込んできたが、それきりである。
「小っこい金色の羊を見つけたからぶっ叩いてみたけれど、消えちまったしなあ。それが聖剣の力か? だったら余計な事してくれたよな……せっかくの肉が」
あれがなければ、今頃スープには美味そうなラム肉が入っていたことだろう。金の羊毛もきっとレアだから、皮を売れば当面の資金になっていたかもしれないのに。
「くそう……もういっそ、物乞いでもして生きるしかないのかよ」
鼻をすすった拍子に、涙がぽろりと零れる。その直後、スープの中にぽとりと雫が落ちるのがわかった。
「ははっ、涙を隠し味に塩気が出るってか? いいぜ、やってやるよ」
半ばやけくそ気味に腕を捲り、フライパンの上に顔を乗り出そうと腰を上げる。
しかしそこでふと、サトルは動きを止めた。まだ姿勢を変えている途中だってのに、鍋にぽちゃん、ぽちゃんと雫が落ちている。
「……雨?」
首を傾げて空を見上げようとした矢先、目の前の雫は滝のように勢いを増した。
「だらだらだらだらだらだらだら~~~~」
「うおわぁっ!?」
フライパンの対面で涎を垂らしている人影に気が付いて、サトルは声を上げて仰け反る。
目の前の人影をよく見れば、とびっきりの美少女だった。身なりこそシンプルで味気ないものの、ふわふわと羊のようにカールする金髪はなめらかで、小柄の体型によく似合っている。
そんな可愛らしい金髪美少女が、だらだらと涎を垂らしてスープを見つめていた。
「だ、だだだだ、誰だ君は!?」
「――ハッ!?」
そこで我に返ったらしい少女は「いけないいけない」と口元の涎をこしこしと拭ってから、向日葵のような笑顔をこちらに向けてくる。
「私はメリーです。はじめまして、マスター!」
「ま、マスタァ……?」
初めて呼ばれる二人称に、サトルは混乱に目を瞬かせるのだった。
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