その魔風使いは杖を吹く
不労つぴ
プロローグ
白髪の少年は、崩れ落ちた建物の瓦礫に背をもたれ、荒い息を吐いていた。
少年の周囲はまるで災害に遭ったかのように荒れ果て、少年自身も全身切り傷だらけだった。
少年が身にまとっている服も、もはやみすぼらしい布切れと化しており、服の切れ間からは無数の切り傷が痛々しく見えた。
「この条件を呑むんなら、お前に協力してやる。――これは取引だ」
声の主は、白髪の少年の首に下げている豪華な意匠が施された笛だった。
「お前、自分の記憶を取り戻したいんだろ? こんなとこでくたばったら、死んでも死にきれねぇはずだ」
少年はその言葉を聞き、手に持つ自身の背丈以上はある銀色の杖をぎゅっと強く握りしめた。
「時間はもうそんなにねぇ……早く決めないと、あのクソッタレがオレたちを見つけるのも時間の問題だぞ」
実際、声の主の言う通りで、死の影が刻一刻と少年に迫っていた。少年は冷たい汗が背中を流れるのを感じた。
「さぁ、どうするんだ?」
声の主は少年を試すように問いかけた。
少年は一瞬の逡巡の末、ついに覚悟を決めた。
少年は震える手で、首に下げていた笛を自身の眼前にまで持ちあげた。
「…………分かった、その条件呑むよ。だから僕と一緒に戦って――フルートさん」
「よし、取引成立だな」
笛の中から満足そうな声が聞こえた。
その表情は見えないが、少年には声の主がニヤリと笑っているような気がした。
「あの生意気なクソッタレにオレたちの力を分からせてやろうぜ、アルトレント!」
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