何故か俺が乙女ゲームの世界に転生してしまったので、主人公を差し置いてモブ美少女を溺愛します。

らい

第1話 男の俺が乙女ゲームに転生……?!

ーーー柔らかい日差しが部屋を暖かく包む。

その部屋の中央にある大きなベッドに1人の少年が眠っていた。




「ん……朝か………」

俺は重い瞼をを擦りながら上半身を起こす。

起き上がる時に手に触れたベッドの感触は実に柔らかく、触り心地のいいものだった。


「俺のベッドこんなに寝心地良かったか…?」


疑問に思いながらも、俺は時間を確認しようと枕元に置いていたスマホに手を伸ばす。が、スマホが見つからない。ベッドの下に落としたのだろうか?俺はそう思いベッドから降りようとした。その時、ありえないほどの違和感が押し寄せてきた。


「ここ…俺の部屋じゃない……?」


俺が普段過ごしているのは、実家の自室だ。ベッドと机を置くだけで窮屈に感じるほど狭い部屋で、お世辞にも片付いていて綺麗なんて言えない。そんな部屋だった。だが今俺の目の前に広がっているのは、だだっ広く、テーブルにソファに人がたくさん入れそうなクローゼットに……黒を基調としていて、落ち着きがあり、しかしどこか豪華な雰囲気の部屋だった。どっかの貴族の部屋かよ!!!


「てかどうして俺こんな所で寝てるんだよ…」


1人で頭を抱え悩んでいると、静まり返った部屋に突然扉をノックする音が響いた。俺が返事をするか迷っていると、勝手に扉が開いた。そこから顔を覗かせたのは20歳前後で青い髪に緑の瞳の男性だった。執事のような服装をしている。その男性は俺と目が合うと、ビックリするくらい目を見開き、信じられないと言いたげな顔をしている。しばらくの間見つめ合っていると、その男性は涙目になりながら口を動かした。


「目が覚めたんですね…アステル様っ!!」

「………アステル?!?!?」


驚きのあまり俺は大声を出してしまった。聞き間違いではない、よな。だが、俺がアステル?!


俺は数日前、妹に無理やり一緒にプレイさせられた乙女ゲームを思い出した。俺自身は元々乙女ゲームなんて興味なかったが、プレイしていくうちにゲーマー魂に火がつき始め気がついたら全エンド回収していたのだ。妹も楽しんでいたし、良しとしよう。そんなこんなで、このゲームの内容はある程度頭に入っている。


つまり、要するに、俺は、あの乙女ゲームのアステル・ディアウェルドに転生したんだな。アステルというキャラはこのゲームの中でも最も人気のキャラで1番の王道ルートであった。国の中でもトップレベルの軍事力にトップレベルの領地、トップレベルの生産力を誇っている公爵家の長男、アステル・ディアウェルドなのだ。そう、つまり、すごい貴族。なるほど。俺もついに地位を得たんだな。うん。正直あまり嬉しくない。乙女ゲームに転生する小説とかがあると妹から聞いたが、基本女性向けだろう。男の俺が転生していいものなのだろうか。俺が女性なら、イケメンに会える!と大喜びしていただろうが……。


1人で百面相をしていると、執事(だと思う)が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「アステル様、大丈夫ですか…?」

「あ、あぁ、すまない、大丈夫だ。少し1人にしてくれないか?」

「分かりました。なにか御用があればまたお呼びください」


執事はそう言うと一礼し部屋を出ていった。


ーーー名前とか諸々聞くの忘れてた。


とりあえず自分が本当にアステルなのか確認したいな。俺はそう思い、部屋にある鏡に近づいた。そこに写っていたのは……

ゲームの中で何度も見た、青みがかったさらさらの黒髪に、目にかかりそうな程長い前髪。その前髪の隙間から覗くのは深く吸い込まれそうなほどに青い瞳。右の目元にあるホクロが更に顔の美しさを引き立てている。


「本当にアステルだ……」


先程、転生したがあまり嬉しくないと言ったが、前言撤回だ。こんなイケメンに生まれ変われて嬉しくない男はこの世に存在しないだろう。


「幸せだ………」

「おっ、お兄様…………?」


鏡の前で自分の顔に見蕩れていると、聞き覚えのない声が扉の方から聞こえた。


「わたくしこんなに心配してましたのに!!!1週間もお眠りになられて!!!お兄様がもう起きてこなかったらどうしようと、眠れぬ夜を過ごしてましたのに!!!」


扉の前に立っている10歳過ぎと思しき少女はズカズカと俺の部屋に入ってくる。俺は…この女をーー俺をお兄様と呼ぶキャラを知っている。


「鏡の前で自分の顔を見ながら、幸せだ…なんて呟いて!!!!見ている私の方が恥ずかしいですわ!!!わたくしの涙を返してくださいまし!!」

「なんかごめん…ミリーユ」


この少女はミリーユ・ディアウェルド。アステルの妹である。ゲーム本編では重度のブラコンとして登場し、主人公とアステルの結婚をどうにかして阻止しようと邪魔ばかりしてくる厄介キャラであった。だがまぁ俺は恋愛には興味がないし、結婚しなければただの可愛い妹だ。そう、見た目がとても可愛らしいのである。桜のような色のふわふわとした髪、目は大きく、綺麗な黄色の瞳をしている。本編でもモテモテだった。


ーーーというか、問題はそこでは無い。

俺が1週間眠っていた?


「どういう……俺になにが……」

「あら?お兄様、覚えていらっしゃらない?」


ミリーユは心配そうに俺の顔を覗き込む。その表情は何かを懸念しているような、そんな顔をしていた。

そうして2人して黙り込んでいると、少し前に部屋に来ていた執事と思われる男が部屋に入ってきた。


「おふたりしてどうかされました…?真剣なお顔をされて……」

「クルード!!!ちょうどよかったですわ!!!実はお兄様、記憶が曖昧になってるそうですの!!」


俺を押しのけミリーユが早々に話を進めていく。そうか、この男はクルードと言うのか………


「そうですか…記憶が曖昧に……では私から説明しますね」


クルードによれば、1週間前、俺の16歳の誕生祭が、成人の儀も兼ねて行われていた。その最中に毒を盛られ、1週間昏睡状態に陥っていたという……。

本編ではそんな話、一切出ていない。そしてもうひとつは1週間前に16歳になったばかりだと言うことだ。確か本編では、アステルは17歳だった。つまり主人公と会うのはもう少し先になるはず。他にも考えたいことは山ほどある。とりあえず1人になりたいな。


「2人とも、心配してくれてありがとう。他の使用人たちにも伝えておいてくれ。今後も記憶が曖昧な部分があるから、その時は頼む。あと…」


そこまで言って、ミリーユとクルードが信じられないと言わんばかりの目で俺を見つめていることに気がついた。


「俺、なんか変なこと…言った?」

「えぇ。もちろん。今日のお兄様、何か変ですわ!普段のお兄様でしたら、『あぁ、』とか『わかった』とか!そんな言葉しか発してませんでしたもの!こんなに長いことお話ができたのですね!!!それならもっと話して下さっても良いのに……!」


ミリーユは不満そうに呟く。


ーーー嘘だろアステル、お前、無口にも程がないか。いや、そこがクールだとかで人気を寄せていたのだったか……。


その後2人には1度部屋を出てもらい、俺は1人でゆっくり、今後の計画を立てようと思った。

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