嫌われ元王子さんは勇者になったのでまったりと世界を救いに行きます

山田りょく

第一話 謁見室での一幕

「さっさと出てこいアレクサンダー!」




 部屋のドアが荒々しく開けられ僕の方に人影がやってくる。


「おはようございます。ルータスお兄様」

「ふざけるな愚弟! ルータス=フィオ国王陛下兼お兄様こくおうへいかけんおにいさまと呼べと言っただろうが!」


 そういうとルータスは僕の事を蹴ってくる。もちろん服で隠れる場所をだ。


「まあいい。愚弟にまともな記憶力など無いようだしな」

「すみません」

「そういうことだ。お前はその姿がお似合いだよ」


 僕を這いつくばらせて満足したのかルータスは本題に入る。


「今日は冒険者なんかが聖剣の素質を見てもらいに来るらしい。だが俺は冒険者なんて下賤な輩と対面などしたくない。そこでだ愚弟、わかるだろう? 今すぐ行ってこい」

「わかりましたお兄様」


 ルータスはそう言うと何も見てないかのように部屋を出ていく。


「はあ、お父様。なんでこんなにも早く死んでしまったの?」


 ルータスは第一王子、僕は第二王子として生まれた。

 第一王子として生まれたルータスは20になったばかりだ。なったばかりなのだが、お父様が急に亡くなってしまったせいで王座に付いている。


 ルータスは外面では親民的で誰にも好かれてる王様をしているが、毎日僕のことを散々殴ってくる。


 いつからこうなってしまったのだろう?


「考えても仕方ない、冒険者さんの所に行こう」


 そして僕は部屋を出た。



◇◇◇



「ルータス様、謁見室えっけんしつに冒険者が訪れています」

「わかった、通してあげて」


 そう言うと家臣の1人が扉を開ける。


「国王陛下、この度は……国王陛下?」

「王様の実弟のアレクサンダー=フィオです。国王のルータスが留守なので国王代理を務めております」

「そうでしたか! 大変申し訳ありません!」


 僕が国王代理だと知って冒険者さんは慌て出す。それを執事さんに落ち着かせてもらいようやく本題に入る。


「取り乱しました。私はサンドラと申します。この度は勇者の素質を見てもらいにやってきました」


 冒険者さんはサンドラと言うらしい。彼は聞くに巷で噂の光魔法の使い手とのこと。


 つたない身なりながらも正装に着替えてきたのだろうか、ところどころ日に焼けた肌が強調されていて不格好なところがそれっぽくてかっこいい。


(冒険者かぁ、憧れちゃうなー)


 この国を支える仕事の一つ、冒険者。ルータスは彼らを野蛮だというが僕はそんなことは微塵みじんも思わない。


「アレクサンダー様?」

「あっごめんねちょっと考え事を。執事さん聖剣持ってきてくれる?」

「今すぐ持ってこさせます」


 聖剣――――初代勇者から代々語り継がれてきた伝説の剣。この剣は勇者がこの世を去る度に使えなくなり、次代の勇者が現れるまで再び眠る。だったかな?

 他には広い心や光魔法など色々あった気がするが僕は正直そこまで詳しくない。


「アレクサンダー様、これが例の聖剣でございます」

「あぁ、ありがとう。ってうわぁ」


 執事さんはいきなり錆びてボロボロな剣を持ってくる。聞けばこれが初代勇者の聖剣らしい。僕には全く信じられないのだが、サンドラさんは目をキラキラさせている。


「とりあえずこれが聖剣みたいだね、やってみてくれる?」

「はっはい! わかりました! やってみます!」


 サンドラさんは執事さんから受け取った聖剣を大事そうにカーペットの上に置き、ポーズを取って呪文を唱え始めた。


『セイクリッド!』


(ひあっ!?)


 サンドラさんが呪文を唱えるとあたり一面が光で見えなくなる。そして3秒ほどだろうか、光が消えた先にはとてつもなく綺麗に…………錆びた剣があった。


「うぅ、うまくいくと思ったんだけどなぁ」


 よくわからないけど失敗したみたいだ。サンドラさんが泣きそうな目をしている。


「あ、あの、大丈夫?」

『セイクリッド!』『セイクリッド!』『セイクリッド!』

「ちょ、ちょっと眩しいから!」


 魔法を連射しても無駄だと分かったのかサンドラさんはしゅんとしてしまう。


「そのまま帰るのもメンツが潰れちゃうんでしょ? じゃあこれあげるよ。だから元気出して?」


 僕はそう言って腕輪をサンドラさんに手渡す。サンドラさんはとても驚きながら


「す、すいません国王様! こんなもの受け取れません! 魔力増強の腕輪なんて!」

「城じゃ使う人がいないから気にしないで……って言ってもダメそうだね。じゃあ魔法を教えてよ。それと、僕は王様じゃなくて王弟アレクサンダーだよ」


 わたわたと弁明するサンドラさんだったが、僕が譲歩する気はないとわかったのか引き下がる。


「ご名誉に預かりますアレクサンダー様。でしたら私の得意魔法である光魔法でよろしいでしょうか?」


 特に要望はないためそのまま頷く。魔法は憧れてたがお父様に禁止されていたのでワクワクしてしまう。


「ではまず光を手にイメージしてみてください。光に自分の温もりを捧げるイメージで」

「なるほど。こうかな?」


 右手から灼熱がせりあがってくるような感じがする。でも不思議と心地よさを感じる。


「手がほんのり温かかったら大丈夫です。それをそのまま放射するイメージをしながら『セイクリッド』と唱えてみてください」

「こんな感じかな? おぉ! すごいですサンドラさん!」


 サンドラさんの言うとおりにイメージすると段々と手に感覚が宿ってくる。


『セ、セイクリッド』


「こ、これが魔法?」


 眩い光が手に溢れ出てきて、それが放射していく。初めての感覚に戸惑いながらも、段々と達成感に満たされていく。


「そうですアレクサンダー様! えっ……!?」


 うまくいっていたと思いきや次はどんどん光が肥大化していく。止めようとするのだがなぜか制御が効かない。


「アレクサンダー様止めてください! 光が聖剣に吸われてます! このままじゃ倒れてしまいます!」


 聖剣が僕の光を吸って強い輝きを放って――――




「アレクサンダー様!!!!!」


 僕の記憶はここまでしかない。



――――――――――――

山田りょくです! 毎日連載はじめました!



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