わたくしの名探偵~開智探偵事務所より
立積 赤柱
第1話 名探偵登場
「こちらが
「私が開智です」
と、警部さんに向かって斜に構える男に、わたくし、
(そんな、あるわけありません!)
助け船が現れたと諸手を挙げている警部さんには申し訳ないですが、この殿方は一体何者なのでしょうか?
(わたくしが……わたくしが創り出した名探偵『
そう叫びたいところでしたが、それでは今までの苦労が、水に流れてしまうようなもの。
グッと叫びたいのをガマンして、
(突如現れた男性の調子に合わせてこの場を乗り切らなければ!)
わたくしは心の中を切り換えたく、バンッと大きく手を叩いたのでした。
「お待ちしておりましたわ。先生!」
確かに、わたくしの頭の中にある『開智幸助』は、それはまるで印度の英国紳士。健康的に日焼けした肌に高い鼻。白いスーツに身を包み……それが、わたくしの中の『開智幸助』です。
そして、それは存在しない人物……なのに、目の前に現れた紳士は誰なのでしょう。しかも設定通りの好青年。
「ソノ子君、待たせてすまない。前の事件で手こずってしまってねぇ」
「あの~ぉ、差し支えなければ……開智先生は先日から、このホテルにお泊まりではありませんでしたか?」
この野呂間な……失礼。警部は痛いところを付いてきますわ。
わたくしの設定では、開智幸助は「ひとりにしてほしい」と、用意された自室に缶詰状態になっております。事件が起こる今日も――そして、誰かが部屋を見に行っても、神出鬼没の名探偵はどこかに外出しているのでしょう……と、答えるのが筋書きです。
「警部さん。実はソノ子君に、僕が前からいるように装ってもらったのだよ。
警戒させる目的でね。だが、今回は手強いかもしれない」
(そうよ! よく判らない人物がひとり増えるのは、大変困ります)
あなたか何者なのか存じませんが、このままだと『怪盗8面相』に予告通り、宝物を奪われてしまいますわ。
(あっ! 待ってくださいまし。この男性、ひょっとしてその怪盗なのでは?)
だとしたら、『開智幸助』を名乗る怪しげな人物として、突き出して……いえ、先程のわたくしの行動、うかつでしたわ。
今からでも、「あなたは誰ですの!?」と、声を上げるべきかしら――
警部さんが、
「あの『
と、今回の依頼主である小林氏にそう言っているのが目に入りました。
(伊呂波連続殺人事件を解決したのは、結果的にわたくしなのに――)
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