敗北勇者の生存戦略。サキュバスの魔王に「ここで死ぬか私と結婚しろ」と究極の二択を迫られました。世界を救うために今日から魔王の夫になります。

ぽんぽこ@書籍発売中!!

第1話 「世界の全部をあげるから」

~前書き~

息抜きに新連載を始めました。

最初だけちょっとシリアスです。

あとはえっちです。

――――――――――――――――――


 100年続いた人族と魔族との戦争は、魔族側の勝利で終止符が打たれた。圧倒的な力を持つ魔王の前には、人族の最後の切り札である勇者マルクも敵わなかった。


 その勇者も魔王の手によって捕らえられ、現在は魔王城の地下深くにある牢屋に閉じ込められていた――。



(くそ、拘束具なんてつけやがって……)


 彼の首には、魔法の発動を封印する首輪がついている。手足には堅牢な鎖。ガッチリと拘束されていて、身動きがまるで取れない。


 そしてここへ投獄されてからずっと、ほぼ飲まず食わずだ。わずか15歳で歴代最強の勇者となったマルクといえど、さすがに疲弊しきっていた。



(……なんだ? 誰か来たな)


 何者かの気配を感じたマルクは、ぼんやりとした意識の中で呟いた。牢屋の扉がゆっくりと開く音がする。その人物は足音を立てず、静かに彼の元へと近づいてきた。


 勇者が薄く目を開けてみれば、鉄格子越しにこちらを眺めている小さな少女と目が合った。



「ふふ、元気にしておったかの?」

「ぐっ、魔王め……俺に何の用だ……!」


 言葉は弱々しくも、残り僅かな力でマルクは精一杯の威圧を放つ。だが魔王と呼ばれた少女は、少しもひるむことはない。むしろ余裕ありげに口角をニィ、と上げた。



 魔王、アイナ。

 腰まで伸びた長い銀髪をなびかせ、紅い瞳で真っ直ぐにマルクを見つめている。背は小さいながらも、胸や尻は女性らしく発達しており、大胆に胸元が開いた赤いドレスに身を包んでいた。


 そしてその背中からは、コウモリのような一対の翼が出ており、彼女が人間ではないことは誰の目にも明らかだった。



「くっ、殺すならさっさと殺せ……!!」

「ふふっ。勇者様は、こんな状況でも勇ましいのぅ」


 魔王アイナの容姿は、マルクよりも数歳は幼く見える。だが態度は随分と大人びているようだ。


 彼女はマルクの反抗的な態度を楽しむように、クスクスと笑いながら牢屋の中へと侵入してきた。牢屋の鍵や扉を開けた様子はなく、まるですり抜けるように。



「どうして俺を殺さない? 俺を生かしておく理由なんてないだろうが!!」


 勇者がこの地下牢に捕らえられてから、すでに三日が経過している。魔族としても、仇敵である勇者をただ拘束しておくなんて意味がない。これから酷い拷問や処刑をしようとしているのならまだしも。


 だが魔王はマルクの言葉が意外だったのか、一瞬だけキョトンとした顔をした。そして口元を押さえながら笑い始めた。



「うふふふ。わらわはそんな勿体ないことなぞせんよ。今日はお主に、二つの選択肢を持って来たのじゃ」

「せ、選択肢だと……?」


 マリクの背筋に冷や汗が流れる。

 悪逆非道な魔王が提示する選択肢など、ロクでもないモノに決まっている。


 洗脳されて殺戮人形に改造されるのか。

 生きたまま魔物の餌にでもされるのか。果たして――。



「一つは、命尽きるまで我らのオモチャになるか」

「くっ、やはり俺をなぶり殺す気か……」

「そしてもう一つは……」


 言葉の途中で、魔王の小さな身体から大量の魔力が放たれた。

 そして彼女を中心に嵐のような渦を巻き始める。


(ぐっ、なんて力だ……)


 それは莫大な魔力を持つ勇者でさえ、恐ろしいと感じてしまうほどの魔力の奔流だった。


 いったい、どんな恐ろしい選択を迫られるのだろうか。

 巻き起こる魔力の暴風を受けながら、マルクは固唾を飲んだ。



「それとも妾の夫になって、世界を共に支配するか――」


(……は?)


 魔王の言った意味が分からず、思わずフリーズするマルク。


「――え? 今、なんて?」

「な、なんなら世界の全てをお主に捧げてもよい! だから妾のモノになれ!」

「えぇええ!?」


 思わずマルクの口から間の抜けた声が出た。


 そして先ほどまでの余裕は、いったいどこへいってしまったのか。顔を真っ赤にさせた魔王が、すっかり上擦った声で言葉を続けた。



「さぁ勇者よ。死か、結婚か。今すぐどちらかを選ぶのじゃ!」


(えぇぇぇええええ!?!?!?)


 冷たい地下の牢屋に、長い長い沈黙が訪れた。



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